第1078話:対魔物戦闘のレクチャー
塔の村入り口階へ。
ちなみに今日もモジャ髪のチャラ男がいない。
意外と忙しいのかしらん?
フィフィとチャラ男は結構愉快な絡みになる気がするのに、つまらんなー。
からかいたい乙女心を察しろ。
「はい、注目。このフロアは外と自由に行き来できますが、一つ階段を登ると五階まで脱出口がないでーす」
「だから先ほど脱出の札を購入したのね?」
「一応ね。まーあたしが言わなくても、塔の村の冒険者の話を聞いて情報収集してれば、脱出の札は買ってたと思うけど」
執事が頷く。
正直塔のダンジョンで気味悪いのは、五階ごとにしか脱出口がないという仕様だけだ。
それ以外は低層階から五階ごとに魔物が強くなっていくという親切さなので、初心者に優しいと言える。
今は情報も充実してるだろうし、ウシ子の札を使えばお助けも期待できるしな。
「だから普通はレベル五くらいまでここで訓練して、それから上階に行くんだよ」
「でも……ここには何もアイテムが落ちてないのね」
「それなー。何事も下積みとは言うけど、収入がないのは面白くないよなー。というわけで、スライムを倒します」
あれがいい。
スライム一匹。
「執事さん、あいつを一突きで倒して」
レッツファイッ!
執事の突き! 鮮やか、スライムを倒した。
「出番がなかったわよ?」
「まあ一体だからね。今みたいに上手に倒すと、皮を『スライムスキン』として売れるんだ。コモンの素材としては割と高価な方だよ」
「そうなのね!」
「じゃあ、スライム二体いってみようか」
レッツファイッ!
執事の突き! スライムを倒した。スライムの攻撃! フィフィが食らう。フィフィのプチウインド! スライムにダメージ! オト君の攻撃! スライムを倒した。
「リフレッシュ! どうだった? 攻撃を食らった感想は」
「痛かった……」
「間合いの重要性がわかったかな? あんたは三人で一番防御力もヒットポイントも低いし、将来は回復も受け持たなきゃならない。あんな攻撃もらっちゃダメな立場だぞ? 攻撃魔法の長い射程が生かせてないから、もっと引いたポジションで」
「そ、そうね」
「でも果敢にすぐ反撃の『プチウインド』を放ったのは偉かった。冒険者に必要なのは、冷静な判断と怯まない根性ね」
「あ、ありがとう。いいところもあったのね」
「余裕であるある」
攻撃をもらって一番いけないのはパニック起こすこと。
ビビる気配なんかまるでなかったもんな。
フィフィは大丈夫。
「よし、反省点を踏まえてもう一戦いってみようか」
◇
「本当だ。階段が消えちゃったわ」
「この仕様だけは嫌だねえ。でもまあ脱出の札があればどうってことないよ」
最弱魔物群との戦闘に慣れたところで、一つ上のフロアへ上がってきた。
時間帯さえ間違えなければ、今は他の冒険者もいる。
ピンチになるって考えられんけどな。
「はい注目。ここから五階の脱出口を目指すのが目標になります。概ねレベル一〇以下で倒せる魔物ばかりが出現するけど、注意すべき魔物もいるよ。ここからはうちのパーティーで倒していくから、ガードしながらよく観察しててね」
「「「はい!」」」
「もしはぐれたら、戦闘を避けて五階脱出口を目指すこと。他の冒険者と合流して助けてもらってもいい。わかったね?」
「「「はい!」」」
注意するまでもないことだが、実際にはぐれたら冷静な判断ができるとも限らんからな。
おっと殺人蜂二体か。
薙ぎ払い、と。
「今のは毒持ちの飛行魔物。強くはないけど、序盤かなり厄介なやつだよ。射程の長いスキルが欲しくなるね。でもパワーカードには『スナイプ』っていう遠距離物理攻撃を可能にするものがあるんだ。これと全体攻撃バトルスキル『薙ぎ払い』を組み合わせると、執事さんくらいのレベルがあれば一振りで全部倒せちゃう」
「『スナイプ』は確か、攻撃属性を持たないのでしたか?」
「そうそう、執事さんよくわかってる。『スラッシュ』なり『ニードル』なり、攻撃属性のついてるカードと同時に装備してね」
フィフィが話しかけてくる。
「ねえ、貴方。質問があるのだけれど」
「ん、何だろ?」
「私が『ホワイトベーシック』を装備したんじゃダメなの?」
気付いたか。
『ホワイトベーシック』は西域街道を進み始めた時に執事に渡してあった、回復・治癒魔法が付属しているパワーカードだ。
「その心は?」
「確かに私はレベルが低くてマジックポイントが多くないから、回復役には物足りないと思うの。でも魔法力増強で『プチウインド』で与えられるダメージは大きくなるはずでしょう? 戦闘後に回復魔法が必要な時、マテウスに『ホワイトベーシック』を渡して『ヒール』してもらえばいいんじゃないかしら?」
「よし、合格。そこまでわかってるなら通常時はフィフィが『ホワイトベーシック』を装備することにしよう。これからは戦闘中にあんたが必要だと思えば、ためらわず『ヒール』や『キュア』を使うんだぞ?」
「わかったわ!」
うむ、フィフィは勘所を掴んでる。
最も戦闘経験豊富な執事がバトル時の回復を行えなくなるのは、実はリスクが高い。
でもここはフィフィの成長に期待しよう。
火力も上がるしな。
「よーし、次行こ!」
◇
「出た出た。冒険者の夢と憧れと欲望の化身、人形系レア魔物の踊る人形だよ」
「お金と経験値の化身ね?」
「フィフィはわかってるなあ。やつはすごく素早いから先手は取れないんだ。逃げない場合は雷魔法が飛んでくるから防御ね」
「「「了解!」」」
レッツファイッ!
あたしがサンダーボルトを食らうが、普通に倒す。
やったぜ! 墨珠と黄珠ゲット!
「魔宝玉を得られるのは素晴らしいわね!」
「得られる経験値が高いのもね。でも倒す手段は限られてる。特別な固有能力持ちでもない限り、レベルの低い冒険者が人形系を倒す手段は一つだけだよ」
「『経穴砕き』ですね。それも習得しているパーティーメンバーが多いほど有利です」
「あんた達は優秀だなあ。『経穴砕き』は村長デス爺が一五〇〇ゴールドで販売してるよ。装備を充実させたいのは山々だけど、踊る人形を倒せるか倒せないかで序盤のレベルアップのスピードが全然変わっちゃうんだ。すぐ元取れるから、一人は早めに覚えさせておくべき」
よしよし、皆頷いてるね。
「五階脱出口を目指すよー」




