第103話:黒の民の呪術師サフラン
――――――――――三〇日目。
今日は黒の民の村へ行く日だ。
昨日狩った洞窟コウモリのお肉を持ってきている。
うちの子達とサイナスさんを連れて……いや、サイナスさんに連れられてるんだった。
どーも族長にしては頼りないサイナスさんが苦笑する。
「肉を用意できるなら、灰の村にも卸しておくれよ」
「うーん、狩り尽くさない程度ならたまに……」
「ボス、ブックワールドなら多分サスティナブルね」
ダンテが妙なこと言い始めたぞ?
ブックワールド……本の世界のコブタマンか?
本の世界ならお肉を狩り尽くさない?
「どうしてそう思う?」
「ブックワールドはマジックパワーが次から次へアッドされるね。中のリソースも補充されるに違いないね」
ほう、魔力に敏感なダンテが言うなら当たってるのかもしれない。
「『永久鉱山』みたいな話だね」
サイナスさんが口を挟む。
本の世界は『永久鉱山』なのか?
「移住先の塔が『永久鉱山』ってことはデス爺に聞いたんだけどさ。『永久鉱山』ってそんなにあちこちにあるものなのかな?」
「ないね。よほど魔力を集める条件が整わないと。オレも仮説として知っていただけで、『永久鉱山』が実際に存在するなんてことは知らなかったんだ。知られてる限りではおそらく、『永久鉱山』は族長達の移住先だけだよ」
今の族長はあんただよ。
ただ、ダンテの言うことは面白いな。
今度本の世界のマスターである人形アリスに、事実としてどんなもんなのか聞いてみよう。
コブタ肉を狩り尽くすことがないなら、冬の食料問題が完全に解消する上、あっちこっちにお土産としてお肉を持参できる。
「黒の民って何やってるのかイマイチわかんないんだけど。あたし今日役に立つかなあ?」
「オレだって黒の民が何考えてるかなんて知らないよ。でもまあ精霊使いユーラシアは今回の掃討作戦の花だから」
美しい花だから。
おだてられたから良しとしよう。
「他所のやってることはよくわからん、で片付けちゃってたのが今までだとするじゃん? 理解できるまで交流を深めるべきなのかな、と思い始めたんだよ」
「ほう。昨日のドーラを発展させたいという考え方の一環でか?」
「うん。三日前の掃討作戦で、サフランって名前の呪術師の女の子と友達になったんだ。異国の調味料を一緒に作って試食しようってことにしたから、お肉持ってきたの。交流交流」
「こんなに大量にかい?」
サイナスさんがあたしのナップザックを叩く。
「評価を多くの人に聞きたいからね」
「サフラン、か。聞いたことのある名前だが……」
サイナスさんが少し首をかしげる。
サフランもまた、黄の民のフェイさんみたいに有力者の子だろうか?
もっとも掃討戦には各部族の代表が集められたんだから、そうであっても全然おかしくないのだが。
作戦自体が秘密だったこともあり、大勢に知らせるわけにはいかなかったろうし。
「サフランはパーティー出るみたいなロングドレスで、掃討戦に来てたんだよ」
「魔物と戦うのにか?」
「うん。理由聞いたら、灰の村に行けと聞かされただけだって」
「黒の民は秘密主義なとこあるけど、まさか参加者に内容を打ち明けていないなんてことはないだろうしなあ」
とゆーか黒の民に何があるのか知らされてなかったのかもしれない。
連絡係誰だ?
「でも最後のボス戦でさ。バッチリのタイミングで支援魔法くれたんだ」
「へえ、センスあるなあ」
黒の民の村は黄の民の村の東隣に位置する。
カラーズ各村の緩衝地帯から東北へ行くと、段々黒の民の村の門が見えてきた。
「……理解できるまで交流を深めるべきって、ユー様言ってましたよね」
「言った。しかしそれはウソだ」
村の入り口の門の上に大きなドクロが乗っているのだ。
いや、これはこれで個性的ではあるけど、ドクロの下潜るのは気が滅入るだろ。
一〇〇年経っても黒の民を理解できる気がしないわ。
「これはさあ、訪問者を呪ってるの? こういうノリの村なの?」
「オレに聞くなよ」
サイナスさんも嫌そうな顔してら。
黒の民なりのエンターテインメントなのかなあ?
門から村の内部に足を踏み入れる。
でもどうしたことだろう、人っ子一人見当たらない。
寂れた印象はなく、生活感がないわけでもないのだが?
「ねえ、これあたし達が来ること知ってるんだよね?」
「そりゃ知ってるよ。連絡してるもの」
「怪奇、ドクロに全てを食い尽くされた村」
「縁起でもない」
サイナスさんも困惑気味だ。
でも縁起でもないのはあたしのせいじゃないわ。
じゃあこうだ。
「たのもう! 灰の民の精霊使いユーラシアとその従者が来たぞお!」
「従者は君だからな?」
人々が家の窓やドアからそっとこちらを見るが、出てこようって気はないらしい。
いや、向こうの方から誰か一人来たな。
「いらっしゃい、ユーラシアさん」
「こんにちはー。サフランって、これが普段着なんだ?」
「そうですよ」
三日前と全く同じ黒のドレスで現れた呪術師サフラン。
少なくとも掃討戦をパーティーと勘違いしていたわけではないことが判明した。
「黒の民って、皆こういう格好なんだっけ?」
「いいえ、アターシは村で最もファッショナブルかつ華やかな少女と言われてますの」
自分で言うのか。
しかしファッショナブルかつ華やか?
ファッショナブルは理解できるにしても、華やかとは?
黒一色のどこが?
「村の衆は皆、フードを被っていますから」
「比較論かーい!」
黒の民が皆黒いということはわかった。
「まあいいや。族長のとこ案内してくれる? うちんとこの族長が、この前の戦後処理のことで話があるんだそーな」
「アターシの家ですわ。どうぞこちらへ」
案内されつつ聞く。
「サフランって族長の娘なの?」
「姪ですわ。族長である伯父とは、一番血の繋がりが濃い親族になりますの」
「へー。じゃあサフランが将来の族長になるんだ?」
「どうでしょう? アターシの夫になる男性が、ということのほうがありそうですけれども」
なるほど、黒の民はそーゆー族長の継承の仕方をするのか。
灰の民は前族長による指名で決まるけどな。
「ここですわ」
「ほへー」
またしてもドクロだ。
うちの子達が困惑している。
大きな屋敷だが、どーして玄関をドクロで飾りつけるんだよ。
趣味、信仰、何となく、正解はどれだ?




