第104話:試食だ、早い者勝ちだ!
「お邪魔しまーす」
黒の民の族長宅である、大きな屋敷の奥からぬっと現れる黒いローブとフードの男。
脅すつもりはないのかもしれんけどこえーよ。
「私が黒の民族長クロードである。よしなに」
「新しく灰の民の族長になりましたサイナスです」
「こちらが先の掃討戦で勇名を馳せた精霊使い、ユーラシアさんですのよ」
族長クロードさんがフードを少し上げ、頭を下げる。
「サフランを救っていただいたとか。礼を言う」
「こっちこそ抜群のタイミングでいい魔法もらったんだよ。『マナの帳』ってやつ。最後のボスはあれがあったから倒せたようなもん」
サフランもクロードも恥ずかしそうにモゾモゾ動く。
この二人も褒められ慣れてないみたいだな?
もっとも黒の民がストレートに他人を褒めることってない気がする。
偏見かな?
「じゃ、あたしとサフランは調味料の研究してるから」
「調味料の研究?」
クロードさんが頭の上に『?』を浮かべたような仕草をする。
何か黒の民のコミュニケーション方法がわかってきたぞ。
表情がフードで隠れてる分、ジェスチャーで表すんだな?
「こちらへどうぞ」
あたしとうちの子達がサフランの部屋に導かれる。
「サフランの私室というか、研究室なのかな?」
ギルドの『初心者の館』を思い出すな。
壺とかガラス容器がいっぱい。
あと香辛料だろうか?
独特の臭いがする。
「ふーん、単純に酢だけ作ってるんじゃないんだ?」
「酢は外にある醸造ラボで作ってるの。アターシの酢は黒の村中で使われてるのよ」
「つまり酢は商品レベルとゆーこと?」
「そう……とも言えますわね」
「外に売れよ!」
「えっ?」
キョトンとするサフラン。
少なくとも酢を黒の民の村全体で使わせるだけの、品質の安定性と量産技術はあるんだな。
他所に売るためにはもう一工夫必要とするだろうが……。
「ま、商売の話はあとだ。まよねえず作ろっか」
菜種油と塩、卵、カラシの種を取り出す。
「乳鉢かすり鉢ある?」
「ありますわよ」
「おーさすが研究室」
カラシの種を擂って粉にし、酢と卵の黄身と塩を加えて混ぜる。
とにかくよーく混ぜる。
少しずつ油を足してさらに混ぜていくと、とろとろになった。
完成か?
ペロッと舐めてみる。
「うん、悪くない」
「あっ、すごくまろやか! ツンと来ないのね」
ここで取り出しましたるは、洞窟コウモリのお肉。
「……お肉?」
「お肉だよ。調味料は実際につけて食べてみないと真価が見えないでしょ。焼くとこある?」
台所に案内されたので焼いてみた。
まよねえずをつけて食べてみる。
「うん、いいじゃないか」
「あっ、おいしいおいしい!」
「族長達にも食べてもらおう」
クロードさんの表情はフードのせいでよくわからないが、サイナスさんの顔は明らかに曇っている。
話し合いがうまくいってないのが手に取るようにわかるわ。
「できました。食べてみて?」
サフランが口元に手を当てて驚いてるが、こーゆー時はあえて空気読まずに特攻するのがセオリーだぞ?
「ふむ、美味い!」
「これはイケるな、ユーラシア」
族長二人が大絶賛だ。
クロードさんが問う。
「この白いソースは何だね?」
「変わってておいしいでしょ? 『まよねえず』とゆー異国の調味料だよ。お肉や生野菜によく合うんだけど、酢がないと作れなくて」
「酢?」
「そうそう。この前の掃討戦の日にサフランと話して、酢を造ってると聞いたんだ。だから今日、まよねえずを試作してみようってことになったの」
「「ほう」」
族長二人が感心してるわ。
まよねえずも一度口にしたら欲しくなっちゃうだろ。
これも売れそうだな。
「住民皆の意見を聞きたいんだよ。いいかな?」
急ぎサフランに追加の卵を買ってきてもらい、先ほどの二〇倍くらいの量のまよねえずを作る。
ここで難問発生。
「むーん? お肉焼くのが大変だな」
「蒸し肉じゃダメですか? アターシの窯、蒸すのだったらかなりの量を一度に可能ですが」
「それだ! ナイスサフラン!」
うおお、デカい窯だ。
金網に一口サイズの肉を並べ、湯を沸かして蒸し焼きする。
いや、これ窯内部の温度がかなり高くなるから、蒸し焼きじゃなくても小さい肉なら余裕で熱通るわ。
二〇分後には完了。
よーし、準備はできたぞ。
「お肉の試食だぞーっ! 早い者勝ちだ!」
村一番の広場で大声を張り上げる。
お肉はどこでも御馳走だ。
疑いながらも、あちこちから人々が出て集まってくる。
「……試食、とはタダなので?」
「タダだよ。でも感想を聞かせてね。こっちの白いタレつけて食べるの」
黒フードの男に答える。
とはいっても黒フードの男以外は黒フードの女であり、固体識別には何の役にも立たないんだが。
半信半疑かな?
まあ食べてみそ。
「ほ、ほっぺとろける……」
「何じゃこれ、美味い……」
黒の民の村では、新鮮なお肉自体が滅多に食べられるものじゃないだろう。
フルーティーな芳醇さで定評のある洞窟コウモリのお肉、かつそれと相性のいいフレッシュなまよねえず。
不味いはずがあるだろーか?
「こらこら、押さない押さない! 一列に並んで! まだ出てこない人、いいのかな~なくなっちゃうぞお~!」
お肉に並ぶ黒い列。
人がアリのようだ。
「おいひい、おいひい!」
「生涯で一番美味いものを食った……」
「お前もうどけよ! いくつ食ってんだ」
かなりあった肉だが、あっという間になくなった。
「しゅ~りょ~、今日はおしまいっ!」
不平を漏らす人もいるが、多くはそのまま諦めて帰ろうとする。
「帰る人ちょっと待った! 終わりなのは『今日は』だよ」
皆が頭の上に『?』を浮かべたような仕草をする。
やっぱそれって黒の民に共通なのな。
おそらくフードのせいで表情が読みづらいから、ジェスチャーによるコミュニケーション法が発達したんだろうけれども。
「まず、お肉食べた人に聞く。どうだった?」
美味い、おいしかったという声の中、白いソースがよかった、肉質を引き立てるという意見も多い。
真に美味いものを食べた時、ボキャブラリーは貧困になるものだな。
「あの白いタレはここにいるサフランの作った酢に、異国の知識を加味してできた調味料なんだよ。あれは売れる!」
当惑する黒の民達。
話がどこに行くか見えないんだろう。
自論を披露するチャンスだ。
黒の民を説得すべし!




