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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1022話:隙なんかねーよ!

「サイナスさん、こんばんはー」


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは』

「今日ねえ、楽しかった!」

『君はいつも楽しそうだけれども』

「毎日が楽しいって素晴らしいねえ。あたしが模範的美少女だから、神様がサービスしてくれるんだろうなー」

『内容を聞くと、無邪気に楽しんでていいのか? というのがよくあるけれども』

「つまり邪気に塗れて楽しんでればいいってこと?」

『違うよ!』


 アハハ、冗談だとゆーのに。

 模範的美少女は品行方正に楽しむとゆーのに。


「今日サイナスさんに会うまでに、ファイアードラゴンのクエストがあったんだよ」

『午前中だな? しかしファイアードラゴンは、特殊な場所に生息しているんじゃなかったかい?』

「よく知ってるね。特殊っていうか、魔境でもファイアードラゴンばっかりいるエリアがあるんだよ。何でだろ? 火ばっかり吐いて危ないからかな?」

『かもしれないな。住み分けできる余地がないと共存しにくい』


 レッドドラゴンとアイスドラゴンとサンダードラゴンは住み分けできる余地があるってことか。

 そーいやアイスドラゴンは魔境でも寒いところにいる気がする。

 ちょっとずつ好む環境が違ってるんだろうな。

 ファイアードラゴンのエリアに謎経験値君もいるって話だったが、今日は見なかった。


『しかし何の依頼だったんだ? 退治ではないんだろう?』

「ファイアードラゴンは燿竜珠っていう魔宝玉をドロップするんだよ。それを持って来いってやつだった」

『ああ、アイテム調達の依頼だったのか』

「でね? この依頼の難しいところは、依頼者が同行させろって言ってきたことなんだよね」

『高レベル者だったのか?』

「いや、魔道杖の職人なんだ。まるで戦闘素人ってことはなかったけど、レベルは一桁だったな」

『危ないじゃないか』

「危ないねえ。ファイアードラゴンって普通のドラゴンと違って、群れで出てくる性質があるんだよ。一体だったら向こうにターン渡さずに倒せるけど、複数だとそうもいかないじゃん?」

『……』


 あれ? 乙女のドラゴン事情を知って呆れてるような気がする。

 サイナスさんにはあたしがドラゴン倒すところは見せてないからか。


『君が楽しかったってことは、その杖職人がこんがり焦がされたってことなのか?』

「失礼だな。もし丸焼けになってたら、指差して大笑いするけれども」


 おゼゼがかかってる依頼なんだから、あんまり無責任なことはできないんだよ。

 あたしの信用に関わるだろーが。


「そのおっちゃんが超絶美少女超絶美少女って褒めてくれるんだ。となると超絶美少女としては期待に応えないといけないじゃん?」

『ユーラシアは案外おだてに弱いよな』

「ニュアンスが違うな。褒められると頑張っちゃう子なんだよ』


 アハハと笑い合う。


「依頼としては万全以上の満足感を与えて完了なわけよ。で、おっちゃんがお礼として杖を作ってくれることになったんだ」

『誰かへのプレゼントかい?』

「プレゼントと言えばそうかな。宮廷魔道士長さんに見せようと思って。ドーラだと杖の需要なんて微々たるものじゃん? 帝国で売れないかなと思ってさ」

『あっ? 商売ネタなのか』

「まあ。技術のある人のところには、ちゃんと仕事が行って欲しいんだよねえ。ドーラの魔宝玉は安いから、帝国の職人が作るのと五分以上の勝負になるでしょ」


 帝国なら魔道杖の需要があるかって言われると疑問ではある。

 魔道士部隊がドーラ製の杖を正規品にすることはないだろう。

 でも宮廷魔道士達が好みで注文出してくれるってことはあり得るんじゃないかな。


『君は隙あらば商売を挿んでくるなあ』

「隙なんかねーよ!」

『どうしたんだい? 急に不機嫌になったね』

「午後はさ、カラーズのあとにカトマス行ったんだよ」

『悪役令嬢を笑いの神に献上するという至上命題か?』

「サイナスさんはわかってるなあ。今日にはカトマスに到着するだろうと見てて、そこまではあたしの思う壺だったわけだよ」

『思う壺って』


 なのに何故かあたしがスリに狙われる展開になったとゆーことを話す。


『以前も似たようなこと言ってたな』

「どーしてカトマスのスリはあんなに見る目がないんだろ?」

『スリはひどい目に遭ったのかい?』

「直後に悪役令嬢の手持ちのポーチをひったくろうとしたやつがいたんだ。だからスリを放り投げてぶつけた」

『ほう? 結構な見物だったんじゃないか?』

「みたいだね。カトマスの人達大喜び。かなりおひねりもらっちゃった。儲かったからよかった」

『ハハッ。じゃあ不機嫌にならなくてもいいじゃないか』

「うーん、舐められるのは面白くないんだよなー」


 その辺の機微はわかっておくれ。

 乙女のデリケートなところだよ。


『悪役令嬢はどうだったんだい?』

「カトマスのひったくりを体験させてやることはできたから、まあ目標は達成かな」

『スパルタの教育方針』

「会った時面白かったんだよ。貴方昨日と一昨日来なかったのは何故なのっ! って」

『ははあ、待ち望まれてたのか? 意外だな?』

「とゆーか知り合いのいないサルの国じゃん? 相当つまんなかったんだと思う。見るからにストレス溜まってたなー。エサやればオーケーだよ」

『大分デレてきたんだな?』

「大分調教してきたんだよ」


 エンターテインメントを押しつけてやるのだ。


「あんたどうやって暮らしていくんだって話になって、冒険者やるって言いだした」

『誘ったわけじゃないんだな?』

「向いてないから誘わないよ。悪役令嬢自身が冒険者って言い出したのは、あたしも意外だったんだ。でも執事さんのレベルは二桁あるし、もう一人下男が前衛向きの固有能力持ちなんだよね。問題なく冒険者は可能」


 一流の冒険者を目指しているわけじゃない。

 生活の足しになるだけの収入があればいい、くらいのスタンスなら全然平気だろう。

 経験積んでレベル上がることはいいことだしな。


「楽しみが増えたよ。明日も行ってくる」

『デスさんから転移装置が届いてるぞ。アレクが預かってる』

「ほんと? 午前中に取りに行くよ」


 デス爺にもお礼しないといけないな。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日はカラーズへ転移の玉もらいに行こうっと。

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