第1020話:私も冒険者になれば
「あれえ? ヨブ君久しぶり」
集まって来たやじ馬の一人が、カトマス在住の元『アトラスの冒険者』ヨブ君でした。
何で自宅警備員が昼間ほっつき歩いてるんだ?
「どうしたの? 自宅警備員が昼間ほっつき歩いてるのは珍しいね」
「相変わらず君はひどいな」
「心が清らかだから、思ったことがそのまま口に出ちゃったわ」
「心の中までひどい」
アハハと笑い合う。
あれ、悪役令嬢フィフィもちょっと興味ある?
ヨブ君は現在自宅の警備を疎かにしている自宅警備員だぞ?
「で、ヨブ君が出歩いてるのは何事なん? あたしの活躍に引き寄せられちゃった?」
「ああ、何か揉め事かと見に来たら精霊使いだった」
「何だその原因を知って納得したみたいな言い方は」
あたしが好きで揉め事起こしてるわけじゃない。
「そちらの御令嬢は?」
「ただの悪役令嬢だよ」
「美しいお嬢さんに悪役なんて失礼な」
「あら、ドーラのおサルさんにしては躾が行き届いているわね。よろしくてよ」
「こら、あんたはまたサルって言う。あんたが芸した時、おゼゼを落としてくれるかもしれないおサルだぞ? 高飛車なことは思っててもゆーな」
働いてないからおゼゼも持ってないであろうヨブ君が投げ銭してくれるとは思わないけれども。
「気をつけるわ。ハンサムだものね」
「え?」
こーゆーのがタイプなのか?
いや、ヨブ君の見てくれは悪くないか。
「才能にかまけてサボってる昼寝イモムシだぞ? 悪いこと言わないから、男を見る目を養いなさい」
「才能があるの?」
「風魔法使いなんだ」
「まあ! 魔法の才能にまで恵まれてるなんて素敵!」
あれ、見てくれと才能に惑わされちゃうのか。
わからんでもないが、人間もっと大事なことはたくさんあると思うよ。
一方で確かに魔法使いは貴重ではある。
特に固有能力をあまり調べようとしない帝国では、最初から魔法を使えるような強い能力発現者じゃなければ、見逃されちゃう可能性がドーラ以上に高い。
魔法使いを尊ぶ傾向にあるのかもしれないな。
「ハハッ。ともかく俺にこの大輪の花のようなお嬢さんを紹介しておくれよ」
「あんたもかい! 悪役令嬢だぞ? 悪いこと言わないから、女を見る目を養いなさい」
二人とも舞い上がって聞いちゃいねえ。
面白いからまあいいか。
「カル帝国エーレンベルク伯爵家に連なる血筋のフィフィリアだよ。父ちゃんが失脚し、伯爵家当主にも見捨てられてドーラに渡ってきたんだ」
「何という悲劇! 憂愁があなたの美を引き立てるのか」
「ああ、ヨブ様……」
「おサルさんがヨブ様に進化したのはビックリだよ。でもいい加減目を覚ませ」
引きこもりが元貴族を養うなんて、どう考えたって不可能だろーが。
ハッと真顔になる二人。
「悪役令嬢は塔の村に身を落ち着ける予定なんだ」
「塔の村? 西の果てだな。冒険者の稼ぎ場として最適なんじゃないかと近頃話題の?」
「うん、事情があってね。悪役令嬢には塔の村しかないというか」
「つまりレイノスでは大輪の花に泥水をかけようとする不埒な輩がいるということか」
「表現がムダにかっちょいいな」
「ああ、ヨブ様……」
「おいこら、勝手にロマンスを始めんな」
この二人は合わない気がするけどなー。
「ヨブ君も本気になったら塔の村においでよ。お勧めだよ」
「……わかった」
ヨブ君も才能あるんだから、明日から本気出した方がいいよ。
冒険者に本気なのか悪役令嬢に本気なのか、その辺はさておき。
「じゃーねー」
「待った、君達今からどうするんだ?」
「カトマスも軽く一回りしたから、マルーのばっちゃん家行こうと思ってる」
「『強欲魔女』の館か」
「『強欲魔女』?」
悪役令嬢に説明する。
「ドーラ一の鑑定士だよ。あんたの一行の中では下男の人が唯一固有能力持ちなんだ。特定の職業に有利になる場合があるから、何の能力か知っておきたい。でもあたしじゃ、何の能力かまではわかんないんだよ」
「まあ! オトも魔法を使える素質があるんですの?」
「魔法系ではないだろうけど」
典型的な属性魔法使いじゃなくても、魔法使える固有能力は多いから何とも?
「じゃ、ヨブ君も頑張れよ」
「期待してお待ち申し上げますわ」
今のセリフは悪役令嬢じゃなくて悪女っぽいぞ?
ヨブ君も喜んで帰ったし。
あ、ちょうど下男の人だ。
あたし達を探してたっぽい?
「お嬢様、お疲れではないですか?」
「大丈夫よ。それよりもオト、ついておいでなさい。あなたには才能があるそうです。今から見極めてもらいに行きます」
「さ、才能? オレが?」
「固有能力ってやつだよ」
魔女の館へゴー。
◇
「こんにちはー。ばっちゃん、この人見てやっておくれよ」
「はいよ。……そちらが悪役令嬢かい?」
何か言い出しそうになる悪役令嬢を制する。
すぐ噛みつこうとすんな。
ドーラの嫌われ者ナンバーワン直接対決を間近で見られるのは、すげえ楽しそうな気はするけれども。
「ばっちゃんが固有能力持ちじゃない人に興味向けるの、珍しいね?」
「アンタほどじゃないが、素因の数が多いんだよ」
「ふーん」
「どういうことですの?」
「簡単に言うと、開花していない才能の数が多いってこと」
ハハッ、嬉しそうじゃないか。
でも固有能力なんて発現してなきゃ何の役にも立たない。
それに世の中結局固有能力よりも、やる気と根性とゴリ押しだぞ?
「ハーブティーをどうぞ。身体が温まりますよ」
「ニルエ、ありがとう」
「いただきますわ」
ほっこり。
さすがの悪役令嬢でも、『いい子』ニルエには悪態を吐けないとみえる。
『いい子』って万能だなあ。
「で、連れの男は『頑強』だね。防御力と魔法防御が高い。レベルが上がればスキルも覚えるだろう」
「なかなかだね」
冒険者ならば前衛盾役向きのいい能力だ。
しかし当面使える状況がなさそう。
「ばっちゃん、ありがとう。これお礼だよ」
「おや、そうかい?」
透輝珠を渡す。
あれ、魔宝玉には興味ある?
綺麗だもんな。
「魔宝玉ですの?」
「透輝珠だよ。この子はね、世界一の魔宝玉狩りの名人なんだ」
「やだなーばっちゃん。そんなこの世に隠れなき本当のことを」
「私も冒険者になれば魔宝玉を稼げるのですね?」
「「「「えっ?」」」」
何を言い出すんだこの悪役令嬢は。
簡単に冒険者が務まるとでも……執事と下男がいれば可能だな。




