第1017話:ドーラの山ザル
フイィィーンシュパパパッ。
「カトマスへようこそ! お、美少女精霊使いじゃないか」
「こんにちはー、イケてるおっちゃん!」
カトマスはいつも賑やかだな。
転送先の場所から少し離れる。
「扇で口隠してる悪役令嬢来なかった? お供含めて六人組の」
「いや、それらしい団体さんを見た覚えはないな。帝国貴族かい?」
「えーと、どうなんだろ? 在ドーラ大使として赴任している帝国のルキウス第四皇子の婚約者だった子だよ」
「バリバリの貴族じゃないか」
「ところがその子の父ちゃんがやらかして爵位剥奪。プリンスとの婚約も破棄されちゃったんだ。今身分が貴族なのかはよくわからない」
「婚約破棄……ふうん、気の毒な身の上だな」
イケてるおっちゃんの表情が同情気味になる。
「薄幸の令嬢だな。可哀そうに」
「いやー、実際に本人に会うと同情する気なくなるな。ド田舎の山ザルの、メッチャ上からくる子だよ」
「おいおい、築き上げた美しいイメージを返せよ」
アハハと笑い合う。
「で、悪役令嬢がカトマスに来る理由は?」
「そんなおもろい経歴の子がレイノスで暮らせるわけないじゃん? 新聞記者の餌食になっちゃう」
「つまり逃げてくるのか?」
「うん、塔の村に行けって言ってあるの」
「ええ? 西の果てかよ。またどうして?」
「性格に角があり過ぎるから、西域街道を転がして丸めてやろうと思うんだ」
鬼だ、鬼がいるって顔してる。
親切だとゆーのに。
「まだカトマスまで来てないんだな。三日前リレイヤだったんだ」
この前会ってから三日。
一日雨で移動できない日があったので、今日あたりカトマスに到着すると思っていたのだが。
リタイヤされるとつまらんなあ。
「ま、いいや。おっちゃんじゃーねー」
「おう」
先にばっちゃん家行ってくるか。
魔女の館ことマルーさん家へ。
「こんにちはー」
「おや、アンタかい」
「いらっしゃい、ユーラシアさん」
嬉しそうな『強欲魔女』マルーさんとその孫ニルエ。
「これお土産ね」
お肉と骨を渡す。
「いつもありがとうよ。ところで今日はどうかしたのかい?」
「悪役令嬢の様子を見に来たんだよ」
「「悪役令嬢?」」
在ドーラ大使プリンスルキウスの元婚約者で、没落してドーラに流れてきたことを簡単に説明する。
「ふん、塔の村へ行く途中かい。どんな子だい?」
「とんでもなく気位の高いお嬢だよ。ドーラの嫌われ者ランキング不動の一位を独走するばっちゃんを脅かす逸材」
「そんなランキングを許可した覚えはないねい!」
アハハと笑い合う。
「ユーラシアさんが悪役令嬢の様子を見に来たとは? 放っておけばいいような気がしますが」
首をかしげるニルエ。
ニルエの言う通りではあるんだけど。
「ばっちゃんやニルエが興味持つような対象じゃないんだけどさ。どこ行くにも馬車使ってたような子が、強歩三日の距離を歩いて旅するって、面白そうだと思わない?」
「ははあ、話のネタにするんだねい?」
「うん。早くに脱落してレイノスに逃げ戻るんじゃつまんないから、ちょっと手を貸してやろうかと思って」
「ユーラシアさんは優しいですね」
「優しいんだよ」
ニルエ後半しか聞いてなかったかもしれないけど。
「そろそろカトマスに辿り着くんじゃないかと予想してたんだけどな。様子見てくるね」
「またおいでよ」
「さようなら」
マルーさん家を後にする。
◇
「何だ、もうすぐ近くまで来てるじゃん」
『遊歩』で飛んで様子見に行ったら、休憩している一行を発見した。
やはり読み通り今日はカトマス泊まりのようだ。
「やあ、こんにちはー」
「あっ、ドーラの山ザル!」
「おいこら。何がどうして『おサルさん』から『山ザル』にランクダウンしたんだか、キリキリ吐かせるぞ?」
「貴方昨日と一昨日来なかったのは何故なのっ!」
「ははあ、あたしを待ってたということか。この寂しがり屋さんめ」
一昨日は雨だったろーが。
相当ストレス溜まってるみたいだ。
イライラの持って行き場がないんだろう。
雰囲気がよろしくない。
使用人達もビクビクしてるしな。
「ごめんよ。あたしも忙しかったんだ。昨日は皇帝陛下の相談役のリモネスさん、宮廷魔道士長ドルゴスさん、近衛兵長ヴォルフさんを接待してたんだよ。具体的にはドーラ各地の案内」
「リモネス様? 『真実を見抜く帝国の目』の?」
「そうそう。様付けなんだ? リモネスのおっちゃん、貴族じゃないでしょ?」
意外だな。
平民は平等に見下すと思ってたわ。
悪役令嬢が話す。
「リモネス様のお口添えのおかげで、父は死一等を減じられたと聞いています。あの方には恩義があるのです」
「知らんところにドラマが」
素行が悪かったとはいえ、任務の失敗で死罪はムリがあるもんな。
おっちゃんグッジョブ。
執事が聞いてくる。
「あの、失礼ですが、ユーラシア様はドーラでどのようなお立場の方でいらっしゃるのですか?」
「ただの山ザルだぞ?」
笑い。
説明しとくか。
「あたしは『アトラスの冒険者』なんだ」
「『地図の石板』に導かれて旅するという、伝説の?」
「帝国では現役の『アトラスの冒険者』いなくなっちゃったから伝説扱いかもしれないけど、ドーラでは普通にいるんだよ。自分の意思でなれるわけじゃない、転送魔法陣で飛べるってところは特殊だね。でもやってることは請けた依頼をこなしたり、手に入れたアイテム売って稼いだりだよ」
この執事は知識もある。
『アトラスの冒険者』も知っている。
使えるなあ。
「どうしてカル帝国の皇族やドーラ政府の重鎮と親しいのですか?」
「レベルが上がると、難しいお題を回されるようになるんだ。すると偉い人と関わる機会が増えてきちゃうの。例えば『カル帝国皇宮』ってクエストをもらって、帝都へ行けるようになってさ。ウルピウス皇子とはカレンシー皇妃暗殺未遂事件を通して知り合ったんだよ」
「「「「「「えっ?」」」」」」
ハッハッハッ、聞きたかろう。
この事件が起きたのは、あんた達が船に乗ってる時だからな。
「今日はカトマスまでの予定だったかな?」
「はい、そうです」
「じゃ、話しながら行こうか。三〇分くらいで着くからね。サービスでリフレッシュ!」
かなりくたびれてたので体力を回復させておく。
いい目の色になったわ。
ウルトラチャーミングビューティー及び興味津々の一行出発。




