第1009話:パラキアスさんとリモネスさんがけしかけようとしてくる
「ちょっと待ってくれ。予が次席執政官職にあった時も、海外遠征で権威を見せつけるという話はあったが……」
「その時は対ドーラ一色だったと思うけど、えらく中途半端な決着だったじゃん? だから新しい獲物を探してるんじゃないの?」
この辺はもちろんプリンスルキウスは理解してるはず。
わざわざ『海外遠征で権威を見せつける』って言い方をしたのは、近衛兵長さんや魔道士長さんに理解させるためだろう。
「もし帝国海軍がソロモコを征服すると?」
「大問題の部分なんだよなー。当然フクちゃんは尊敬の感情を魔王に送ることができなくなるから、魔王が怒って、あるいは悪感情を得るために戦争になっちゃう」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
「魔王軍対カル帝国になるか魔王軍対全人類になるか、どういうストーリーを選ぶかは魔王の嗜好次第だけど」
「一大事じゃねえか!」
「だからそう言ってんじゃん」
オルムスさんが言う。
「何とかならないのかい?」
「そりゃあなるけど、あたしが勝手に帝国軍と遊んだってあとから文句言われても困るじゃん? 一応断りを入れておこうかと思って」
「具体的には?」
「美少女精霊使いのごまんとある長所の一つ説得力を使って、帝国海軍にお帰りいただく」
「言いくるめるんだね? ダメなら?」
「聞き分けがないなら艦隊を沈めちゃう」
皆さんが唖然としてるけどしょうがないじゃん。
あたしだって帝国と揉めるのに得がないことはわかってるわ。
でも悪いのは状況も理解せんと無用な戦争を仕掛けようとする帝国だわ。
姿を隠して交渉するなんてできないしなー。
パラキアスさんが言う。
「ソロモコが襲われることは決まってるのか?」
「わからないけど、あたしのところにクエストが振られたこと、信頼する占い師がおっちゃん魔道士長さん兵士長さんに話せって言ったことから判断すると、最終的にソロモコ戦になっちゃうんじゃないかと思う」
「ふうん」
え、何なの? 思わせぶりだね。
これ取っかかりにして誘導しろって?
了解。
「帝国がソロモコを侵略するなら、代わりに何か魔王を納得させるものを差し出さなきゃ収まりそーにないんだよね」
「ムリだろう、そんなものを用意することは」
「ならば帝国が侵攻計画を諦めてくれると一番簡単なんだけど。近衛兵長さんの方から献策できないんだ?」
「近衛兵は宮内省の管轄なのです。軍務省管轄の軍とは指揮系統が異なりますので何とも……」
「うーん。おっちゃんも魔道士長さんも意見できる立場にない?」
「「ないですな」」
「『アトラスの冒険者』のクエストが出た段階なら、最早侵攻計画は止められないと見るべきだ」
「パラキアスさんもそう思う? 困るなー。帝国は植民地増やさなきゃいけない理由があるの?」
プリンスとリモネスさんが代わる代わる言う。
「積極的な理由は……ないと思う」
「強いて言えば、ドーラ植民地を失ったからですかな。国内外に威信を示す意味で、武力の行使が必要だというのはわからなくもないです」
「そーゆー理屈だと、ドーラの独立が帝国にとって失敗だったみたいじゃん。友好的な独立だよ? 帝国の利益のためにドーラを独立させたって形に持ってけば、誰も損しないよ? こっちだって対帝国貿易を活発にしないと国が立ちゆかないんだから、お互いに儲けりゃいいじゃん」
「「……」」
これはドーラ側の共通認識だが、魔道士長さんと近衛兵長さんにとっては新鮮な考えだろう。
リモネスさんはえっちな『サトリ』の能力で把握してるんだろうけど。
「帝国の軍事的な方針って、皇帝陛下が決めてるの?」
あたしが視線を向けた魔道士長さんが答える。
「げ、現在はおそらくドミティウス主席執政官が……」
「間違いないんだ?」
全員が頷く。
「どうして第二皇子は戦争したがるの? 迷惑なんだけど?」
第二皇子が悪いと決めつけたったがどうだ?
反論がないからもっと言っちゃうぞ?
「対ドーラに対してはバアルが唆してたかもしれないよ? でも今回の判断は違うでしょ。戦争はすげえおゼゼ使うし人死にも出るから、やんなくてすむ場合はやんない方が得だぞ? そんなこともわからんのかな?」
静まり返る大使室。
「まー第二皇子が悪いのか第二皇子の側近が悪いのか知らんけど、何とかしないと国民が不幸になるぞ?」
こんなとこでいい? と思ってチラッと見たら、パラキアスさんがもっとやれって顔してる。
マジかよ。
これ以上になると、陛下逝去後の次の皇帝のことに触れざるを得ないんだけど?
「精霊使い殿は、誰がカル帝国のトップならいいと思われますかな?」
リモネスさんのキラーパスキター!
ドーラ首脳サイドの意を汲んだんだろう。
リモネスさんもぶっちゃけろって考えみたい。
「あたしが見知ってる帝国の皇位継承権保持者はプリンスルキウス、ウルピウス殿下、リリーの三人だけだよ? 三人の中ならそりゃあダントツでプリンスだわ。他人の意見を容れる度量があるし、高レベル『威厳』の効果で少々揉めても顔出せば治まっちゃうでしょ」
「ウルピウス殿下は?」
「悪くないよ。経験を積んで人の使い方を覚えれば」
皇帝陛下が亡くなるまでに、経験を積む時間がないということはわかるだろ。
大きく頷くリモネスさん魔道士長さん近衛兵長さん。
パラキアスさんと視線が合う。
御満足のようですね。
あとは任せたよ。
パラキアスさんが言う。
「大使。帝国政府宛に、外征を控えて内政と貿易に注力する旨の上申書を提出していただけませんか?」
「うむ、早速したためよう」
いいだろう。
イシュトバーンさんが、今日も面白かったぜって顔してる。
「昼御飯分くらいは働いたと思うから帰るね」
「ああ、御苦労様。ユーラシア君はこれからどうするんだい?」
「魔境へ遊びに。ドーラの面白いスポットって魔境くらいしかないから」
「魔境を観光地に数えてるのはあんただけだ。帝国からの旅行者を呼べる、ドーラならではの観光地が欲しいぜ」
「今後の課題だねえ」
外国からお客さんを呼ぶことは、外貨を落としてもらう面でも相互理解の面でも重要だと思うけどなあ。
今のドーラは食糧増産と産業振興に全力だ。
他のことはとてもとても。
「じゃ、また来るね」
「殿下、お元気で」
「うむ、またいつでも来てくれよ」
行政府を後にする。




