第1008話:重大発表
大した記事ネタじゃなかったと思うけど。
あんなんで喜んで帰っていく新聞記者ズを見たら、却って不安になるわ。
「ねえ、イシュトバーンさん。普段の新聞記事ってどんななん?」
「何もイベントがない日の新聞は本当につまんねえぞ?」
「いっつも『密会ですか逢引きですかスキャンダルですか?』って寄ってくるじゃん? 結構楽しめるゴシップ記事が多いのかと思ってた」
「誰のゴシップ記事を書くんだよ。一番売れそうなのはオルムス・ヤン知事だろうが、やつはほとんど行政府の外に出てこねえだろ?」
モテそうなオルムスさんのゴシップ記事なら確かにウケそうだけど、マジで何かある時以外は行政府の中にいそう。
パラキアスさんのあとをつけ回すなんてできっこないし、オリオン・カーツさんは大体船上か。
ほんとだ、ゴシップ記事の成立しそうな有名人が他にいない。
「だからあんたんとこに寄ってくるんだぜ。必ず売れる記事になるからな」
「マジかよ。一番身近な活字媒体がダメダメじゃ、本の売れる世の中なんかになんないじゃないか」
「ハハハ。精霊使い殿は、新聞ともいい関係を築いているのですな」
「ウルピウス殿下はゴシップ紙嫌いみたいなんだよね」
「あんなもの好きな人はおりませんよ」
あれ、近衛兵長さんも否定的ですね?
さっき新聞嫌いなのかなとチラッと思ったけど。
ゴシップ紙の記者って、皇宮にも押しかけたりするのかな?
リモネスさんが注意を向けてくる。
「先ほどの……マーシャ殿の言っていた『島のクエスト』というのは? 我々も聞いておくべきことのようですが」
「ちょっと大事なんだ。プリンスやドーラの首脳にも聞いて欲しいことだから、行政府で話すね」
イシュトバーンさんが言う。
「おい、あんたが大事って言うのはどの程度の話だ?」
「対応を間違えると、全人類が戦争に巻き込まれちゃうくらい」
「「えっ?」」
ちっ、リモネスさんとイシュトバーンさんは驚きゃしないわ。
エンタメのハードル高いわ。
行政府に到着。
「こんにちはー。美少女精霊使いユーラシア他四名が、お昼御飯をいただきに来ましたよ」
「はい、どうぞお通りください」
受付のお姉さんの後ろについて二階の大使室へ。
あ、パラキアスさんとオルムスさんもいるじゃないか。
呼ぶ手間省けたな。
御飯時だからか。
「こんにちはー」
「やあ、よく来てくれたね」
「ルキウス殿下! 大変御立派に……」
「クリーク少将、久しぶりですな」
互いに久闊を叙し、またパラキアスさんオルムスさんを紹介して、和やかな雰囲気になる。
「精霊使いから重大発表があるそうだぜ」
「お腹減ったぞー!」
「すぐ用意させよう」
◇
「ごちそうさまっ! おいしかった!」
いやあ満足満足。
夜はイシュトバーンさんがごちそーを食べさせてくれるから、魔境でお腹すかせとかないとな。
パラキアスさんが言う。
「で、重大発表とは?」
「御飯より重大なことなんて、世の中にないよねえ? イシュトバーンさんは大げさだから」
ナップザックから地図帳を取り出して広げる。
魔道士長さんが感心している。
「ほう、世界地図ですか。これほど詳しいものがあるとは。いやいや、ドーラも侮れませんな」
「いや、ドーラのものではありませんよ。ユーラシア君、これどうしたんだ?」
「クエストのお宝で手に入れたの」
本筋でないところを掘り下げられても。
「あたし今、ソロモコっていう国のクエスト請けてるんだ。地図で言うとここ」
「ふむ、ドーラのほぼ真東に位置する、小さな島国か」
「全島の人口をひっくるめても二万人以上ってことはないんじゃないかな。今の季節でも住民は夏みたいな服装の暑い国」
「薄着の国か。いいじゃねえか」
もー、イシュトバーンさんのアンテナはおかしなところを向いてるんだから。
プリンスが首をかしげる。
「ソロモコ……確かコモンズが通じない?」
「そうそう。初めて行った時ビックリした。言葉が通じないなんてことがあるって知らなかったから」
「どうやってコミュニケーション取ってるんだい?」
「お肉持ってって宴会やるぞーで、大体仲良くなれるよ?」
あーみたいな納得の仕方やめろ。
「ソロモコの住民は皆仮面を被ってるんだけど、夜を統べるフクロウの神の信仰からきてるの。だから仮面を被ってないのは、神様に対して失礼なことなんだ。ソロモコ行く時はフクロウの仮面を被ること。これ豆知識ね」
「覚えておこう。役に立つ機会があるかはわからんが」
ソロモコは位置的にはいい場所にあるだろーが。
素直に役に立てればいいのに。
パラキアスさんのいけず。
「で、フクロウ神信仰を悪用して、ソロモコに悪魔が入り込んでるんだ」
リモネスさんが言う。
「フクロウの悪魔ゾラスですな?」
「うん、ゾラスって名乗ってた。あたしはフクちゃんって呼んでる。悪魔は悪感情ばかり欲するんじゃなくて、承認、賛美、尊敬されるのはもっと好きなの。フクちゃんはソロモコで尊敬の感情を集めて、魔王の元に送ってるんだ」
「悪魔に騙されているのか!」
「騙されていると言われれば否定はできないんだけど、ソロモコの人が損してるわけじゃないから、まあいいとあたしは思ってるんだ。一方で魔王の方だけど」
皆を見渡す。
よしよし、真剣に聞いてますね。
気分がいいなあ。
「魔王というのは他の高位魔族を従え、その尊敬を得ている存在のことね? だけどメリットがないと配下の悪魔は離れてっちゃうから、魔王は人間と諍いを起こして悪感情を集め、配下に分配しなくちゃいけないんだ。普通は」
「そういう理屈で魔王は人間の敵なのかよ?」
「もっともな話でしょ? でも今の魔王は、特に人間と敵対してない。何故かって考えてみると……」
「ソロモコから送られる尊敬の感情を配下に分け与え、繋ぎ止めているから?」
「多分」
「何という……」
フクちゃんの行動が必ずしも悪ではないことを知った全員が押し黙る。
むしろ魔王とその配下の悪魔を大人しくさせてる画期的な手段と言える。
「ここまでが前置きね?」
「前置き長えよ!」
我ながらそう思うけど。
「どーも帝国が侵攻先を物色してるっぽいんだよね。リモネスのおっちゃんも知ってるけど、タムポートから軍艦が偵察に出てる。ソロモコにも船が来てるんだ」
プリンスが慌てたような声を出す。




