第1002話:乙女チックじゃない展開
「こんなにもらっちゃっていいんだ?」
「ああ、遠慮なく持って帰ってくれ」
ウルピウス殿下があたしへの礼として、二〇種類近くの果物とナッツの木を用意させてくれていた。
嬉しいなあ。
「殿下ありがとう!」
「ハハハ、この胸に飛び込んできてもよいのだぞ」
「え? 大丈夫かな?」
「……とは?」
おわかりでないようだ。
「あたしはレベルがレベルだから、不用意な行動は取らないようにしてるんだ。例えば以前肩揉んであげようとした時、身体が壊れるからやめろって言われた」
「殿下、おやめになったほうがよろしいですぞ」
「う、うむ」
あんまり乙女チックじゃない展開になったなあ。
ウ殿下も結構レベル上げたから、少々タックルしても大丈夫だとは思うけど。
「じゃ、行こうか」
「お願いしますぞ」
「殿下またねー」
リモネスさんドルゴス宮廷魔道士長ヴォルフ近衛兵長の三人を連れ、転移の玉を起動し帰宅する。
◇
青空に浮かぶ虹色のひだに嘆息する三人。
「これが精霊専用白魔法『精霊のヴェール』か……」
「美しいですなあ」
クララの『精霊のヴェール』は本当に綺麗だからな。
効果時間も長いし。
「いや、いいものを見せていただきました。ありがとうございます」
頭を下げる魔道士長さん。
「宮廷魔道士は、普通の魔法の基礎研究なんかもしてるの?」
「もちろんです」
「魔道レーダーみたいなやつばかりじゃなくて?」
「はて、魔道レーダーを御存じでしたか?」
「テンケン山岳地帯で飛空艇落としたのあたしなんだ」
「「!」」
驚く魔道士長さんと近衛兵長さん。
一方で澄ました顔をしているリモネスのおっちゃん。
畳みかけておくべえ。
「じゃーん! 大悪魔登場!」
「ハッハッハッ。吾こそが大悪魔バアルである! 見知りおくがよい!」
再び驚く魔道士長さんと近衛兵長さん。
一方で興味深そうなリモネスのおっちゃん。
「その籠の中にいるのが、高位魔族バアル?」
「うん。これちょっと特殊な魔法の効果なんだ。パーティーのレベル全部コストにして、対象を無力化拘束するっていう。この魔法作った人は、パーティー全員のレベルがカンストしてたら、どんな相手にも絶対かかるって言ってた」
魔道士長さんが唸る。
「なるほど。理論的には可能でありましょうが、パーティーの平均レベルが七〇を超えていないと、ごく弱い魔物相手にも発動しないはずですぞ。実用性が全く……」
「そーなの?」
ペペさんもそんなこと言ってなかったぞ?
さすが帝国の宮廷魔道士のトップだな。
ちょっと話しただけでどんな魔法の構成か、大体わかったらしい。
近衛兵長さんが言う。
「し、しかし精霊使い殿のレベルは一〇〇を超えているとの話では?」
「その魔法使ったのが約一ヶ月前なんだ。やっぱレベル低いと身体が重いし、色々不便なんで上げたんだよ。でもレベル一度下げたおかげで『限突一五〇』の固有能力が発現したみたいだから得しちゃった」
「「いやいやいや!」」
話が脱線してしまった。
「で、ドーラが独立を認められた経緯ね? 帝国にはドーラを攻める三つの手段があったんだけど、決定力になるのは飛空艇からの爆撃だった」
「飛空艇が失われたので、簡単に独立の運びになったと?」
「みたいだねえ」
実際には潜入工作部隊を打ち破ったことも大きい。
「ここからはドーラ側の事情ね? 飛空艇が戦線に参加してドカドカ爆弾落とされたんじゃたまったもんじゃないじゃん? 帝国本土のテンケン山岳地帯の聖火教徒が不穏っていう噂が当時あってさ。飛空艇が試運転で投入される情報を掴んだから、油断してる内に落としちゃえってことになったんだ。たまたまあたしは『アトラスの冒険者』のクエストで、現場の山岳地帯への転送魔法陣を持ってたの。ちなみに聖火教徒達は全員ドーラに渡って無事。あたしはドーラの独立戦争を有利にするために、半月くらい山岳地帯にこもってたんだ。リモネスのおっちゃんと知り合ったのはその時」
「ああ、確かリモネス殿は調査に赴かれたのでしたな」
「精霊使い殿は帝国を恨んでおられぬので?」
「そりゃ立場が違えば行き違いはあるでしょ。あたしはドーラを発展させるために帝国と仲良くしたいの。お互いの犠牲が少なかったのは良かったと思ってる」
ドーラの未来は帝国とともにあるのだ。
「飛空艇の艦長だったクリーク少将と山に攻めて来た歩兵部隊の隊長だったマックス中佐は、なかなか優秀だったからドーラに誘ったんだ。今は在ドーラ大使プリンスルキウスの下で働いてもらってる」
「「え?」」
これもやっぱり知らなかったか。
「あとでプリンスのとこも行くから、会うと思うよ。はい、ここで大悪魔に質問でーす。何で帝国はドーラに攻め込もうと思ったのかな?」
「ドミティウスの意向である。レイノスだけを押さえるのでは利が小さい。完全支配により、ドーラから最大限に利を享受することを目論んだである」
「あんたも戦争を煽ったんでしょ?」
「もちろんである。戦争によって生み出される悪感情を摂取することは、吾にとって利だからである」
バアルに胡散臭げな目を向ける三人。
「ドーラ独立騒動の裏にバアルがいることをリモネスのおっちゃんに教わってから、主席執政官の決定にはバアルの影響がすごく大きいと思ってたんだ。でもバアルの話を聞いてると、どうもそうじゃないんだな」
「悪魔の言うことがどこまで信用できるか、という問題がありましょう」
近衛兵長さんの疑問は当然だ。
が……。
「うちのバアルは誇り高き大悪魔だからウソ吐かないの。リモネスのおっちゃんは理解したと思うけど」
難しい顔のまま頷くリモネスさん。
「状況証拠もあるんだ。バアルが主導していたなら、ドーラの完全支配が不可能になったとわかっても、帝国艦隊からレイノスへの砲撃は行われたはずだから」
「当然である。苦痛、焦燥、絶望等の感情は吾の好むところであるからである」
「ところが実際には、呆気なくドーラの独立が認められたじゃん?」
「……なるほど。ドーラ騒動での傷口を小さくするための、ドミティウス皇子の政治的判断であったと」
こっくり、そゆこと。
つまり帝国の軍事的迷走は、第二皇子の独断の可能性が高いと覚えておいてください。
「ま、過去のことはいいや。まず聖火教の礼拝堂行くよ」




