第1000話:ソロモコが嵐の中心
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「移民はどうだった? 特に進展なし?」
『雨だったからね』
「やっぱなー。恵みの雨だとはわかってるけどさ。雨降るとやれることが限定されちゃうんだよなー」
『ちなみにユーラシアは何してたんだ? 君が家で大人しくしてるなんて想像できないんだが』
「そお? あたしは雨の日まで各方面に恩恵を与えてると思われてるのか」
『いい方に回るなあ』
アハハ、あたしは常に正義の味方。
あたしにとって正義ってお肉のことだわ。
雨の日は海底でお肉の日。
「いや、あたしの方ではえらいことになったよ」
『どこかへ出かけてたんだな? ユーラシアがえらいことになったって言うくらいなら、相当なエンターテインメントなのか?』
「エンターテインメントって言えばエンターテインメントなんだけどさ。対応間違えると、世界を揺るがす大戦争になりそう」
『え? またそうやってフラグを立てに行く』
今回は違うんだぞ?
大マジだぞ?
「ドーラが雨だったから、今日はソロモコに遊びに行ったんだ」
『当然と言えば当然だな。海外に遊びに行けるってのはいいなあ』
「ソロモコはとてもいいところだよ。ドーラとは風が違うね」
『ほう? ユーラシアらしからぬ詩的な表現だね』
「今度招待してもいいよ。あたし達のレベルがあって回されてるクエストだってことを理解してるなら」
『丁重にお断りする』
サイナスさんは慎重派だなあ。
ただもうそう危険はないような気はしている。
ソロモコクエストについて明らかになってる部分は少ないんだけど、何が起きるか大体想像できてきた。
「ソロモコに神様のお使いってのがいたんだ」
ソロモコのフクロウ神信仰と、仮面もまたフクロウの顔を模したものであるうんぬんかんぬん。
『ほう、フクロウ信仰か』
「もしかしてギャグ? わかりにくいから、『ホー、フクロウ信仰か』にしてよ」
『ギャグじゃないよ。で、お使いというのは?』
「やっぱりフクロウなんだよ。結構なレベルだったから、初め本物の神様のお使いかと思ったくらい。でも『ハッハッハッ、ボクを崇めるんだホー!』ってバアルみたいなこと言い出したから、悪魔ってわかった」
『また悪魔か』
「フクロウの悪魔……ゾラスであるな。魔王の配下である」
どういうわけか年明けてから悪魔と縁がある。
バアルもウシ子もフクちゃんも皆結構可愛いから、また違う子に会ってみたいな。
「ゾラスが神の真似事のようなマネをしていたとは知らなかったである」
「バアルは帝国本土とドーラで活動してたんでしょ? ソロモコのことなんか知らなくてもしょうがない」
大体コモンズの通じない、基本的に幸せの感情が溢れてそうなのんびりした地だ。
フクちゃんみたいに外見が受け入れられるっていう特殊なケースじゃないと、悪魔にとって活動しやすい地ではない。
『フクロウの悪魔が、ソロモコ住民から尊敬の感情を盗み取っていたということか?』
「まあ」
「汚らわしいである」
「うーん、ソロモコの人達は騙されちゃいるけど、損してないじゃん? 悪魔も生きていくのにエネルギーが必要だろうから、そのくらいはいいかなと個人的に思ってるんだ」
問題なのはここから先だ。
「で、フクロウの悪魔フクちゃんは、ソロモコで集めた尊敬の感情を魔王の元に送ってるの」
『ふむ、それで?』
「バアルが言うには、普通魔王ってものは人間に恐怖をもたらし、得た悪感情を配下に分け与えることで満足させなきゃいけないみたいなんだ。でも今の魔王は特に人間と敵対するみたいなことしてないでしょ? とゆーことは、ソロモコで集めた尊敬の感情を分配することで配下を納得させてるんだと思う」
「なるほどである」
「ここで問題になるのが、帝国の主席執政官である第二皇子。彼はドーラ征服の失敗をどこかで取り返さないといけないから、外征を企んでるでしょ?」
おそらく初期には植民地の締めつけで乗り切ろうと考えていたのかもしれない。
しかしプリンスからの上申書によって潰され、外征一本に絞った。
新たな植民地を獲得したっていう方が華々しいから、最初から征服が本線だったのかもしれないけどな。
『わかる。しかし必ずしもソロモコがターゲットというわけではないんだろう?』
「フクちゃんによると、軍艦であちこち偵察させてるみたいだね」
『ふむ?』
「でも仮にソロモコが帝国に征服されちゃったりすると、尊敬の感情を得られなくなる魔王が、帝国との戦争に踏み切るかもしれないのでした」
『……大事だな』
「魔王軍対人類の対立構造になっちゃうかもしれないよ?」
『どうして君はちょっと嬉しそうなんだ?』
「吾が主は大概おかしいのである」
『バアルの言うことの方が真っ当な気がしてきたよ』
失礼な。
まあバアルの言うことは割と的を射ているけれども。
「とゆーわけで、ソロモコが標的と決まったわけじゃないけど、いくつかの状況証拠からすると嵐の中心になる可能性は高いんだ。もし帝国に攻められると面白くなっちゃいます」
『面白いって。どうする気なんだ?』
「いや、別に方針は変わらないよ。帝国軍にはお引き取りいただくんだって」
モチベーションは上がったね。
正義は我にあり!
『簡単に言うけど』
「簡単になったよ。確たる理由があって帝国軍に引いて欲しいんだから、帝国で知り合った人に協力してもらえるし」
政権の中枢や軍に近い人に知り合いがいない。
でもソロモコ遠征に失敗した時、第二皇子を責め立ててくれるだけでもいい。
プリンスを後押しするチャンスだ。
問題はあたしが帝国と対立する構図になることだが、仮面でプリティフェイスを隠せばどうにでもなりそう。
『十分気をつけろよ?』
「うん、わかってる」
『今日のエンタメ通信は終わりか?』
「うん。あ、櫛ができ上がってるはずなんだ」
『櫛? グリフォンの羽毛を取るという例のやつか?』
「二本追加で作ってもらったの。明日明後日忙しくてカラーズ行けそうにないから、サイナスさん受け取っといてくれないかな?」
『了解だ』
これでよし、と。
「じゃあサイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は皇宮へ三人を迎えに。




