第100話:兄弟
黄の民は総じて身体がデカい。
特に男性は一般的に背も高けりゃ横幅も大きい。
女性は背は高いけど、スリムな人が多いかな。
身体がデカいからかもしれんけど、家も皆デカい。
フェイさんに案内されて、大きい中でも一番大きな屋敷へ入る。
族長邸なのだろう、何より天井が高いのに驚いた。
今後各部族の行き来が多くなるとすると、灰の民の村にも応接用の館があったほうがいい気がするな。
こういう立派な屋敷を見ちゃうと特にそう思う。
サイナスさんが灰の民の立場と掃討戦以前の取り決め、そして要求を伝えた。
フェイさんは地図を見ながら鷹揚に頷く。
「ふむ、構わんぞ。灰の民は精霊とともに生きる一族だから、他の民に踏み込まれるのは好むところではなかろう? あらかたその地図の通りなら、柵を作って灰の民領に編入すること、黄の民は認めよう。まず地図の範囲に杭を打ったら、黄を含めた他の民に確認を取ればよかろう」
「黄の民の考えは了解です」
うおお、メッチャ話早えよ。
やるなあフェイさん。
これあたしついて来る意味あったかな?
眼帯の大男投げ飛ばしただけで、他に何もやることない気がする。
おっと、フェイさんが悪い顔してるぞ?
何を言い出すんだろうな?
「さて、次は黄の民の要求だ。灰の民が利を得るからには、黄の民も同じだけの利を得なけらばならぬ」
至極ごもっとも。
皆が頷く。
どうせその手のことを言い出すだろーなとは思ったから、特に意外ではない。
「しかし、俺達は農業が下手だ。仮に灰の民の村の南に道を通し、同じ面積の土地を得たとしても、同じだけの利を得られるわけではない。これでは平等とは言えぬ。何とかならぬだろうか?」
あれ? すごいなフェイさん。
丸投げで来たぞ?
サイナスさんをチラッと見ると、あたしと視線を合わせ頷いている。
各村が掃討戦跡地で勝手なことやるよりも、ある程度デザインされた土地利用した方が、後々やりやすい。
作戦開始だ。
あたしが発言する。
「黄の民の畑はどんな感じかな? 見せてもらえる?」
「うむ、こちらからも見てもらいたかったのだ。どうも灰の民とは収量が違うようなのでな」
フェイさんは他色の村の得意分野も結構観察しているみたいだ。
やっぱやるやつだなあ。
ぞろぞろ皆で表へ出、うちの子達に畑を見てもらう。
「どお?」
「光線の状況はモーマンタイね」
「土が酸性だぜ」
「地味はまずまずですけど、連作障害が出てます」
サイナスさんが説明する。
「植物がうまく育たないのは理由があるんですよ。この畑の場合だと貝殻を細かく砕いた物を土に混ぜ、異なる作物を植えれば収量が上がります」
おお、という声が黄の民一同から上がるが、フェイさんは苦い顔をしている。
「作物の収量が多くない理由はわかったが、農業において灰の民に勝てぬこともまた嫌と言うほどわかった。俺達は精霊の声を聞けぬ」
思った通りだ。
フェイさんは、黄の民の村に産業を興したいのだ。
確かに今までは自給自足でよかった。
が、ドーラの首脳であるパラキアスさんやデス爺が掃討戦を行ってまで土地を確保したかった今後は違う。
おそらく移民なりで人口が爆発的に増える未来を見てるんじゃないかな。
となれば交易できるものなりサービスなりがないと、発展から取り残されてしまうという危機感を感じているのだろう。
「でも、黄の民にはパワーがあるよ。それはあたし達敵わないよ」
黄の民一同が互いの顔を見合わせる。
眼帯男が言う。
「しかし姐さん、オレッチは黄の民一の力自慢ですがァ、姐さんにはまるで赤子扱いでしたァので……」
えらく殊勝になってるじゃないか。
「冒険者としてのレベルが違うからだよ。同じレベルだったらあたしなんか全然勝てないってば」
「ふむ、具体的に案があれば教えてもらいたいものだが」
「米を作って欲しい」
「米? あの高級食材か?」
これがサイナスさんと考えた秘策の一つ。
一部の自由開拓民集落で作られているらしいが、米はドーラで一般的な食材じゃないのだ。
「米はドーラの気候なら、決して作るのが難しい作物じゃないんだよ。ただし大量の水を必要とする」
「……なるほど、クー川の水を使うのか」
あたしは頷く。
「川から水を引いて田に保たせる、そういう土木仕事っぽいのは得意分野でしょ?」
「うむ、我らに任せよ!」
一同に活気が出てくる。
「米が高級食材なのは、ドーラでほとんど作ってなくて帝国から輸入してるからなんだよ。安く販売できれば必ず売れる」
「必ず売れる、か。うむ、すぐさま検討しよう」
「もう一つは塩だよ」
「塩?」
秘策その二だ。
これはサイナスさんのアイデア。
塩は必需品だしな。
「海岸に塩田作って塩作り。これもパワー勝負だよ。黄の民の土俵だよ」
サイナスさんが続ける。
「人口増加に伴い、塩の需要は増えるでしょう。保存も利きますしね」
山の民族である黄の民に塩作りの発想はなかったに違いない。
「よくわかった。よき考えを聞かせていただいてかたじけない」
あたしは続ける。
「で、フェイさんにも協力して欲しいんだ」
「何だろう、協力は惜しまんぞ」
「いくらいいものを作っても、売れないと儲からないんだよ」
フェイさんは大きく首を縦に振る。
「いかにも。だから村同士の争いをやめようというわけだな?」
「うん。カラーズの緩衝地帯に交易所を作る。そうすれば……」
「カラーズ内部で物のやり取りができるだけでなく、レイノス商人も呼び込める、ということだな?」
「さすがフェイさん!」
やっぱこの人わかってる。
フェイさんが宣言する。
「本日より黄の民と灰の民は兄弟である! 互いを貶めることは許されぬ!」
「「「「「「「「うおー!」」」」」」」」
……黄の民だけじゃなくて、他所も自分の村を発展させたいっていう意識を持ってるかもしれないな。
カラーズの中では人口が少なく、存在感が希薄だった灰の民だが、知識と耕作ならば他所に負けない。
あたしが掃討戦で目立ったことだし、灰の民主導で交易を行い、カラーズをまとめるチャンスだろうか?
未来を自分の思い通りにできるかもしれないってワクワクする。
あたしが『アトラスの冒険者』に夢を見たのも、やりたいようにやる自由が欲しかったからだ。
あたしはどうやら国造りや発展させることが好きみたい。




