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魔法学校の悪役令嬢  作者: ああああいい
第15章 ヒーロー編―後編―
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第8話 君に恋した騎士の決意

ライト「大丈夫かい? アン?」


 様子のおかしいアンを見て僕が言った。


アン「だ、大丈夫ですよ」


 アンが引きつった笑顔で言った。

 どう見ても嘘だ。


コケ「コケ~……」


ハチ「ワン……?」


 僕と同じように、アンを心配しているコケとハチが悲しげに鳴いた。

 僕らはアンのお気に入りの喫茶店にいた。


メグミ「お帰りなさいませ。お嬢様」


 執事の格好をしたメグミさんが入ってきた客を案内する。

 ここは男装喫茶。

 けれど、アンの目当ては男装した女性店員ではない。


猫「ニャー」


犬「ワン、ワン」


 動物の同伴が可となっているこの珍しい喫茶店には、動物を連れている女性客が多く訪れる。


ハチ「ワン……」


 そして、この店は指名制となっており、好きな店員を指名することができた。

 アンの指名はこちらのハチ。犬だ。

 動物好きのアンにとってこの喫茶店は心休まる場所だったはずなのに……


アン「すいません。話を止めちゃって……。こちらが今日の調査結果です」


 アンが監視対象が写った写真付きの資料を取り出した。

 その資料はよくまとめられていて分かりやすかった。

 彼女は学校の新聞部ということだが、彼女の各記事は素晴らしいものに違いない。

 この資料を見るだけでそれが分かった。


ライト「なるほど。アリスさんは今日も彼氏さんと楽しそうに昼食を食べていたんだね」


 魔王が転生した様子は見られないと。

 うん、いいことだ。


ライト「アリスさんと彼氏さんの日常を守るためにも、しっかり監視の目を光らせないとね」


アン「そうですね……」


 ……アンは暗い表情のままだった。


ライト「その……学校で何かあったのかい? 僕で良ければ聞くけど……」


 彼女のプライベートに踏み込んで良いか悩んだが、辛そうな顔をしている彼女を放っておくことは出来なかった。

 一人の『男』として……。


アン「そ、それが……私は……」


 ――ポタリ、ポタリ。


 アンの目から涙が零れ落ちた。


ライト「ア、アン!」


 僕は慌てて、向かいの席から彼女の隣に移動した。

 少しでも彼女を安心させてあげたくて……。


アン「ごめんなさい」


 アンが僕にすがりつきながら謝った。


アン「私……ライトさんを騙しているんです」


 アンの涙の原因は僕……だったらしい。


アン「でも、その内容は言えなくて……私は……ライトさんを裏切って……」


 アンが子供みたいに泣きじゃくる。

 いや、『みたい』じゃない。

 アンは……子供なんだ。

 だから、大人の僕が支えてあげないと。


ライト「大丈夫だよ。そんなの僕は気にしない。君のためならいくらでも騙されてやる」


 それは本心からの言葉だった。


アン「わ、私の嘘のせいで……世界が終わるかもしれません……」


ライト「子供の嘘で終わるような世界なら終わっていい。むしろ、このままアンを泣かせ続けるなら、魔王より先に僕が世界を滅ぼしてやる」


 僕が物騒なことを言った。

 なんてことを言っているんだ僕は。


アン「ライトさん……ありがとうございます」


 アンが僕に抱きついた。

 既にアンの涙は止まっていた。


アン「えへへ、抱きついちゃいました」


 アンが笑顔を見せる。


ライト「元気になってくれて良かったよ」


 僕が安堵する。

 結果オーライである。


コケ「コケ~」


 元気になったアンを見てコケが嬉しそうに鳴いた。


 ――カタン。


ハチ「ワン!」


 ハチが咥えてきた――ドリンクが乗ったトレイをテーブルに置いた。

 実に器用な犬である。


ライト「えっと、新しいドリンクは注文してないけど……」


ハチ「ワン!」


 ハチがドリンクと一緒にトレイに置かれた紙を鼻先で指す。

 その紙には――


 私からのサービスです。遠慮せずに飲んでくさい。

 店長より。


 ――と書かれていた。


ライト「そうか……。ありがとう」


 僕がハチを撫でた。


ハチ「ワン!」


 ハチが嬉しそうに鳴いた。

 できれば、店長にもお礼を言いたいけど……。


ライト「店長に直接会うことってできるのかな?」


ハチ「クゥ~ン」


 ハチが悲しそうに首を振った。

 どうやら、会うのは厳しいらしい。

 あくまで、裏方。

 お客さんの前には出てこない。

 まあ、ここは女性店員による男装喫茶。

 その世界観を壊したくないのだろう。


アン「ふふ、せっかくのご厚意ですし二人でいただきましょう」


 アンが嬉しそうに言う。


ライト「えっ、でも、ドリンクは一つしかないよ?」


アン「何言っているんですか。ちゃんと、ストローが二つ刺さっているでしょう?」


ライト「えっ」


 僕が驚く。

 言われてみればその通りである。

 しかもその二本のストローは途中の部分がハート型になるように絡まっている。


ライト「これってカップル用ドリンクじゃ……」


アン「それじゃあ、いただきま~す」


 アンはためらいなくストローに口をつけた。

 けれど、ドリンクをすすることなく……


アン「じ~」


 アンが横目に僕を見ていた。

 僕がストローに口をつけるのを待っているのだ。


ライト「分かったよ……」


 僕は立ち上がってアンの正面の席に座りなおした。

 このドリンクは向かい合ってお互いの顔を見ながら飲むように出来ている。


ライト『カプッ』


 僕が意を決してストローに口をつけた。

 アンの笑顔を守るためにも飲まないわけにはいかなかった。


二人『チュー』


 僕とアンが同時にストローでドリンクをすする――。



   *



 ――カラーン。


 僕とアンが喫茶店を出た。


アン「今日はありがとうございました。おかげでスッキリしました」


ライト「それは良かった。僕で良ければ相談に乗るからなんでも話してよ」


 その後、魔法学校までアンを送ると、僕は一人帰路についた。


ライト「……結局、アンの嘘がなんなのか分からなかったな」


 アンは世界が終わると言っていたけど……。


ライト「アンは優しい子だ。その嘘はきっと――誰かを守るための嘘だ」


 だから、大丈夫。

 なんの問題もない。


ライト「誰かを思う、その優しさで世界が終わるはずがない」


 アンの嘘の内容を僕が知ることは無いのだろう。

 それでも構わなかった。


ライト「僕も頑張らなくちゃな」


 王都の守護は王都に在住する衛兵の役目である。

 なら、騎士団が守るのは?

 ――そう、この大陸に住む全ての人々である。

 ゆえに、騎士団のメンバーは一つの場所に永住することはない。

 常に遠征を繰り返し、各地の人々を見守る。

 そして、事件が起きればすぐに駆け付ける。

 友人や家族の元に帰る時間などない。

 国に、そしてこの大陸に住む全ての人々に対して、己の人生を捧げた者たち。

 それが騎士団だった。


ライト「僕は、ただあの魔法使いの家に帰りたくなくて、入っただけの駄目な奴だけどね……」


 全ては逃げだった。

 ――でも、今は違う。


ライト「守らなくちゃ。アンのいるこの世界を。――騎士として」


 僕が騎士としての決意を新たにした。

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