9-1 エピローグ
ある初夏の日、カイルとレータは村で材木運びの力仕事をしていた。もちろん人獣に変身してのことである。
材木を資材置き場に積み上げていく作業が一段落して、2人はその場に座って休憩を取っていた。
カイルが少し何か考えて迷っているような様子だったので、レータは声をかけた。
「どうかしたの?何か気にしてることあるの?」
カイルは少し間をおいて、意を決したようにレータに言った。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど…」
「え、何?」
「そこの森の泉のところに行かないかい?」
「うん、わかった」
2人はおなじみの森の泉のところに来た。盗賊団を撃滅した時に汗や返り血を洗ったのもここだった。
「暑いね、水を飲むか」
獣人の姿のまま泉の水を飲み、草で覆われたほとりに2人は腰を下ろす。
「で、相談ってなあに?」
「レータは、このままずっとこの村で暮らしたいよね」
「もちろんでしょ。何でそんなこと聞くの。カイル、どこかに引っ越しでも考えてるの?」
「まさか。僕もずっとこの村で暮らすつもりだよ」
「そうでしょ。びっくりさせないでよ。急に何を聞いてくるのかと思った」
「で、僕らは2人ともこの村で暮らすわけだ」
「そうだね」
「僕らはずっといっしょだね」
カイルが何を言いたいのか、レータにももうわかった。
「もちろん私たち、いっしょだよ」
「僕たち、ずっといっしょに暮らしたいな」
「うん」
「レータ」
「うん」
「結婚して」
具体的に深く考えたことはなかったが、何となくいつかはカイルとそうなるのだろうという漠然とした気分を持ちながら、レータは今まで過ごしてきた。
同じように家族を失い、同じ孤児院で暮らし、同じような経験をして生きてきた2人だった。
あの館で友達を失いながら生命の危険を乗り越えたのも、人獣となったのも、戦争で人を殺したのも人を助けたのも、いろいろな仕事や経験をしてきたのも、みんなカイルといっしょだった。
2人で共に服を脱ぎ捨てて人獣に変身し、共に戦い、共に働く。
これを数えきれないほど繰り返してきた。そのおかげで、お互いに男女などということさえいちいち意識しなくなっていた。
それほどお互いにいっしょにいるのが当たり前の存在になっていた。他の人間と結婚するというのはちょっと考えられなかった。
だがこんなふうに改めて言葉で言われると、なんだか不思議な気分で、どう反応したらいいのかすぐには思いつかなかった。
しかもこんな人獣の姿の時にプロポーズされるなんて、さすがに想定外だった。
どう返事したらいいのだろうか。
レータは
「なんでこんな姿をしてる時にそれ言うの」
とだけ答えて、並んで座っているカイルの毛だらけの獣の肩に頭をもたれさせた。
カイルはレータに腕を回して獣の肩を抱く。
木陰の涼しさとそよ風が気持ち良かった。
2人がその時ずっと人獣の姿のままだったのか、それとも変身を解いて人間の姿に戻ったのか。それを森の中で見た者はいなかった。
* * *
数ヶ月後、カイルとレータは正式に結婚した。村で盛大な婚礼の宴が開かれ、大いに盛り上がった。祝う人々の中には領主ナタリアの姿もあった。
やがて2人の間に男の子と女の子の双子が生まれた。双子の子たちはすくすく育ち、ベアタやミラなどと毎日一緒に遊ぶようになった。
この双子には、人獣に変身する能力は引き継がれなかった。
風の噂によれば、あの魔法医師は人獣の秘術に関する文献資料をすべて焼き捨て、帝国の役職をすべて退いたという。
人獣の製造に向けた研究は既に中止されていたが、その秘術の知識も帝国から失われた。
帝国はその歴史の最後の日に至るまで、二度と人獣戦士を作ることはなかった。
終わり
ラノベというものを書くのは初めての体験でした。
非常に未熟で稚拙な作品ですが、最後までお読みくださり、ありがとうございました!
もし気力があったらシリーズ化して続編を書くかも知れません。
仮に書くとしたら、この時代よりも数百年前の過去と数百年後の未来、それぞれの別な時代の物語にするのがいいかなと思っています。
もしその機会があったら、またお会いしましょう。




