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番外編 その2 魔王の独白

最初に第五話として書いていた文章です。

旧版の全裸の魔王様からの流用を主体に書き直したものなんですが、一人称の語り手が頻繁に入れ替わるよりは、ヒヨシマル主体で書いた方が読みやすいかと思い泣く泣くボツにしました。

これも埋もれたままにするのが惜しくなったので投稿させていただきます。

「……」


 静かだ……

 ここはかつて……いや、ほんの少し前まで衣服を製作する場所であった。

 今は入り口の扉はガラスが粉々に砕けて散乱し、室内は作りかけの衣服や制作に必要な道具など色々なものが床にぶちまけられ、機械類は倒されてしまっている。

 天井や壁も至る所に損傷が見られる。

 カランカラン……と何かが転がっていく音が聞こえてきた。


「ふむ……」


 我はこの状況になった原因について思い返していた。

 ……アレは……そう……伝説の服飾職人こと、ノーワン・ドンラーガより、“衣服が弾け飛ぶ様子を詳しく観察したい”と申し出があり、用意された上下一式を着用する事になったのだ。


 我は用意された衣服を身に纏っていった。

 白いブリーフを穿き、Vネックの白シャツを頭からかぶる。

 飾り気のない白い靴下を足に被せる。

 次いでグレーの半ズボンに足を通し、白いワイシャツに袖を通す。

 首に赤い蝶ネクタイを巻き、青いジャケットを羽織った。

 さらには、白地に赤の入ったシューズと、なぜか後頭部が小さく跳ね上がった黒髪のカツラ。

 ……はて? カツラとは衣服であったろうか?

 疑問に思いながらも着用した。


 この時、久方ぶりに服を着るという行為が、我の幼少期の記憶を思い起こさせた。

 最後に服を着るという挑戦をしたあの日の事を——


 晴れ渡る青空が美しい日。

 爽やかな風が駆け抜ける草原。

 我は仲の良い友人たちが用意してくれた、数々の衣服。

 我はそれを次々と着用して……吹き飛ばしていた。

 ……そう、あの頃はまだ、我でも着られる服があるかもしれないと、我も友人たちもその可能性を信じていたのだ。


 様々な衣服があった。

 新品から古着まで、外国の衣装もあったし、中には服なのかよく分からないものもあったな。


「古代人の遺跡から発掘されたという服を手に入れたよ。“宇宙服”っていうらしい。これならきっと着られるはずさ」


 ——と、爽やかに微笑む金髪の彼はそう言って我に、おそらく入手に苦労したであろうその服をくれたものだ。


 ……結局弾け飛んでしまったが。


 中にはお気に入りの服を持ち寄ってくれた者もいたな。


「きっと大切な想いの詰まった服なら大丈夫だと思うの」


 ——と、優しい笑顔が素敵な栗色の髪の彼女は、そう言ってあざやかな青いフリルのついたドレスを渡してくれた。


 ……結局吹き飛ばしてしまったが。

 

 その後、泣きじゃくる彼女をなだめるのが大変だった。

 今にして思えば大事な服をどうして我に着せようなどと思ったのか。

 いや、そもそも男児おのこである我にどうして女児おなご用の衣服を着せようなどと思ったのか……

 ……まあ、子供の頃の事だ。何を考えていたかなど、その当時でしか分かるまい。


 ……うーむ。

 こうして服を着てみると……何というか、窮屈であるな。

 やはり全裸は良い。

 体のどこも押さえつけられておらぬ感覚。

 歩く時、走る時、何より闘う時に何ら動きを阻害しない——するものが無い。

 あの自由が、今は無い。

 ふと、我は何か胸の中、いや頭の中で何か圧力が上がるものを感じた。

 そう、これは苛立ちだ。

 常日頃感じている、自由で穏やかで、爽やかな世界が急に暗転して我の心から消えてしまった。

 我は求めた。

 強く、とても強く——

 自由を!


(ぬうぅぅぅぉあぁぁぁぁあああ!!!)


 これ以降の事はあまりよく覚えていない。

 我は拳を握りしめた両腕を脇に引き締める様に構え、全身に魔力を漲らせて雄叫びを放っていた……様な気がする。

 強い衝動に突き動かされていたことだけは覚えている。


「な、なんじゃこりゃぁ!?」

「に、逃げないと!」


 職人の二人が何やら慌てておったな。

 我は単に自由を求めただけだったのだが……

 この後……確か、我が身に纏っていた衣服が急に光りだしたのであったな。

 あれは魔力による光か?

 なぜ、カツラに一番魔力が集中していたのだろうか?


 ——そして気がつけば、我は廃墟の中に立っていた。

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