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間話5

 死神から一旦休憩しようと言われた。

 魂だけになった身としては、疲れなんて感じないから大丈夫だと言ったら……


「ワイが疲れてん」


 死神も疲れることあるんだな。

 自分と同じ様に、疲れなんて感じないのかと思ってた。


「まあ、ゆっくりしようや」


 死神は、これまた例のアタッシュケースから白いビーチパラソルとチェアを、例によって“ニュルッ”と取り出した。

 海なんてどこにあるんだと言いたかったが、この空間では妙に似合っていた。


「どっこいしょっと……あんさんも座りぃや」


 黒いローブ姿の死神が、ゆったりとしたビーチチェアに腰掛けた。

 こちらも腰掛け……てるよね?

 体の感覚ないから、いまいちよく分からない。


「そんで、聞いてぇな」


 休憩がてら雑談タイムとなった。


「ワイはファニィバーシアとは別の世界で普通に、かつ順調に仕事しとったんや」


 そういえば……

 死神は別の世界から、あのファニィバーシアという世界に移動しているところだったんだっけ。


「ところが、最近その世界で人間の魂がどんどん増えて来てなぁ。あの世に入りきらん様になってきたんよ」


 人口爆発ってやつか?

 他の世界でもあるんだな。


「そこで偉い神様たち、まあワイらの上司にあたる神々がこの問題について話し合うてな」


 死“神”っていうから、神の類なんだろうってのはわかるけど、上司なんて居るんだな。

 口ぶりからすると、死神って、会社でいう平社員っぽい感じだな。


「そしたら『人間の魂が少ない他の世界に放流(リリース)したら良いんじゃね? こっちは減らせる、向こうは増えるでウィンウィンじゃん。うっは、俺、天才!』とかぬかしよったアh……仰った神様がおっての」


 ……なんか今、死神から黒いモヤの様なものが立ち上った気がした。

 体があった頃なら目を擦っていたんだけど……。

 まあ、そんな気がしただけだな。


「そんなこんなでまあ、ウチら死神たちが、異なる世界同士で魂を斡旋する仕事を新たにやる事になってしもうてん」


 あれ?

 死神ってアンタ一人じゃないのか?


「ぎょーさんおるで。魂なんてそれこそ星の数ほどあるさかいの。一人じゃ到底、手が回らんわ」


 言われてみれば、確かに。

 でも、死神が沢山居るところなんて想像もつかないな。


「そんでな、この仕事っちゅうのが、もう……大変で大変で……」


 数え切れないほどの魂を管理(?)しているなら、そりゃあ大変だろうな。

 愚痴りたくもなるか。


「他の世界に魂を転生させるなんて、それまで誰もやったことなんかあらへんかったんや。せやから必要な手続きとか書類とかを、最初から手探りで構築せんとあかんかった」


 うわー、新事業の立ち上げってやつか。

 夢とか希望とかがあってやる奴は楽しいだろうけど、付き合わされる側はたまったもんじゃないんだよな。


「そんなもん、誰も統制なんかとれやせん、気がつきゃ組織構造から書類一枚の書式に至るまで何もかも複雑怪奇でややこしい事になってしもうて、今やどこの部署も四六時中てんやわんやや」


 部署とかあるんだ。

 なんか、ほんとに会社とか役所みたいになってきたぞ。


「その上、異世界の神様に魂を移譲(いじょう)するお願いしに行けば散々嫌味やら文句やら言われるわ、死者は死者でこんな世界嫌だ行きたく無いとか、生き返らせろとか、チート能力よこせとか無茶苦茶な駄々こねて来よるし、なんとか転生できたと思ったら、転生者が転生先で問題起こしてそこの神々からクレーム入るし……」


 愚痴が早口になってきた。

 あー、これ、相当溜まってるな。

 とりあえず、うんうんと頷いておくか。


「あんさんの元居った世界でもそーやろうけど、現場の事なんぞなーんもわかっとらん無能(ボンクラ)上級共の思いつき程ろくなもんは無いな。そのくせエラそーにふんぞり返っとるもんやから憎さ百万倍や」


 黒い、黒い。

 もう気のせいとかじゃなく、ドス黒いモヤが死神から立ち昇ってる。


「いっぺん、あの世界に“神●し”やりおった奴の魂連れてったろか……あ、なんかええなそれ。思うまま言うただけやねんけど、意外といけるんちゃう? (いわ)く付きのスッゴイの連れてったろ……ぐふふ……」


 ——これはいけない。

 何も聞かなかったことにして、早急に話題変えよう、うん。

 そういえば、死神はどうしてこんな場所に来たんだろう?


「あれ? 話とらんかったけ? ワイはちょうど異世界転生した魂達の“事後調査”に向かっとる所やってん」


 なんだ、大事そうな用事があったんじゃないか。

 こんな所で、余計な事していていいのか?


「えーねん、えーねん。これもワイの仕事の内やさかい。時間も気にせんでええで。流れ自体が違うとるから、有って無いようなもんや」


 死神曰く、時間というものは一定で一方通行なのはどこの世界も変わりないが、それぞれの世界で個別にある物なのだそうだ。

 死神の様に、世界の間を行き来できる存在ならば、自由に行きたい時間を選べるので、他の世界や空間でどれだけ過ごしても問題ないという事だった。

 あと、元いた世界からはぐれてしまった死者の魂を見かけたら保護するのも死神の仕事だと言っていた。

 ……そうか、自分ははぐれたのか。

 どうしてそうなったのか、記憶は全く無いんだけど。


「ワイはこれから、それぞれの世界にある、転生関連の業務をしとる事業所へ行って、書類に不備がないかとか転生済みの魂がその後順調にやれてるかとか調べて来るねん」


 事業所?

 事業所なんて何処に有るんだ?

 元の世界にそんなのあったっけ?


「そら、その世界によって神界とか天国とか地方自治体とか色んな呼び名で呼ばれとる所に設置されとるよ」


 ん?

 地方自治体?


「まあ、互いに魂の転生をする協定結んどる並行世界だけの話やさかい、あんさんの世界には無いかもしれん」


 なるほど、通りで見たことないと思った。

 っていうか、市役所とかに“転生課”とか有ったら、違和感ありまくる気がする。

 どんな世界なんだ……?


「それは、機会があったら教えたるわ。今はファニィバーシアの方に集中しとき。違う世界のこと同時に勉強したら、わけわからんなるで」


 そうだね。

 ファニィバーシアって世界のことだけでも、ついていくのが大変だし。

 大変といえば、死神の方は大変じゃないのか?

 その、事後調査ってやつは。


「ま、書類の方はパパッとやってしまえるさかい、大したことあらへんのやけど……」


 死神の顔って、フードの奥の暗闇にLEDみたいな光が2つ見えるだけなんだけど……

 それでも、なぜか困った顔をしているのがわかった。

 なんとも不思議だ。


「転生した奴らの実態調査が厄介やねん。あちこち探し回って、やっとそれっぽいの見つけても、すぐに“こいつや”ってな感じで判ったりはせんもんなんや」


 そういうものなのか?


「そいつの魂の波長やら、形や色、あとは転生後の生い立ちなんかの記録と照合せなアカン。なかなか簡単には行かんのやこれが」


 まあ、顔や姿は完全に変わってるだろうから、当てにはならないだろうな。

 魂の詳しい事なんてよくわからないけど、とりあえず死神が苦労しているのは分かった。


「見つけてしまえば、後は簡単な聞き取りだけして終わりなんで楽なんやけどな」


 死神がそう言ってため息をついた。

 一通り喋り終えたのだろう。

 沈黙があたりを包んだ。

 そろそろ、授業再開かな。


「もうちょい休も。あんさんも魂になった以上、時間はたっぷりあるさかい。あ、お茶飲む?」


 どうやら、死神は思っていた以上に疲れていたらしい。

 いつの間にか、ビーチチェアに座る死神と自分の間に小さなテーブルが用意され、その上にグラスに入った茶色の液体——お茶が入っていた。


 乳白色の床と黄色い空。

 そしてビーチパラソルの下でゆったりとくつろぐ。

 悪くない——少なくとも、時間に追われないってのがこんなに楽だなんて、生きてる頃は思えなかったな……

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