カトゥン、参戦する
満身創痍。いくら装甲に身を包まれているとはいえ、一方的な攻撃を受け続ければ、バトルスーツ姿でさえそのくらいは容易に見て取れる。
「しぶといな。が、そろそろ反撃をしてこないと、本当に死んでしまうぞ」
膝をつく春日大に、位置的にも声質的にも上から目線のビクチャー。元部隊長様に忠告されなくてもそれくらい分かる。身体が悲鳴を上げるとはこれまで何度なく聞いたことがあるが、本当に体の節々が、内臓が、そして頭の中が「ヤバい!」と金切り声をあげるのを、今まさに春日大は体験しているのだ。
重々しく、どうにかこうにか立ち上がった春日大は、
「アルティメット・フォームってどう成るか、もっとちゃんと見とけばよかった」
力なくつぶやいた。
「覚悟が、整った、という意味でよいかな」
ビクチャーは拳を引き、それはまさに気をためるとかエネルギー弾の準備をしているとかそういう類の姿勢である。
今まさにその拳が突き出されそうなその瞬間。ビクチャーは後頭部に衝撃を受け体制を崩した。立て直して見れば、
「背子様、お待たせしました」
息を切らしたイトラスが春日大の前に立っていた。しかし、反撃を続けて仕掛ける様子はない。なぜなら、イトラスも春日大に負けず劣らず満身創痍だからである。
「その姿で何ができる」
ビクチャーは首を鳴らして、構え直す。確かにそのとおりである。
「イトラス、悪いな。どうやらお前の期待には応えられないみたいだ」
「違います、背子様。こいつが異常なんです。ミミまで」
忌々しそうにビクチャーの頭部をにらんだ。
「最後の会話は堪能できたかな」
拳を鳴らすビクチャー。力があろうがなかろうが構えなければならない。それがイヌミミをつける戦士としてのせめてもの姿勢であり、眷属としての役割である。
「待て!」
この場に現れるには一人しかいない。いや、後から追って来る者も一人。
「大人しく寝ていればいいものを」
「ダイ、待たせたな」
元隊長の助言にまるで反応はせず、通常姿のカトゥンは颯爽としている。が、
「遅えよ」
「そんな言い方はなかろう。私だって、私だって」
涙目にさえなりそうないじけ方である。
「背子様の姿を見よ。察せよ。メスネコ」
「労いを言える状態じゃねえんだよ」
率直なイトラスをやんわりと翻訳した春日大。
「ならば致し方ない。ダイ、休んでいろ」
お言葉に甘えるどころか、休んだとて今のビクチャーを制される手段に皆目見当がつかないのだから、どうしろというのか。春日大の心境を察しているのか、イトラスは肩をすくめて、明らかにカトゥンに向かってため息を吐いた。
「その前にお前はまず変身をしろ」
仕方ないので春日大はカトゥンに助言をしてビクチャーに突っかかって行った。
「援護します」
イングロードは薙刀を振るって三日月状の光を連射する。それをかいくぐるビクチャーの懐に入り拳を打ち込む春日大。
「効かんな」
ビクチャーは春日大の腹部に膝を打ち込んで屈ませると、跳躍。イングロードの間合いに入る。イングロードは反撃の暇なく、パンチを喰らって吹っ飛ばされてしまった。
「イングロード! クソ」
カトゥンはネコミミを取り出して頭部に付ける。しかし、負傷のせいかスムーズさがない。その間にビクチャーは春日大の目前にまたも跳躍。
「さっきの続きだ」
エネルギーの塊なのかほのかに光る拳を春日大に振り下ろした。
「ま、……だ」
伏した春日大の変身が解けた。
「ヘンシン!」
ビクチャーへ走るカトゥン。格闘に持ち込むが、強化されたビクチャーにはまったく有効ではない。
「強い、一体」
「まだ気付かないのか、ほらよく見ろ」
カトゥンが放った拳を握り、力任せにその身事放った。体を回転させ無事に着地したカトゥンは目を見開いた。
「四つ耳、だと」
驚嘆が本当に今さらである。
「そうか! ダイがいくらなんでもあれだけ負傷していたのは、そういう……いや、しかし、可能なのか、ネコミミを二つ着けるなんて」
可能も何もすでにビクチャーは装着しているわけだし、春日大の身体の状態に気付いていたのなら、それこそ労ってやれよって話だ。
「それはデイザンのもの。なんてことを。今、デイザンは」
もはやそんなことを言っている場合ではないのだ。
「デイザンは大丈夫。室長が診ている」
「そうか、ならば安心だな」
だからそんなことを言っている場合では本当にない。自分たちの身も危険にさらされているのだ。
「よし、安心して戦えるな」
イングロードは戸惑い、イトラスが頭を抱え、ウキヨが細い目でにらんだ。




