作者、幽霊作家をかたる12
「推理小説を書き始めた頃の事、覚えてる?」
作者はカフェオレを手に私に聞いた。
「はい。とても苦労されていましたね?」
私はその頃の事を甘く思い出す。
「うん。推理小説って、書き慣れないと謎の部分を隠そうとしてしまうのよ。でも、それは違うのよね。」
「そうでしたね。子供の『これなんだ?』をする気持ちで書く、と、おっしゃいましたね。」
私は苦労しながら物語を考える作者を思い出していた。
「うん。推理小説は基本、謎を作り、それを解いてもらう事で得られる爽快感を売ってっるのよ。だから、永遠に解けない謎なんて価値がないのよ。」
作者は少し寂しそうに『悪霊』を見る。江戸川乱歩が未完のまま亡くなった事で、『悪霊』の謎は2度ととかれる事はないのです。
「そうですね。でも、その謎の答えを想像する事はできると思うのです。」
「そうね。ここまで来たら少しでも金に変えないと!もう。これで3年は費やしたんだもん。」
作者は少し伸びをして、私を見て言った。
「さあ、熊浦の正体について話しましょう。」
作者は嬉しそうに私を見た。
「乱歩は一流の推理小説作家よ。だから、自分の小説が読める読者が全て謎に挑戦できるようにヒントを散りばめていいたと思うの。これはモキュメンタリーのSFミステリーだと仮定すると、現実世界に何か物語のヒントを隠したと思うの。それは、殺人事件とは限らないけれど、本を読んで、過去の新聞を図書館とかで調べると、何かが飛び出すような仕掛けがあった可能性はあるわ。
祖父江進一と岩井担が推理ゲームをするように、乱歩と読者の謎解きを促していたんだはないかと思うの。じゃないと、祖父江進一、相当のサイコパスになってしまうもの(^_^;)」
作者は苦笑する。確かに祖父江進一は殺人事件を目撃してから数日で被害者の曽根子の体に精虫があったかどうかを熊浦と話してミステリーハンターの心が盛り上がる、大人気ない性格です。
しかし、推理小説として乱歩先生と読者の『もしもの話』なら、不快感は軽減します。
「サイコパス、貴女も初めは不快感を感じていましたね。」
「そうね。まあ、この話は今でも読んでると色んな事を考えちゃうのよね。まあ、熊浦の話をしようよ。
今度こそ、解決編を更新しないと。」
作者は笑った。
「そうですね。熊浦。彼のことを考えたのは、メンバーの中で1番目立つ人だったからでしたね。」
「うん。他の人の説明は簡単なものだし、調べようがないもんね。
熊浦だけは、民族学者で有名な人と同じ妖怪博士と同じあだ名で呼ばれていたらしいから。当時、妖怪博士と言われたら、柳田國男じゃない?」
作者はニヤリとした。
「そうですね。柳田國男は1908年『東野物語』を書いていますから。矢絣の流行った時代とも合致しますしね。」
そうです。そして、ここで曽根子の自宅の住所が関係してきます。牛込区河田町、柳田國男は加賀町と少し離れてはいますが、スピチュアルにも関心があって、当時、牛込区の官舎で佐々木喜善と知り合い民族学に興味を持つのです。
「うん。牛込で話を聞いたりもしていたらしいから、乱歩もそんなエピソードを聞いたのかとか思って話を作って言ったのよね。まあ、あれは短編だから、熊浦のモデルが牛込にいるのを文月が向井に聞いて、そこから、牛込に会いにゆく、ってところで話が終わる予定だったのよね。」
作者はため息をついた。夜が全ての音を闇に吸い込んだような静けさがあたりを覆います。
「そうでしたね。」
私はカップを下げようと立ち上がりました。
「そうね、はぁ。でも、今考えると、柳田國男より、宮本常一の方が熊浦のイメージがするし、宮本先生は1933年から活動しているみたいだから、なんか、気になるわね。まあ、この話はこうやって疑問が増えるのよ。怖いわ。『悪霊』本当に。」
作者は眉を顰める。
「今のが、『おち』ですか?」
私はからかって聞いてみた。もう、夜もふけました、そろそろお開きにしましょう。そう考えていると、作者も立ち上がってカップをキッチンに運ぶ。そして、少し眠そうにこういった。
「そうね、熊浦編のオチはそうかもしれないわ。でも、本当に怖いのは、ここまで、今でもちゃんと物語のあらすじをこうして追えるのに、9割書いた物語の加筆をして書いて、投稿した話が、あそこまで変わってしまった、と、言うところだと思う( ̄  ̄) これ、小説書いている人は、きっと、うすら怖さを感じるんじゃないかな。」
作者は独り言のようにそうぼやいた。




