第肆拾話 偶発的交戦
来月の更新は絶望的と言わざるを得ません(マジで車校と会社で忙がしくなるんでずゔぅぅぅぅぅう)
日本陸軍第2空挺小隊設定時刻 PM.16:55
ホウマー島 極相林内
陽光の届かない極相林の下、隠樹の稚樹や草本が支配するこの場所を草枝を僅かに揺らしながら進んで行く集団があった。
動物の群れではなかった。まだら模様の姿をした屈強な人間・・・手には黒々とした小銃が不気味に光沢を放つ。彼らは注意深く森林内を掻き分け進む。
「・・・行けども行けども森、森、森・・・全然、人の居る気配はしないですね。」
見慣れない植生に興味を示しつつ、注意は怠らない。周囲を見渡しながら、男の1人が呟いた。そして、それを諌める低い声が1つ。
「黙れ三嶋。何がどこにいるか分からないんだ、静かにしろ。」
三嶋を注意したのはこの集団の隊長である良持であった。森の中を進む彼らの正体は、日本陸軍第2空挺小隊第4分隊。ある2つの任務を、今現在彼らは遂行中だ。
1つは、“ここが何処なのか、近くに人はいるか”という事。彼らは演習に向かうその途上、なんらかの影響によって外部との一切の連絡、通信手段を断たれ、絶賛孤立中であった。その状況を何とか打開するべく、彼らは今この広大な極相林を進んでいる。
もう1つは、何かを守る様に丸状に隊形を組む彼らを見ればわかる事だった。
迷彩に身を包んだ者たちの中心には、彼らに全く似つかわしくない可憐な少女が周囲をキョロキョロしながら歩いている・・・彼女の名は、ナキア・ザクトゥ。この彼女を無事に連れ帰ってやる、というのがもうひとつの任務である。彼女を送り届けることができれば、=第1の任務を達成する条件の1つ、“現地民との接触”をも果たすことが出来る。
そのナキアを2人のまだら模様が固めていた。
トントン
「?」
誰かが彼女の肩を叩いた。彼女は振り向く・・・そこには、身長こそ彼女よりやや高いという程度であるものの、顔にドーランをぬりたくり、89式小銃やその予備弾倉、手榴弾、鉄帽に赤外線監視装置を装着した完全武装の女性の姿があった。
周囲から“リス”と呼ばれている―――本人はあんまり快く思ってないようだが、みんながみんなそう呼ぶので、半ば諦めているらしい―――彼女は、確か名前を・・・久世 厳女といったか、ナキアと同じ女性という事もあって、彼女が普通に会話できる数少ない1人だ。
久世はある仕草をする。それを見て、ナキアは耳栓を取った。
この耳栓は、「何が起こるか分からないから」と言ってこの隊の隊長である良持が直接、ナキアに手渡した物だった。
何か話す事があったのだろう。当然、耳栓をしていては会話など不可能なので久世はナキアに耳栓を外すように指示したのだ。
「なんですか?」
小声でナキアは応える。小声なのは“行動中は基本的に喋らず、もし話すことがあるとしても可能な限り小声で”と言い付けられていたからだ。彼女の透き通った美しい声は、小さくとも久世の耳にしっかりと届いていた。
「この方向で来た道は間違ってない?」
方位磁針を指差し、久世は言う。
あえて“場所”では無く“方向”で聞いたのは、そもそもナキアが自身の通って来た道を覚えている事など期待していないからだ。だいだいからして、彼女の言い分からすると彼女自身は何らかから逃れて来た身。わざわざ自身の通った道に跡など着けるはずないし、周りを気にするほどの余裕も無かった筈だ。
「はい・・・もう少し進んだところに、丘があります。あ、あそこ・・・あそこで、あなた達の・・・ヒコウキ?を見つけたんです。」
指差す先には確かに他より少し高い丘の様な地形があった。ナキアの細く白い指は、嘗てはそこにあった木が倒れたのか、鬱蒼とした極相林の中にぽつねんとある陽の差し込む場所を指していた。
「はぇ〜〜・・・ナキアは眼がいいのね。ありがと、耳栓つけていいわよ。」
コクリ、と頷いて耳栓を付ける。因みに久世が“ナキア”と呼び捨てにしているのは、ナキア本人がそうして欲しいと言ったからだ。「ちゃん付けは変な感じがする」と。
耳栓を付た後、ふっと視線を感じてその方に振り向いてみると、やはりドーランに顔を染め、完全武装した状態の男と目があった。
沢田、と言う名前の男だとナキアはすぐに思い出した。一番最初にナキアを見つけ、保護したのは沢田だったのもあったで、それなりに心を許している。
「・・・。」
「・・・!」
ふ、と沢田が微笑んだ。
それに何故かナキアは赤面し、ふいと視線を逸らした。首をかしげる沢田とその現場を生暖かい目で見ている久世。
肩越しにこの光景を見ていた良持は、「やれやれ」とばかりに肩を竦めた。普段、演習中は2人共もっと気を引き締めて厳しい表情をしているものだったが、今回ばかりは“年頃の少女”というイレギュラーもイレギュラーが存在するので、事後に注意するに留めようと彼は思っていた。
視線を前に戻し、
「!」
その時、彼は何かに気付いた。
先程、ナキアが指差していた場所。その場所に、黒を基調とした身なりの数人の人間が屯ろしているのを見つけた。距離は500mほどか・・・向こうはこちらに気が付いていない。
良持は左手で“止まれ”を意味するハンドサインを出す。
ピタ、と示し合わせた様に全員が同時に止まる。次いで、左掌を地面と水平のまま下にやった。“しゃがめ”の意味だ。
全員が小銃を構えたまま、音も無くしゃがみこむ。ドーランと迷彩も合わさって、まるで草木の中に溶け込んでしまった様にすら見える。
がさ。
「・・・!」
いや、若干1名。全然草木に溶け込めてない人物がいた。
「・・・ご、めんなひゃぃ・・・。」
怯え気味に(しかもちょっと噛んで)言った声の主は、当然の様にナキアだった。良持らの様に、生粋の隠密部隊の人間ではないのだから、致し方ないことではあった。それに幸い、距離もあり、向こうも気が付いていない様だ。
迷惑をかけたと思ったのか、若干涙ぐむ彼女を気遣って、沢田が頭を撫でてやる。耳元でそっと「大丈夫だよ。」とも呟いた。
ぴく、とナキアが震え、顔を紅潮させる。沢田は彼女を気遣っていただけなのでその心中を分かる事はない。というか耳栓をしているので聞こえてないはずだが・・・。
視線を感じた沢田が振り向くと、何やらムッと眉を釣り上げた顔をしている久世がいた。久世の顔には“この幼女たらし”と、めっちゃ酷い事が書いてあった。しかし沢田は知らん振りをする。と言うか見てない。彼の視界に久世・・・同僚の小さな女性は一度として映っていない。居ないったら居ない。ロリコンなど認めてなるものか。
耳栓を外すようナキアに促す。
ところで、と沢田は一拍おいて、ナキアに言う。
「あの人達は、ナキアの知ってる人かい?」
しかしナキアは怯えるような表情で首を振る。
いや、実際怯えている。眉をハの字に曲げ、沢田の袖を掴み、ブルブルと震えていた。
「・・・。」
「どうだ?」
「隊長。」
茂みの中から音も立てずにスルリと現れた良持にナキアは一瞬肩を震わせた。「隊長だ。大丈夫」と沢田が肩を抱いたが、ナキアはやっぱり震えた。しかし今度は、顔は真っ赤だった。
「知ってる人間では・・・無い様だな。いや、少し違うか。」
沢田がその言葉の真意を測りかねていると、良持は付け足すように言った。
「怯えているな?つまり、以前に会った事があって、その時に何か恐ろしい目に遭ったって事だ、多分な。・・・連中と関わるのは面倒しかなさそうだ。迂回して、別の道を探すぞ。」
「了解。」
良持はとって返し、草叢に消えた。それほど高い草木でも無いのに、ナキアはもちろん沢田や近くにいた久世にも全く認知できなくなった。
するとすぐに、ヒョコッと手が草むらの中から現れる。クイクイと手を降る。“来い”の合図だ。
ポン、とナキアの背を叩いた後、手を引いて連れてゆく。 背を低くしながら草叢をかき分け進むが、何分ナキアを連れているため足取りは遅い。
若干まどろっこしくなった沢田は、少し躊躇いつつもナキアを抱き抱えて移動し始めた。年端もいかない女子にこんな事をするのは失礼かもと思ったがしかし、危険と思われる状況にある以上、これくらい我慢してもらわなくてはならない。
(後で謝っとこう・・・。)
「・・・っ、 !ぅ〜〜〜。」
真っ赤になっているナキアを見て、沢田は(ごめんなー。)と内心で詫びた。
しばらくして、良持の下に集った第四分隊員。双眼鏡を覗きながら周囲を警戒していた良持がそれに気づくと、彼らに向き直った。
「相当な数がいる・・・このままでは迂闊に動けん。暫くは此処で周辺を探るしかない。」
曰く、あの丘の上にいる連中だけでなく、周囲にもかなりの人数いるらしい。周囲に視線を巡らせると、確かに、2、3人組の男たちがそこかしこに、チラホラと見える。
「・・・三嶋。万一の時に備えて、すぐに本隊への退避路を確保してくれ。方角を間違えるなよ。」
「了解・・・久世、一緒に来い。」
「了解です。」
カールグスタフM4とその弾薬を抱えているにも関わらず、三島は軽やかにその場を後にした。小柄の体格の久世もまた、重装備であるのにさっさと行ってしまう。
「さて、暫く動けそうも無い。全員周辺警戒を怠るなよ。」
「「「了解。」」」
◆◇◆◇◆
ホウマー島 極相林の丘の上
丘の上から一望する景色に目元を歪める男。本来、そこにあるべきで無い物体をその男は凝視していた。
「隊長。」
「・・・なんだ。」
隊長と呼ばれた男・・・ブルタリー・ジベルストは返事こそすれど、億劫そうな口調で言った。目も合わせない。背後に跪いている部下などどうでも良いように、丘から見えるその物体をただ見ていた。
「魔術士の者が、微かにですが魔力を感じると申しております。彼奴も、そう遠くには居ないかと愚慮いたします。」
「・・・そうか。」
短い返答。まるで今回の任務そのものに興味が無いような、そんな気すら感じる。もっとも任務と言っても、管理街から脱走した一匹を引っ捕らえるだけだが。
「・・・。」
ジベルストに報告を終えた部下が持ち場に戻ろうとした時、ジベルストが声をかける。
「・・・おい。」
「はい?何でございましょうか。」
「・・・“アレ”、何だと思う?」
「“アレ”と言いますと・・・・あそこに見える“竜”でございますか?」
顎をクイッとやってジベルストが指した先―――灰色の寸胴で巨大な胴体と翼を持つ巨大な竜の様なものが二体、羽を休めている様に見えた。それもかなりの大きさに見える。ワイバーンなど比では無い。もっと大きい・・・タラスク―――地龍騎兵団の主力兵器―――地龍をも凌ぐ巨躯ではないか?
―――いや、竜というには些か無機質に過ぎるようにジベルストの目には映った。翼を含む所々は直線的だし、その翼にはよく分からない巨大な円筒形の物体がぶら下がっている。しかしアレを竜以外に何と形容したらいいのか分からないが、竜とも言い難い気がしたので、彼は“アレ”と言っている。
「何だと言われましても、竜ではございませんか?」
「・・・そうか。」
興味を無くした様にジベルストは言う。相変わらず、視線は“アレ”に縫い付けられたままだった。
(・・・確か・・・)
哨戒中のワイバーン隊が何かを発見して追尾したが、速過ぎて取り逃がしたと言う通達があった。それらしいものを見つけたら本部に報告しろとも。
「・・・おい。」
「はっ?」
今まさに踵を返し戻ろうとしていた部下を再び呼び止め「ワイバーンが取り逃がしたと思われる物体を発見、大きさは20リム(24m)以上。応援を寄越すよう伝えろ。」と言った。
それから暫くして、その部下が戻ってくる。やや興奮気味だった。
「報告は終えました。応援に、ワイバーン一個小隊と地竜騎兵団のタラスクが二体来るそうです!」
「・・・タラスクが!そうか。」
ワイバーンを振り切った相手、加えてタラスクをも超える体躯ときたものだから、本部もそれなりの戦力を送って来たようだ。龍の一種である可能性も考えると、妥当と言える。
「それと、脱走した一匹の件ですが、やはり近くにいるようです。微弱ながら魔力反応の上下がこの近辺で感じると申しています。」
「・・・よし、余も行こう。銃を持ってこい。」
「ここに。」
差し出された重厚長大な銃には煌びやかな刺繍が施されていて、一目で職人の手で―――軍用兵器としては禁忌とも言えるほど―――手間暇をかけて製造されたのが分かる。
銃の名は『ノブル・トクラット 1リル貴兵銃』。貴族の兵士、貴兵にのみ渡される大威力の滑腔銃。
ジベルストは不気味に口を歪める。
「狩りの時間だ・・・。」
銃口から、粉状の爆裂加工魔石を流し込む彼の顔はある種の凶気を感じさせた。
◆
良持は、周囲の雰囲気が変わるのを感じた。同時に、マズイ、とも。
「一旦引くぞ。殿は俺がする。先頭は沢田に任せる。」
沢田に先頭を任せたのは、保護対象のナキアが何故か沢田に結構懐いているので、いち早くここから当座 遠ざけるためだ。
指示を出し、自らは私物の消音機を取り付けた89式小銃の安全装置を解除する。その際に、弾倉に巻かれているテープの色を確認する。黄色のビニールテープ・・・演習用のゴム弾が装填されている弾倉だ。万が一の時は、予備弾倉に付け替える。これには、実弾が装填されていた。
コッキングレバーを引き、暴発を防ぐために引き金から指を離す。
89式小銃を構えながら、脇目で部下の後退を見送る。さすが、優秀な部下だ。特にさしたる支障もなく静かに素早く引いてゆく。
「隊長・・・早く。」
どうやら最後の一人のようだ。分かった、と短く返事をし、良持も小銃を構えながら引く。中腰の姿勢だが、スルリと流れるように藪を掻き分けて行った。
第四分隊は周囲の藪と完全に溶け込んでいた。退避も滞りなく進み、直ぐに三嶋と久世が確保していた地点に辿り着く。
しかしそこまで来たところで、良持は強烈な殺気を感じた。他の一同も同様。
瞬間、申し合わせたように全員が地面に頭を突き立てんばかりの勢いで伏せた。状況を全く読み込めてないナキアは、それを予期した沢田が一緒に抱きかかえて伏せる。
直後、バチィンッッ‼︎という破裂音とともに頭上の木の枝が吹き飛んだ。ちょうどナキアが立っていた近くだ。
銃撃か!良持はバネのように身を翻すや、89式小銃を構える。同時に、そのドットサイトの中に黒い人影を3つ認めた。距離は凡そ100m。躊躇うことなく、89式小銃の引き金を引く。
消音機により抑制された発砲音は3発・・・3点連射で放たれた非致死性のゴム弾は正確にその3人の頭を撃ち抜いた。一応、実弾ではないから死んではないはずだが・・・非致死性弾といっても、秒速何百mのスピードで飛ぶので、場合によっては―――特に今回は頭部を癖で命中させてしまった為―――死んでしまっているかも知れない。
ただし、先に撃ってきたのは向こうなので、此方は悪くない。
「ジベルスト様⁉︎副隊長⁉︎」「嗚呼なんという事!」「気絶しているだけのようだが・・・魔法か⁉︎」「魔術士、魔力は感じたか・・・⁉︎」「彼奴め、ジベルスト様を手にかけるとは!」「兵を向かわせるのだ。生け捕りなど良い、彼奴の首を取ってこい!」
(日本語・・・⁉︎)
一瞬、良持は驚いた。ドットサイト越しに見えた人間の顔は、西洋人寄りのものだったからだ。しかし直ぐに落ち着きを取り戻した。
良持らに反して、向こうの方はかなり慌しい。連中からしてみれば、突然何処かから何かが飛んできてその頭領らしい人物の頭を直撃したのだから、無理もあるまい。
「よし、この隙に―――ッ⁉︎」
本隊まで退避する、そう言おうとした良持の背中が凍りついた・・・凄絶な殺気。逃れられぬだろう死の予感。これまで何度も感じて来た、ベト付く様な悍ましい感覚・・・だが何処から?どうやって―――⁉︎
「皆さん伏せてっ!」
「「「⁉︎」」」
声を荒げたのは保護対象たるナキア。沢田の腕から抜け出し、いつの間にか立っていた。良持を含め、全員が例外無く彼女を凝視している。その彼女が、両手を大きく広げ、何かを口ずさみ始める。
「虚空に描いた円球は、その下に全てを通さぬ壁と成す―――」
一拍の深呼吸。その時、良持の視界の端に火炎が写った―――ロケット弾・・・⁉︎
「散れッ‼︎」・・・と良持がそう言葉を発する前に、ナキアがそれを防いだ。
「“空間妨壁ッ‼︎”」
ズドン!爆発音にも似たその重い音とともに、ナキアを中心に半径2m程の青白い輝きをもつ半円球が良持達を包んだ。
一瞬遅れて、ズゥンと腹に響く轟きがあった。さっきのロケット弾か?そう考えた直後、青白い半球は凄まじいまでの爆発に包まれた。
ドドドドッ‼︎
大量の“何か”がこの半球に立て続けに着弾している。しかしこの半球は微動だにせず、攻撃を弾いていた。
「こいつは・・・」
何だ?と言う誰かが言った声は爆発音に掻き消される。
「・・・ハァ、もう少しです・・・!」
「は?」
ナキアが肩で息をしながら、声を張り上げながら言った。
「あと、少しでっ、はぁ・・・隙ができます・・・!その時に、さっきの魔法で、攻撃して下さい‼︎」
息も絶え絶えに何やらよく分からないことを言うナキア。しかし、その目には確信と心頼みの色が立ち入っていた。
良持は頷く。
「総員弾倉を実弾にしろ、完全装置解除!俺の指示の後、発砲を許可する!」
「「「了!」」」
第四分隊の各隊員は素早く弾倉を交換する。黄色いテープの非致死性ゴム弾から、何の印も付いていない、ただ鈍く黒光りするだけの弾倉に交換。弾薬は5.56×45㎜NATO弾・・・人を殺すための弾丸だ。
ズン!ズン!・・・ズンッ・・・
弾倉を替えた数秒後、爆発音が少なくなり始めた。
「今、です!」
両の手を大きく広げていたナキアが、手を引っ込めた。同時に半球状の青白い壁は姿を消し、ナキアは糸が切れた操り人形のように崩折れる・・・その寸前に、近くにいた沢田が何とか抱き留めた。この際に、耳栓をナキアに無理矢理つけた。
「撃て!」
良持の号令。
同時に、10人の89式小銃が火を噴いた。分隊員は、先程からの攻撃から“敵”が大体どの方角にいるのかを把握していた。曳光弾混じりに次々と撃ち出される秒速900m以上の鉛玉が、敵の命を次々に刈り取って行く。良持も離れた位置にいた敵を3点バーストで斃し、既に2人目を屠った。ダットサイトをずらし、照門越しに見つけた黒い人影を見つける。3点バースト・・・弾丸は吸い寄せられるように黒い人影に命中。人影は直ぐに斃れた。これで3人目。
極相林に響く、耳をつんざく様な発砲音。それが鳴り始めてから、1分・・・いや、2、30秒程度。89式小銃の発砲音は止んだ。
チャリ・・・。
「・・・。」
静まり返った林内に聞こえるのは、自らの息遣いと地面に転がった薬莢の金属音だけ。しかし警戒を怠ることは無い。
小銃と共に周囲を見渡し、目に見える範囲には敵がいないことを確認する。
「後退だ。本隊と合流する・・・通信可能になり次第、直ちに現状を報告するんだ。」
「了解。」
広帯域多目的無線機(携帯用一型)を背負いこんだ隊員にそう言いつけ、良持自身は先程と同じ様に殿を務めながら後退する。何らかの“力”を使ったらしくグッタリしているナキアを抱えた沢田は、相変わらず一番先頭だ。小銃を構えながら迅速に後退する。
その間、良持は突如襲撃してきた“敵”と、ナキアの呈した“力”の事を考えていた。
あの時最初に撃ってきた射撃は、間違いなくナキアを狙ったものだった。沢田が彼女を抱き込んで伏せていなかったら、直撃こそしなかっただろうが吹き飛んだ枝や木の破片が当たっていたかも知れない。何故連中はナキアの命を狙ったのか・・・あれが、彼女の言っていたカラブリァン皇国、メッセルケルビール連合帝国とかいう帝国主義国家の人間なのか?もしそうだとしたら、これは本当に、本当に面倒というかとんでもない事態に巻き込まれている。
突然所属の誰何もせずに発砲してくる様な連中だ。ろくな話し合いができるとは思えない(こちらも、反撃して連中を何人か射殺しているから余計だ)。
そしてあの時ナキアの示した不可思議な力・・・あれが、ナキアの言っていた魔法とかいう代物なのだろうか。空中に突然現れたドーム状の青白い壁・・・不思議だか、あれが無ければ間違いなく良持達は木っ端微塵に吹き飛んでいた筈だ。そういえば、自分達に反撃を促した際にも、魔法がどうとか言っていた。もしかすると、彼女の言う魔法というのは科学技術の俗称の事なのかも知れない。先程の“あれ”で、(原理は分からないが)相当疲弊したのか、ナキアは沢田の腕の中で眠っていた。
だが何にせよ、年端もいかぬ少女にここまでの負担を強いてしまった。先に助けてもらった事も加えて、目を覚ましたら謝罪をしておかなくてはならない。
◆
そうして暫く極相林を掻き分けながら進むと、ようやく無線機が繋がる地点まで辿り着いた。追っ手はいない。
「・・・よし、小隊本部と通信が繋がりました。」
無線機の周波数を弄っていた隊員がそう告げる。
「小隊本部に不明勢力と交戦した旨伝えろ。これから戻る、ともな。」
「了解。」
だが暫く小隊本部との通信をやり取りしていた隊員の顔が、みるみる青くなる。
「どうした?」
訝しげに問う良持に対して、その隊員は血眼になって良持に言った。
「小隊本部が、国籍不明の航空勢力に襲撃されているとの事です‼︎」
「何だと⁉︎」
驚愕の声と共に小隊本部の方向に振りかぶる。木々の織りなす樹冠の間から、僅かに立ち上る黒煙を認めたのは、ほぼ同時だった。
後数話で次の章に行けるけどいつになるのかな。




