↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/19

第19話 ランキングの壁

 投稿を始めて一週間が過ぎた。


 お気に入りは二十七。


 感想は五件。


 アクセスも最初の数日とは比べものにならない。


 十分な成果だ。


 そう思うべきだった。


 俺はランキング画面を開く。


 自分の作品名はない。


 「……まだか」


 未来の俺は知っている。


 ランキングへ入ると、読者の流入が変わる。


 新着から消れても作品を見つけてもらえる。


 評価が評価を呼ぶこともある。


 だから、どうしても最初の壁を越えたい。


 現在のランキング下位を見る。


 お気に入り数。


 評価。


 更新頻度。


 分かる範囲で記録する。


 単純比較なら、俺の作品も近い。


 だが順位はつかない。


 翌日、お気に入りが三つ増えた。


 まだ入らない。


 さらに翌日。


 二つ増える。


 入らない。


 「しぶといな」


 壁に向かって文句を言っている気分だった。


 会社でも気になる。


 仕事が終わればすぐ確認する。


 更新する。


 数字を見る。


 また更新する。


 一度目の人生と同じ悪い癖が戻ってきた。


 夜、原稿を書こうとしても集中できない。


 どうすれば一気に読者を増やせる。


 タイトルを変えるか。


 更新回数を増やすか。


 もっと強い展開を入れるか。


 未来で流行る要素を追加するか。


 そこで視線が机の引き出しへ向いた。


 未来ノート。


 数日ぶりに開く。


 そこには、未来で俺が何度も読み返した作品の題名が並んでいる。


 『無職転○』


 その文字を見た瞬間、物語が頭の中に立ち上がる。


 強い。


 今の俺の作品より、はるかに強い。


 未来で大勢の人間に読まれ、愛された物語だ。


 もし、これを今の時代に俺が書いたら。


 誰も知らない。


 まだ存在していない。


 盗作だと指摘する人間もいない。


 作者本人ですら、まだ書いていない。


 「……」


 ページをめくる手が止まった。


 これまで未来作品を参考にすることはあった。


 なぜ面白いのかを考えた。


 構成の考え方を学んだ。


 でも今浮かんだのは、それとは違う。


 そのまま使えばいい。


 初めて、はっきりそう考えた。


 「馬鹿か」


 ノートを閉じる。


 誰も知らなくても、俺は知っている。


 俺が作った物語ではない。


 ランキングへ入るためにそこまでやったら、何のために過去へ戻ったのか分からない。


 俺は自作を第一話から読み直した。


 感情ではなく、欠点を探す。


 中盤に緩い話が二つある。


 主人公の目的が薄くなっている。


 町で暮らすだけになっている。


 そこを直す。


 次の三話を一つのまとまりにした。


 主人公が異世界で初めて、自分で選んだ居場所を手に入れる。


 大きな家ではない。


 名声もない。


 古い部屋と、小さな仕事。


 それでも自分で選んだ。


 物語の最初の到達点になる。


 翌日から三日かけて書き直した。


 公開する。


 お気に入りが増える。


 感想も来る。


 ランキングには入らない。


 「まだかよ」


 悔しい。


 だが昨日までとは違う。


 未来ノートを開きたい気持ちはある。


 それでも、自作で壁を越えたいという意地も生まれていた。


 その夜、美咲からメッセージが来る。


 『最近の話、最初より好き』


 『どこが?』


 『主人公がちゃんと失敗するところ』


 『褒めてる?』


 『かなり』


 笑った。


 未来の知識を使った部分ではなく、自分で悩んだ部分を褒められた。


 翌朝。


 出勤前に作品ページを開く。


 いつもと違う表示が目に入った。


 ランキング。


 下のほう。


 本当に下だ。


 それでも、そこに俺の作品名がある。


 「……入った」


 画面を更新する。


 消えない。


 順位を確認する。


 もう一度作品名を見る。


 間違いない。


 五十歳まで欲しがり続けた景色の、ほんの入口。


 未来の名作を使わず、自分の作品で立った場所。


 俺はしばらく画面を閉じられなかった。


 「ここから上がる」


 小さく言う。


 その言葉は願いではなかった。


 初めて、具体的な目標として口にできた。


 ランキング下位にいる他作品も何本か読んだ。悔しいが、普通に面白い。


 冒頭が俺より速い作品も、人物の会話が自然な作品もある。


 未来を知る自分だけが特別だという気分は、それを読むたび削られた。だが、その悔しさは悪くない。


 未来の答えを出す前に、今いる書き手たちと自分の作品で競ってみたいと思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。