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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第27話: 最強の聖剣と、世界で一番甘い心臓抜き

魔王城でのトップ会談(物理)を終え、

俺たちはスレイプニルを飛ばして

聖王国グランディアへと舞い戻った。


王城の正門前。

そこには、復讐に燃える

バカ五人衆が待ち構えていた。


「現れたな、ゴミ共!」


金髪の勇者カイトが、

聖剣を抜いて勝ち誇ったように叫ぶ。


「逃げ回るネズミもついに年貢の納め時だ。

俺のチートで絶望を……」


「全員倒しますよ!」


カイトの痛い口上を遮り、

ミクが気合十分に前に出た。


「ミク、勇者以外の四人は任せる。

油断はするなよ」


「はいっ! 楽勝です!」


賢者、聖女、剣士、魔闘家。

腐っても神からチートを与えられた連中だ。

ステータスだけなら一般人を凌駕している。


だが、結果は惨憺たるものだった。


「食らえ、大魔……」

「遅いです」


賢者が呪文を詠唱する前に、

ミクの回し蹴りが顎を砕く。


「わ、私の聖なる結界……!」

「もらいっ!」


聖女が防御を展開する前に、

『収納』を乗せた質量パンチが

障壁ごと彼女を吹き飛ばした。


圧倒的な実戦経験の差。

チートに胡座をかき、

安全な場所から魔法を撃っていただけの

「お遊戯」ゲーマーたち。

泥臭い殺し合いを潜り抜けてきたミクの

敵ではなかった。


開始数秒で、

勇者以外の四人が血の海に沈む。


「き、貴様ら……! よくも仲間を!」


カイトが激昂し、

聖剣を上段に構えてミクに突進する。


「死ねぇぇぇっ!!」


その踏み込みの速度は、

先ほどの四人とは比較にならなかった。

さすがは勇者。

基礎フィジカルはミクの倍以上ある。


だが、ミクは焦らない。

冷静に『液状化の指輪』を発動し、

ヌルリと刃を滑らせようとした。


――ガギィッ!!


「えっ!?」


滑らない。

聖剣の放つ神聖なオーラが、

指輪の魔力障壁を強制的に切り裂いたのだ。

これが、勇者の絶対的なチート。


「もらったぁ!!」


カイトが狂喜の笑みを浮かべ、

そのままミクの胴体を薙ぎ払う。


「くっ……!」


ミクは咄嗟に自分の腕を掴み、

『セルフ・ストレージ(防御)』を展開。

同時に、アラクネの糸とビートルの装甲で

編み込まれた特注のコートが衝撃を殺す。


ザシュッ!


重い衝撃音と共に、ミクの体が弾き飛ばされた。

だが、ワインレッドのコートが裂けただけで、

致命傷には至っていない。


「ふふっ……」


土煙の中から、ミクがゆっくりと立ち上がる。

その口元には、

好戦的で凶悪な笑みが浮かんでいた。


「面白くなってきましたねぇ」


戦闘狂のスイッチが入った目。

彼女が再び地面を蹴り、

勇者の懐へ飛び込もうとした、その時。


ガシッ。


俺は横から手を伸ばし、

ミクの肩を強く掴んで引き寄せた。


「えっ? アツシさん?」


「そこまでだ、ミク」


俺は静かに、だが確かな熱を込めて言った。


「お前に死なれたらこの世はつまらない。

相棒としてじゃなく、

女として愛してるぞミク」


「……え?」


ミクの目が、まん丸に見開かれた。

戦闘狂の狂気が、一瞬で吹き飛ぶ。

彼女の白い頬が、

ボンッと音を立てるように真っ赤に染まった。


「あ……えっと……ええっ!?」


その瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出す。

最強のヴィランが、

ただの恋する女の子の顔になっていた。


「アツシさん……私……私もっ……!」


「おい、ふざけるな!!」


空気を読まない怒号が響いた。

完全に置いてけぼりを食らったカイトだ。


「俺の目の前で……!

俺を無視してイチャつくな!!

お前ら殺してやる!!」


カイトが顔を真っ赤にして激怒し、

聖剣にありったけの魔力を込める。

剣が太陽のように眩く発光し、

空間そのものが震え始めた。

勇者の最強スキルだ。


「消し飛べェェェッ!!」


「お前煩いよ」


俺はミクを抱き寄せたまま、

空いている右手を軽く前に出した。

そして、視線をカイトの胸元へ向ける。


ぽんっ。


俺の右の掌の上に、

ドクン、ドクンと脈打つ

温かい肉塊が出現した。


遠隔からの『臓器収納』。


「……」


カイトの動きが、ピタリと止まる。

振り下ろそうとした聖剣が、手から滑り落ちた。


彼は信じられないという顔で、

俺の手の上にある「自分の心臓」を見た。


「あれぇ?」


間の抜けた、最期の一言。

カイトは白目を剥き、

糸の切れた操り人形のように

ドサリと地面に崩れ落ちた。


圧倒的な力の差。

どれだけ鍛えようが、チートを持とうが。

システムのバグの前には無力だ。


「……まったく、ムードの欠片もないな」


俺は血まみれの心臓を

そのまま亜空間のゴミ箱に放り投げた。

そして、腕の中で顔を真っ赤にして

涙ぐんでいるミクを見下ろす。


「大丈夫か、ミク」


「……はいっ。

アツシさんのおかげで、無傷です!」


ミクが、最高に可愛らしい笑顔を向けた。


俺たちの前には、

五つの物言わぬ死体が転がっている。


これで、邪魔者はすべて消えた。

聖王国の戦争ごっこも、これで終わりだ。


俺たちは自然と手を繋ぎ、

血の海を跨いで歩き出す。


「さあ、王女と面会だ。

戦争止めるのか、俺達の敵になるのか」


「どっちにしても大変だろうがな」


俺は空を見ながら笑った。

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