第19話 聖なる夜の断頭台と、笑う共犯者
魔法都市ルーンを出て、
俺たちはついに「聖王国グランディア」の
王都へと戻ってきた。
第1話で召喚された、あの城がある街だ。
街は祭りムード一色だった。
『勇者パーティー、魔族領へ進軍!』
『連戦連勝! 聖戦の勝利は近い!』
あちこちに垂れ幕が下がり、
貴族たちは毎晩のように
戦勝祈願のパーティーを開いているらしい。
「アツシさん、見てください」
ミクが露店で買った
串焼きを頬張りながら、
白亜の城を見上げる。
「あそこで私たち、
ゴミ扱いされたんですよね」
「ああ。
『帰すコストが惜しい』とか言ってたな」
「ムカつきますねぇ」
ミクの口調は軽い。
だが、その瞳は笑っていなかった。
「そろそろ、この国ともお別れですし」
「ご挨拶、行きますか?」
「そうだな」
俺はニヤリと笑った。
「借りたものは返す。
やられたらやり返す。
それが大人のマナーだ」
「落とし前、つけに行くぞ」
その夜。
王城の大広間では、
大規模な舞踏会が開かれていた。
勇者たちは前線にいるが、
王族や有力貴族たちが集まり、
まだ手に入れてもいない勝利を祝って
酒を浴びている。
「ガハハ! 魔族など恐るるに足らん!」
「汚らわしい亜人は根絶やしだ!」
会場は、欲望と差別意識の掃き溜めだ。
そこへ、
二人の影が現れた。
正装した男女。
俺とミクだ。
俺は「時間修復」した黒のスーツ。
ミクは古着屋で買い、
新品同様に戻した深紅のドレス。
その美しさに、
会場の視線が一瞬だけ集まる。
「あら、どこの貴族かしら?」
「見たことのない顔だが……」
俺たちは堂々と中央へ進む。
衛兵が槍を交差させた。
「止まれ! 招待状は……」
「邪魔だ」
俺は指を鳴らす。
『対象:槍の穂先』
『実行:収納』
ヒュンッ。
鋼鉄の穂先が消滅する。
衛兵たちが棒切れを持って呆然とする隙に、
俺たちは会場の最奥へ。
玉座には、
あの時の国王がふんぞり返っていた。
隣には王妃と、第一王子。
「誰だ、貴様らは!」
国王がワイングラスを置いて叫ぶ。
俺は優雅に一礼した。
「お久しぶりです、国王陛下。
あるいは『神の使いっ走り』殿」
「な……!?」
「忘れたか?
数ヶ月前、あんたが『ゴミ』と呼んで
捨てた廃棄物だ」
国王の顔色が青ざめる。
記憶が蘇ったらしい。
「き、貴様ら……
生きていたのか!?」
「ええ、おかげさまで」
ミクがスカートの裾をつまみ、
可憐にカーテシー(挨拶)をする。
「森を散歩して、
美味しいものを食べて、
ここまで戻ってきました」
「でも、一つだけ心残りがありまして」
ミクが顔を上げる。
そこには、
会場中の空気を凍らせるほどの
「笑顔」があった。
「私たちを殺そうとしたこと、
まだ謝ってもらってないなって」
「ふ、ふざけるな!
衛兵! 衛兵は何をしている!
この不敬者を殺せ!」
国王が喚く。
周囲の貴族たちも騒ぎ出す。
「そうだ! 殺せ!」
「亜人の味方か!?」
「薄汚い平民が!」
殺意、蔑み、嘲笑。
会場中から敵意が向けられる。
俺は『システム』を展開した。
視界に映る人間たちをスキャンする。
『ターゲット選定』
大半は「黒」。
だが、会場の隅に、
怯えたように震える少女がいた。
第二王女だ。
彼女だけは、この戦争の話に
一度も笑っていなかった。
その横にいる女性、第三妃もだ。
彼女たちは「知らなかった」側か。
あるいは、止める力がなかったか。
「……区分け完了」
俺はミクに目配せする。
「あそこの二人以外、全部だ」
「了解です、ボス!」
ミクがドレスの裾を翻した。
「じゃあ、パーティーの始まりですね!」
ドォンッ!!
ミクが床を蹴る。
深紅の弾丸となって、
一番近くにいた
「亜人は殺せ」と叫んでいた貴族に肉薄する。
「首、もらいますね!」
彼女の手刀が閃く。
『質量操作』を乗せた手刀は、
名刀よりも鋭い。
スパァンッ!
貴族の首が宙を舞い、
スープの中に落ちた。
鮮血の噴水が上がり、
隣の貴族のドレスを赤く染める。
「きゃあああああッ!!」
悲鳴。
怒号。
パニック。
「逃げるなよ、主役だろ?」
俺も動く。
逃げようとする国王の前に立つ。
「ひっ……!
ま、待て! 金か!? 地位か!?
なんでもやる!」
「いらないな」
俺は冷たく見下ろす。
「俺たちが欲しいのは、
平穏と、美味しい食事だけだ」
「あんたたちは、それが一番邪魔なんだよ」
『対象:国王の頚椎(首の骨)』
『実行:収納』
俺は、国王の首に触れることなく、
「繋ぎ目」だけを消滅させた。
ゴロン。
王冠を被った頭が、
床に転がり落ちる。
痛みすらない、完璧な断頭。
「あなたーッ!!」
「父上ッ!!」
王妃と王子が叫ぶ。
「うるさいですね」
ミクが背後から現れる。
両手には、すでに数人の貴族の首が
ぶら下がっていた。
「家族仲良く、一緒にどうぞ!」
ミクが王妃と王子の首を刎ねる。
地獄絵図だった。
だが、俺たちにとっては
ただの「事務処理」だ。
数分後。
会場は静寂に包まれた。
生き残ったのは、
第二王女と第三妃だけ。
彼女たちは腰を抜かし、
ガタガタと震えている。
俺は彼女たちに近づいた。
「ひっ……殺さ……ないで……」
「安心しろ」
俺はテーブルから
無事だった高級ワインのボトルを掴み、
ラッパ飲みした。
「あんたたちは『白』判定だ。
敵意がなかったからな」
「……え?」
「この国のトップは消えた。
あとは好きにしろ」
俺は空になったボトルを放り投げた。
「行こうか、ミク」
「はーい!」
ミクが、
血まみれのドレスのまま戻ってくる。
その手には、
一番美味しそうなローストチキンが
握られていた。
「お土産、確保しました!」
「ちゃっかりしてるな」
俺たちは窓枠に足をかけた。
外からは、
異変に気づいた兵士たちの足音が聞こえる。
「あー、楽しかった!」
ミクが夜風に髪をなびかせて笑う。
「スッキリしましたね、アツシさん!」
「ああ。
これで心置きなく出国できる」
俺たちは
生首が転がる舞踏会場を背に、
夜の闇へと飛び出した。
「「アハハハハハ!!」」
二人の笑い声が、
王都の空に響き渡る。
「次は海鮮丼ですね!」
「醤油の代わりも見つけたしな」
二人の笑い声が、
王都の空に響き渡る。
聖王国グランディア。
その歴史に、
「最悪の怪事件」が刻まれた夜。
だが、
犯人たちは知ったことではない。
俺たちは
チキンを齧りながら、
次の国を目指して走り去るだけだ。




