プロローグ
久しぶりの連載、週一のゆっくり連載です。
目を開けると、フレンチのような洒落た料理を前にしていた。
銀のナイフとフォークを握る手は私のものではない。感覚的に「夢か」と理解する。
夢の中で、私ではない私になることは何度もあるから、特に気にせず周囲を見回す。
クラシカルなメイド服を着た人が室内にたくさんいる。料理に目を落とす。ナイフは鋭く光っている。
「ヨーロッパの近世貴族風……そんなゲームしたか?漫画で異世界物は読んだけど、デコルテは、あー、出す派の漫画だったか?」
私は立ち上がると壁にかかった大きな鏡の前に移動する。
鏡に写る私は知らない女の容姿をしている。
茶色の髪に緑の瞳。美人なのは理解できるが、それと同時に性格の悪さが出た顔に嫌気が差す。
人を羨む、妬ましいといった目つきをした女性。
「はぁ」
ため息をつき、席に戻る。テーブルに置いたナイフを掴み、首を掻っ切った。
「お嬢様!!」
「きゃー!!」
これで夢から覚めるだろう。
「急に死ぬなんて!何をしているのですか!貴女は!!」
目を開けると知らない場所にいた。マーブル模様の、上下の区別もつかない変な空間。
さっきのは夢で、また夢?と眉間に皺を寄せる。
「聞いていますの?!」
「うるさいよ、ん?誰、アンタ」
体を起こし、うるさく騒ぐ女を仰ぎ見る。
顔が認識出来ない不審で異常な女は
「わたくしは女神」
と頭のイかれたことを口にした。
「拗らせイカれ女か、まじやべぇ夢だな」
「口を慎みなさい!わたくしは南を司る女神。わたくしの守護する土地で」
「はいはい。やべぇな、もっかい眠れば別の夢で上書きできるか」
ゴロンと寝転がる私に自称女神のイかれ女が
「聞いて下さいまし!わたくしに力を貸してくださいませ!!」
泣きついてきた。
体を強めに揺さぶり涙声で懇願する自称女神に少し憐憫の情が湧いた。
「なんです?」
「わたくしはとある土地を守護する女神でございます。その土地を呪いが覆ってしまい解呪が出来ずに困っております。その手助けをして欲しいのです」
「なんで私が?」
「わたくしの声を聞けるのは特殊な資質を持った女性のみ。この世界で聖女と呼ばれる者のみ、でございます。その資質がある四番目の資格者が貴女です。」
アラサー聖女とか嫌だ。
「……一から三番目は」
「解呪は敵いませんでした」
「それ、どんな呪いなんですか。四番目なんか補欠でしょ?解けなさそうなんですけど」
聖女の資格者の中でも優先度が高かった三名に解呪出来ないものを何故四番目の私が出来ると思うのか、自称女神の感覚はやはりイかれているらしい。
「はぁ、元の世界に戻りたいんですけど」
「解呪に挑戦していただくまで帰しませんわ」
「放棄したら」
「ええ。帰しません。手を抜いていると判断した場合も次の聖女候補を召喚するだけで貴女は帰しません」
「……」
なんて自称女神だ。
「分かりました。まず呪いってなんですか」
取り敢えず進む以外の道がないことは理解した。
自称女神の説明を聞く。
呪いは自らの全てを懸けて発動するとんでも魔法のようなものと受け取った。
「呪いってそんなに簡単に出来るんですか?怖すぎる」
「わたくし達が守護する大陸では比較的発現率は高い事象ですの。ですが、解呪の出来ないものは殆どありませんわ」
「何で今回は出来ないんですか」
「分かりませんわ。」
「女神さまが直接出張っても駄目なんですか」
「いいえ、わたくしは策を講じることは出来ても直接手を下すことは出来ません。力が強大で守護する土地を吹き飛ばしてしまいますわ」
「それは、また、本末転倒なことになりますね、はぁ。だから四番目でも召喚せざるを得ないのか。……呪いの内容次第では放置は駄目なんです?」
「無理よ、次代の聖女を生まない呪いなんて放置出来ないわ」
聖女の役割は女神の声を聞き、自然災害に備えること、魔獣という生物の討伐に赴くこと。
「自然災害に備える?って予言でもするんですか?」
「ええ。未来予知とでも言えばいいかしら」
「それ必要?女神の守護していない土地では当たり前でしょ?」
「必要ですわ。この土地の民が受けられる恩恵ですもの。他の土地ではその土地特有の恩恵が受けられますから特別なことではありません」
大陸の東西南北の果ての土地には聖女が、中央は領域神の守護で天才肌が多く生まれる。ソルシエールという島国は属性神の加護を持つ者が多数いて、その他の島々にも固有の恩恵があるらしい。
属性神の加護を持つ者が少ない大陸の人間には女神の加護が生まれつきあるとか。
「解呪か、それで女神さまは私に必要なものを用意してくれたりするんですか?」
「ええ。望む物を言いなさい。」
「じゃあまず」
「まず?」
「呪いの元凶の人の情報と三人の聖女候補さん達が講じた手段を」
私は必要な物をつらつらと並べる。
呪いの元凶はアニエス・スピノザ。南の国の聖女だった。高慢で孤立気味だったがとある事件をきっかけに擁護派とも縁が切れ、完全に孤立する。そして、父親が謀反を起こすも失敗、投獄される。
獄中での暴力、凌辱により精神を病み、処刑の日に呪詛を吐き死んだ。
「まさかそんな女だとは」
「悲惨な運命を辿ったのだから、別の未来を提示出来れば満足するかと思って聖女候補の三人には思い思いの方法でアニエスとして生きてもらったの。聖女の力に目覚めて四年の間ではあったけれど」
一人目は完璧な聖女として過ごした。
二人目は貴族令嬢として生きた。
三人目は悪虐の限りを尽くす悪女として。
話を聞く限りやるだけやったのは理解した。
「次に女神さま。アニエスと三人の聖女候補さんのアニエスとしての記憶を全部観せて下さい」
「へ?」
「私は、ゲームは攻略本を片手に楽しむ派なんです。ゲーマーの弟には邪道と言われますが、とにかくそういう人間なんです。情報がないと一歩も進めないんです。」
「わ、分かったわ」
「あ、ここって時間制限あるんですか?」
「いいえ。外と時間の隔離された空間ですから、気のすむまで情報を集めるといいわ」
「あ、メモ帳も下さい。ペンも」
細かい要望もあれこれつけ加え、記憶を全部観る準備を整える。
自称女神は記憶の再生と早戻しとコマ送りもできるリモコンのような物を作ってくれた。凄い柔軟性だ。
どれだけ重要かを懇切丁寧に説いただけある。
「よし、やるか」
ひたすら記憶を観るだけの時間が始まった。




