第26話
北の調査を終えた俺は村へと戻り、昨日同様会議室へと皆を集めた。
「北の亜人たちが、上界へと攻め込もうとしているのは確定だ」
今日聞いた情報を伝えると、皆の表情が引き締まったものとなる。
代表するように、リビアが問いかけてきた。
「そうですか……。ということは、いずれ近くを通る可能性がありますね」
「ああ。最悪なことに、南の亜人たちを従えるとも話していた。どうやら、俺たちのことも知っているみたいなんだ」
「……どのような、認識なのでしょうか? 私たちを、敵としてみているのですか?」
「敵、とまでは思っていないかもしれないが……弱い立場だとは思っているみたいだ。最悪、俺たちを無理やり従わせるつもりみたいだ」
俺の言葉に、皆が顔を見合わせる。
当然、そのような反応になるだろう。
特に、ヴァンニャ、ゴルガ、カトリナの表情は険しい。
一度、無理やりに従わされたことがあるのだから当然だ。
「そこで、皆に改めて確認したい。皆はどうしたいかと思ってな。各種族の意思も確認しておきたい。また、個人で戦いに参加したいというのなら、止めないともな。まずはオルフェからいいか?」
どんな結果になろうとも、俺は構わないと思っている。
戦いに参加したい者には、何かしらの理由があるだろうしな。
「まずオレは昨日と同じく、参加するつもりはない。そして、ワーウルフたちにも聞いたが、皆戦いには参加しないと話していた。それが、ワーウルフ種の総意だ」
「分かった。次はリビア。どうだ?」
俺が声をかけると、リビアが口を開いた。
「私も参加するつもりはありませんね。そして、ゴブリン種の皆もそうです。ここでの生活が楽しいそうですよ」
そう言ってもらえるのは、嬉しい限りだ。
微笑を浮かべるリビアに笑みを返してからスフィーを見る。
スフィーの種族は、いるのではないだろうか? そんなことを考えていると、
「私たちも参加の予定はなしよ。ここで安全に楽しく暮らせるのに、わざわざそんなことしたくないし」
「……そうか」
「クレストは参加すると思っていたの?」
「そうだな。もともとスフィーの恨みを皆が聞いているとかありそうだと思ってな」
「まあ、それなりに思うところはあるみたいだけどわざわざやり返してやる! っていうほどの子はいないわよ」
なるほどな。
俺も、ハバースト家に追放されたとはいえ、別に彼らを殺したいとまでは思ったことはない。
そりゃあ、気持ち的には嫌な部分はあったけど、あくまでそれだけだしな。
視線を、ヴァンニャ、ゴルガ、カトリナへと向ける。
「ヴァンパイア種も参加予定はないんじゃよ!」
「オレたちもだ。ここで、石を弄っていられるほうが、楽しいからな」
「私たちも。自由に木々を加工していたい」
三者それぞれの言い方ではあったが、意見としては同じだ。
皆の意見を聞き終えた俺は、どこかほっとしていた。
……やっぱり、せっかく仲良くなった皆にはここに残って欲しかったからな。
全員が反対の意見を出した今、俺たちがやらなければならないのは北の対応だ。
「さっきも話したが彼らは俺たちを支配下に置こうとしている。もしも、従わなければ……戦うことになるかもしれない」
俺がそういうと、皆の表情が引き締まった。
「もしも、北の亜人たちが来たとして、戦うことになったときには……皆にも協力してもらいたいと思っている」
苦しい戦いになるかもしれない。
だが、俺の思いに皆が頷いてくれた。
「もちろんです。私は首領のためならば、すべてを捧げるつもりです」
リビアがそういうと、他の人たちも頷いている。
「この村を守るために、わしも頑張るんじゃよ」
ぴくぴくと翼を動かし、笑みを浮かべるヴァンニャ。
「分かった。今日は皆の意思確認をしたかったんだ。ありがとう」
とりあえずの方針は決まった。
北の亜人たちがここへ来たときに、俺がやらなければならないことは……敵の首領よりも力を示すことだ。
それができれば、全員で戦う必要もなくなるかもしれないからな。
夜の会議を終えた後、俺はエリスを呼び止める。
「エリス。少しいいか?」
「はい、なんですの?」
「もしも、戦うときには……エリスにも協力してもらいたいと思っている」
「もちろんですわ。クレストのためならば、わたくしなんでもしますわ」
興奮した様子でそういうエリスは、ちょっと怖い。
怯みながらも、俺は感謝の気持ちを伝える。
「あ、ありがとな。そこで、補助魔法についてだが、どの程度まで強化できるかも試したいんだ。明日にでも、協力してもらっていいか?」
「ええ、分かりましたわ」
暗黒騎士の肉体強化でもそうだが、強化した肉体をうまく扱えるかどうかは練習しておく必要がある。
また、暗黒騎士とエリスの補助魔法が同時に効果を発揮するのかも気になるところだ。
「それじゃあな、エリス」
「クレスト、今夜はわたくしの家にも泊まりませんこと? 久しぶりに、一緒に寝たいですわ」
久しぶり、か。
そういえば、何度か抱き枕として添い寝させられたことがあったような……。
そのときのエリスの寝相は凄まじいものであり、あまり良い思い出はない。
俺が断ろうとしたとき、脇からリビアがすっと現れた。
「エリス様。クレスト様は私と一緒に寝ますので」
「わたくしはクレストに聞いていますの」
エリスがじっとこちらを見てくる。
二人の視線を受けながら、俺はすぐにエリスに言葉を返した。
「リビアの言う通りだ。悪いな」
あくまで、エリスには一定の距離を取るつもりだ。
まあ、そういうのなしにしてもこんな誘いに乗るつもりはないけど。
俺の言葉に、エリスは残念そうな表情を見せていた。
「むぅ、仕方ありませんわね。それでは、また今度」
「いや、今度があるわけじゃないぞ?」
「そんな寂しいことを言わないでくださいましー」
むすーっと頬を膨らませた。
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