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数多の世界で紡ぐ物語~秘されし神の皇は数多な異世界を渡りその崩壊を防ぐ~  作者: 灯赫
最終章 原初に交わる神と翼

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227話 四傑候補③

久しぶり! 水曜更新!

 ――オオオオオォォォン!!!


 頭上にはじりじりと照り付ける太陽。

 ミヤさんの指示によって一気に上空まで退避してきたが、その直後である。

 僕たちの真下から、飲み込まれると思わされるほどの重低音をした鳴き声が発せられ、魔境に響き渡る。

 その音の広がり様は、森林の木々が放射状に揺れていくことで、地平線の彼方にまで伝わっているのが分かった。


 ――バキィッ、バキバキバキッ


 それと同時に聞こえてきたのは、そんな木々がなぎ倒されていく音。

 ひとまず安全地帯まで、移動してこられたので三人で下を向いてその音の正体を探ってみれば、それは真っ黒な巨大なクジラであった。


 森林の地表から、まるで海中から餌を求めて飛び出してきたクジラのように、頭部だけが地上へと突き出していた。

 そのパックリと開いていた大口は、辺り一帯の森林をその地表ごと飲み込まれていく。

 開かれた口の広さは、目算でも最低数百メートル、下手をしたら一キロ越えもあり得る。

 口内に収まった大地は、割れたせんべいの如くヒビが入って大小さまざまに小さな塊となっていき、その巨躯の内に消え去っていった。


「ミヤさん、あれは?」


「まあ、察しはついているだろうが、アレがこの区域の四傑候補だ。

 詳細は、これで断定できるはずッ――」


 そう言いながら、ミヤさんは先ほど地上で展開していた、周囲を照らす火種の魔法を発動させる。

 そうして、それを眼下にいる黒いクジラの魔物に向けて発射した。


 飛んでいった火球はどんどん小さくなっていき、眼下に存在するクジラの巨体も相まって、ほんの砂粒ほどの大きさにしか見えなくなっていく。

 だが、直後にその火球が及ぼした効果は絶大だった。


 ――グルオオオォォォォン!!!


 直下のクジラの魔物から放たれた苦悶交じりの鳴き声が響く。

 その圧に少し押されながらも、目に出来たのは火球がクジラに触れた場所の異様な様子だった。


 火球がクジラに接触した直後、普通ならば皮膚に弾かれるはずの火球は、そのままクジラの身体を割って真っすぐに飛んでいった。

 正確に言うのであれば、クジラの身体を構成する黒い何かがそれを避けて当たらないようにと体にわざと穴を作って素通りさせているのだ。

 火球が近づけば磁石が反発する様な勢いで開くクジラの肉体。

 そして、その穴の端では綻びが生まれたかのようにして、黒いこまごまとしたものが漂い慌てて肉体に合流していく。

 その姿は――。


「小さな魚?」


「ああ、そうさ。

 今ので確信がいったよ。

 あの魔物の正体は大規模な影魚の群れだ」


「影魚、影の魚の群れですか。

 と言うことは、一匹一匹は小さい魚が集まってあんな大きなクジラに」


「ああ、その通り。

 ティラノの時と同じ感想にはなるが……、これもまたかなり珍しいね」


 影魚。

 幻想種に分類され、普段は実体を持たず、影の中に馴染み潜む魚の魔物。

 影と言うだけあって体は黒一色で、光に弱い。

 姿はそれこそ魚のアジに似ていて、体の大きさもそれと同じく人が手に持てるくらいの小ささだ。


 単体だと影に潜んで待ち、生物が近づいてきた時に自身の魔力を実体化させて捕食する。

 だが、今回のように群れを形成すると、身を寄せ合って大きな肉体を構成することがある。

 そうなれば、単体では到底相手に出来ない大型の魔物も体格で上回り、捕食対象にしてしまう。

 無論、今回の様な大規模な群れはイレギュラーだが。

 普通ならば、大きくても二メートル位にしかならない。


 ――ズズズズズズッッ


 バックリと口を閉じた影魚は、地面へと頭をひっこめて消えていった。

 いや、影魚の生態からすると影の中に潜っていったというのが正しいかもしれない。


「二人とも、もっと高度を上げるよ!

 あいつ、また突っ込んでくるぞ」


 影魚の姿が消え、安堵することが出来たのはつかの間で。

 その動きを観察していたミヤさんは、影魚が再び突撃してくる予兆を察知した。

 幸い、現状でも地表からの距離はかなりある。

 僕たちは余裕をもって、更に空の高いところに移動が出来た。


 ――ルオォォォォォォンッッッ!!!


 僕たちの真下から飛び出してきた影魚は、そのフォルムも相まってロケットが打ち上がるようにして真っすぐ僕たちの方へと向かってくる。

 口は空気抵抗を抑えるためか、先ほどのように大開きにはせずに少しの隙間が空いている程度。

 それでも、開かれた口の幅は最低でも十メートルはありそうだ。


「ひゃぁぁぁ!

 な、ナギ兄様!?」


 目の前に迫る巨大な口と、その中に顔をのぞかせる底の見えない漆黒の闇。

 最初こそ距離があって小さく見えたが、今は目下数十メートルの所にまで迫った影魚の巨躯によって視界が覆いつくされてしまっている。

 至近距離で見る影魚からは、途方もない圧が感じられた。

 それに当てられてか、ユメはぎゅっと僕の腕に抱きついてくる。


 だが、僕たちはその口に吞まれることは無かった。


 ――ルオォォォォォォンッッッ!!!


 最初は勢いよく飛び出してきた影魚だったが、その巨体の三分の二が宙に飛び出した所で失速。

 僕たちからほんの数メートル下でピタリと動きを止めたかと思うと、勢いを失って重力に従い斜めに地面へと倒れていく。

 その様は、本家のクジラが海中から飛び出して、その巨躯を海面へと叩きつける光景そのものだった。


 そうして、地面へと再び衝突した影魚はその巨躯で数キロ範囲の樹林を圧壊。

 まるで水中に潜るかのようにして、スーっとその身を影の中へと落としていくとそれっきり姿を現すことは無かった。



 *    *    *



 影魚の消失からしばらくして。

 再びの接触を回避するため、僕たちは影魚の縄張りを抜けるところまで高度を保ったまま移動。

 そうして、安全地帯を見つけたところで地上に着地した。


「く、クジラってあんなに凄い生き物なんですか?」


 ユメは未だに先ほどの影魚を見た衝撃が抜けないようで、僕にぴったりとくっついている。

 そんなユメの頭を撫でて宥めつつ、僕は質問に答えた。


「まあ、動き自体はクジラそのものだけど……。

 普通のクジラはあの十分の一の大きさも無いからね」


「そ、そうなんですね。

 ……良かったです」


 僕がそう答えると、ユメは心底落ち着いたようでホッと胸をなでおろした。

 そうして、僕の服の袖を握っていた手に込められていた力も抜けていく。


「うん、そうだ。

 今度、時間があるときにでも海に行ってみようか。

 ユメはまだ海に行ったことがなかったよね?」


「はいっ!

 海……、楽しみにしておきます!」


 僕のその提案で、ユメの顔に満面の笑みが戻ってくるのだった。


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