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プロローグ
諒が転校すると聞いたのは、三月の終わり、卒業式の三日後だった。
「県外の中高一貫校でさ。青嶺学園っていうんだ」
河川敷のベンチで、諒は将棋盤を膝に広げたまま、なんでもないことのように言った。駒を並べる手は止まらない。いつもそうだ。大事なことほど、諒は盤の上で言う。
「……いつから」
「来週。もう荷造りは終わってる」
ぼくは何も言えなかった。保育園から、ずっと同じクラスだった。幼稚園の遠足でも、小学校の運動会でも、隣にはいつも諒がいた。そして、諒の手にはいつも将棋の駒があった。
「なあ、湊」
諒が顔を上げた。ふだんのへらへらした笑い方をやめて、まっすぐぼくを見ていた。
「おれ、将棋で優勝したいんだ。ずっと言ってきたけどさ、本気だから。冗談じゃなくて、ほんとに」
川の向こうで、夕日が低くなっていた。
「向こうの学校には、強いやつがいっぱいいる。だから行く。絶対に、優勝する」
ぼくは将棋を指さない。ルールもよく知らない。それでも、その言葉がどれだけ重いのかは、わかった。
河川敷の道は、橋の手前で二手に分かれる。ぼくは右へ、諒は左へ。昔から、そうだった。
「じゃあ、またいつか」
諒が手を振った。ぼくも手を振った。夕日の中で、背中が少しずつ小さくなっていく。
ぼくは、最後まで振り返らなかった。




