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40.6話 ~獣人国にて side加藤涼太~

「ん・・・朝か? また作業机で寝落ちしたのか俺は?」

変な体勢で寝たせいか体のあちこちが痛い。とりあえず背伸びをして椅子から立ち上がり、全身のストレッチをする。

周囲を見渡すと人間数名と多くのドワーフ達が、机で力尽きた俺のように床で力尽きそのまま眠っていた。

締め切ったカーテンから漏れている日の光で、夜が明けたのは確実なことがわかる。

時計を見ると朝の8時過ぎだった。

ここ最近徹夜続きのためか作業途中に限界を迎えて、気がつくと寝落ちしていることが多くなった。

本当ならカーテンを開けて朝の日差しを入れたいところではあるが、みんな限界まで作業しての寝落ちだろうから9時くらいまではこのままにしておこう。


そんなことを思いつつ顎に手をやると、髭がかなり伸びていることに気づいた。

「そういえば昨日は風呂にも入らず歯も磨いてなかったな。我ながら不潔になれたものだ。みんなが寝ているうちに先にサッパリしてくるか」

この世界に強制召喚される前の自分なら風呂に入らないなど不潔すぎてまずなかったが、置かれている状況や環境、場所が変わると意外と気にならなくなるものだ。

木の桶に着替えと石鹸と大小2枚のタオル、T字剃刀と歯ブラシと歯磨き粉を入れて浴場に向かう。

浴場と言ってもスーパー銭湯のように様々な施設や湯船があるわけではなく、非常に大きな浴槽が1つと簡易的なシャワーもどきがあるだけだ。

流石に男女で浴槽は別れているが、種族的な分け方はされていないので基本的に獣人と一緒の湯船に浸かることになる。

俺としては別段自分と異なる種族との入浴に思うところはないが、種族差別する者からは散々な言われようをしているらしい。

まあ「種族差別」するような輩は、獣人国では暮らせないのでそもそもいないのだが。


脱衣場で服を脱いでいると先に入浴していた虎の獣人が、タオルを腰に巻いて浴場から出てきた。

俺の体をまじまじと見て「もっといっぱい食って筋肉つけろよ!」と、すれ違いざまに背中を軽く叩かれた。

確かにピンキーゲンに出会ったおかげで筋肉、全ての下地である肉体を鍛えることの重要性を理解して自分なりにトレーニングしているつもりだが、獣人の戦士からすればまだまだなのだろう。

おっと風呂に入る前に着ていた服を洗濯機モドキに放り込んでおかないと。

「洗濯機モドキ」と言ったが何故「モドキ」なのかというと、俺が知っている科学技術で作られたものではなく魔法で再現された洗濯機だからだ。

この洗濯機モドキは以前に強制召喚されこの国に亡命した者が製作したらしい。製作理由が気になったので兵器開発室のドワーフの親方に聞いたところ「毎回手洗いで洗濯なんてやってられるか! 手が荒れんだろうが!! ハンドクリームあんのか? ないならそのモフモフで手を拭くぞコノヤロー!!」

と叫んで狂ったように製作したそうだ。

俺としては助かるが・・・以前の強制召喚された人は随分と風変わりな人物だったようだ。


浴場に設置してある木の椅子に座り、髪の毛を洗っていく。

この世界にもシャンプーやリンス、石鹸はもちろん存在するが獣人国のシャンプーとリンスは別格である。

なにせくせっ毛の俺の髪が一度洗っただけでストレートになるレベルなのだ。

これにはかなり驚いたので「何故こんなにも質の良いシャンプーとリンスがあるのか?」と思わず問いただしたくらいだ。

獣人の上役曰く「以前に強制召喚され亡命してきた異世界人が汗や汚れが目立つ獣人たちを見て発狂し、私が美しいモフモフにしてみせる! そしてモフモフを満喫するのだ!!」と叫んで、現在獣人国全体で使用されているシャンプーとリンス、石鹸を開発したらしい。

モフモフに対するその執念だけは見習いたいものだ。


髪を洗った流れで体を洗い洗顔を済ませ、髭を剃るために鏡に向かい合う。

鏡は元いた世界の鏡よりは若干くすんでいるが、髭を剃るには問題ないレベルの透明度である。

流石にシェービングフォームはないので、石鹸を泡立てて顔に塗っていく。

T字剃刀を手に持ち鏡を見ながら、ゆっくりと力を入れ過ぎないようにして肌の上を滑らせていく。

俺はそこまで髭が濃い方ではないが、元いた世界では毎朝身だしなみとして電気シェーバーで髭を剃っていた。今にして思えば高校生にしては髭が濃い方だったのだろうか?

だからこの世界に強制召喚されてから初めてT字剃刀で髭を剃った。

最初のうちは力加減がわからずに、顔面を深く切って流血沙汰になった。

しかし何度も剃っているうちに、今ではたまに肌を切ってしまうレベルにまで上達した。

髭剃りを無事に終え、その流れで歯磨きもついでにしてしまう。

以前の俺なら「浴室で歯を磨く? 理解できない」と断言していただろうが、慣れてしまえば「意外と効率が良いのでは?」と感じるようになっていた。

実際に自身で試さずに先入観から決めつけてしまうのは、俺の悪い癖だな。

ちなみに歯磨きの後にもっと口の中をスッキリさせたくてマウスウォッシュを自作してみたが、味と香りに納得がいかず試行錯誤の最中である。


桶にタオルとその他備品を入れて浴槽に向かう。

桶を近くに置き湯船に肩までつかり、少し高めの温度のお湯で湿らせたタオルを目元に置き眼精疲労を軽減する。

目元を温め目をつむりながらこの国に亡命した日のことを思いだす。


獣人の国に到着したその日にカナメと別れて案内役の獣人に連れられて、すぐさまこの国を治める女王に謁見することになった。

獣人国の王城は豪華絢爛だったヒューマン国の王城よりも、3段階くらいグレードを下げた感じだった。

かと言って質素というわけでもなく、王城としての威厳と風格はきちんと持ち合わせている。俺としてはこちらの王城の方が好みだ。

しかし王城のわりには花瓶や絵画などの調度品がまるで置いていないのが気になる。

何故だ?

あまりにも気になったので案内役の獣人に聞いてみると「恥ずかしながら獣人は闘争本能が他の種族より高くて、気持ちが高ぶると場所を選ばず戦い始めてしまうのですよ。なもので高価な調度品を置いておくと真っ先に被害を受けるので、最終的に置くこと自体を辞めたのです」と苦笑いしつつ教えてくれた。

「なるほど、そういう事情か」と納得しつつ闘争本能が強いのはやはり元をたどれば「獣」だからだろうかと思考していると「ここです。この部屋で女王陛下がお待ちです」という案内役の獣人の声で我に返った。

目の前にある扉は大きく重厚な造りからか、ただならぬ威圧感を放っている。

「ここからはあなたお1人でお進み下さい。では私はここで待っていますので」と言うと、案内役の獣人は扉の横に直立不動で待機した。

「わかった。案内ありがとう」

「いえいえ、仕事ですから」


案内役の獣人に形式的な礼を述べて、扉の前に立ち深呼吸してノックをする。

「開いてるぜ」

と女性の声で返事があった。今の声の主が女王だろうか? かなりワイルドな感じだ。

「失礼します」

そう言って扉を押すがビクともしない。

「デジャブかな・・・この状況はあの時と同じだな」

自嘲気味に笑いながら身体強化を今できる限界まで発動して、パワーで扉を押し開いていく。

半分ほど扉を開いたところで部屋の中に入り、扉から手を離した。

背後で扉が大きな音を立ててしまった。

視線を正面に向けると玉座に1人の女性が足を組んで座っていた。

そして左右には護衛と思しき獣人の女性が1人ずつ立っていた。

歩きながら玉座に座っている人物を観察する。

身長は180cm弱くらいか。銀髪銀眼で髪型はワンサイドショートボブ。ぴっちりとした黒のレザーパンツに、上は白のTシャツに黒のライダース ジャケット。両耳にはピアスをしている。それに左右に耳の上当たりに黒い角がある。一体なんの獣人なのだろうか?

第一印象は「姐さん」という感じだ。

女王の左右に立っている護衛の2人は双子だろうか? 姿がそっくりだ。

服は上下ともに女王と同じスタイルで身長は175cm弱。

髪色と眼の色は共にバイオレットアッシュで髪型はツインお団子ヘア。

前髪は片目だけ隠すようにのばしている。ちなみに双子で隠す眼は逆にしているようだ。

どちらか判別しやすいようにかな?

女王とは違い双子は耳の後ろに1本青い角が生えている。

観察しつつ女王の前にたどり着いた。近くに来ると改めて感じる力量の差。

目の前の3人が一目見ただけで、今の俺では足元にも及ばない実力者たちであることがわかる。

側近の護衛が強いのはわかるが、それ以上に女王の実力の底が全くみえない。


「あたしがこの国を治める女王メイ・リンだ。んで左右に突っ立てるのがスイとレンだ。それにしても流石にあの程度の重さの扉は開けられるか。正直あれが開けられないくらいの貧弱さだったらどうしようかと思ったぜ。うん? そんなにあたしをガン見して・・・もしかして惚れたのか?」

玉座に座る女王はシニカルに笑いながら、玉座から俺を見下ろす形でそんなことを言ってきた。

おそらく俺の反応を試しているのだろ。

「確かに女王陛下はお美しいとは思いますが、残念ながら俺のタイプではありません」

「へえ・・・奇遇だな。あたしもあたしより弱いヤツに興味はないよ」

今度は先ほどとは違って獰猛そうな笑いを浮かべている。

何はともあれまずは・・・

「私は加藤涼太といいます。この度は私の亡命を認めていただきありが・・・」

「あ゛~そういう堅苦しいのはいいから。人間どもの国からこの国に脱走するまでのことを、簡潔にかつ愉快痛快な感じでお前さんの口から語ってくれ」

俺が片膝をついて今回の亡命に関しての礼を述べようとしたら、予想の斜め上の言葉が返ってきた。もしかしてワイルドではなく面倒くさがりの方なのか?

「分かりました。では俺がこの世界に強制召喚されたところから話します。まず初めは・・・」


「ということを経て今ここにいるわけです」

なんとか要点だけを繋げて10分~15分程度で話し終えると、女王の両脇の双子から「「45点」」言われた。

一瞬点数の意味が分からずにポカーンとしていると、女王の補足が入った。

「くくく・・45点っつーのはな、お前さんのお話の点数だよ。綺麗かつ分かりやすく纏まっていたが・・・いかんせん面白くなかった。だから45点。まああたしは40点だと思うがね」

「人に話をさせておいてなんて言い草だ」と内心思いながら、その怒りをグッと飲み込んで耐える。


「さて無事にお前さんは亡命出来たわけだが、お前さんの亡命は我が国にメリットがある亡命だと

思うか?」

先ほどまでのふざけた態度から一変し、王としての表情になりそう切り出してきた。

「それは・・・」

「あたしらはヒューマン国が嫌いだし向こうがちょっかいをかけてくるから度々小規模な戦闘を行っているが、別に慈善事業で亡命したいやつを無制限に受け入れているわけじゃない。無制限に亡命者を受け入れ続けたら間者も入りたい放題だし、衣食住の問題も発生する。今回我が国がお前さんの亡命を承諾したのは我が国にメリットがあると考えたからだ。じゃ、お前さんを受け入れることでどんなメリットがあると思う?」

今度は意地悪な笑みを浮かべながら、俺の返答を待っている。


「今の俺にできるのは元の世界の技術提供くらいです。賢者のエクストラスキル「英知」との併用でこの世界には存在しないものを、提供できると思います」

おそらくこの回答が女王の臨んだ回答だろう。

「その通り。流石賢者様と褒めてあげようか?」

「いえ、結構です」

この女王はさっきからちょくちょく俺をからかってくる。ちょっと腹が立ってきた。

「それで具体的に俺はどんな技術提供をすればいいのですか?」

「軍事兵器だ」

「っ!」

予想はしていたが表情が強張ってしまった。

「もっと端的に言えば相手を殺す武器と、我が国の兵士の命を守るものを開発して欲しい」

「武器だけでなく防具もですか?」

「ああ、そうだ」

武器の製作に関しては予想していたが防具も依頼されるとは・・・何故だ?

「意外そうな表情だな。何故防具製作も依頼されたのか知りたいか?」

「作る側としては理由を公開しても問題ないのなら、知っておきたいですね」

「そうか。じゃあ教えない」

ニヤニヤしながらこちらを見ているあたり、俺をからかって反応を楽しんでいるのだろう。

「そうですか。じゃあ適当に鉄を材料にフルプレートを製作することにします。これで防御面は大丈夫ですね。では武器は・・・」

「わるいわるい冗談だよ。だから怒るなよな~」

「別に怒ってはいません。呆れているだけです」

正直ちょっとイラっとしたので意趣返をしたが、自分もガキだと地味に凹む行為だったな。


「お前さんは獣人が独自の能力である「剛力」を持っていることは知っているよな?」

「はい。詳細までは知りませんが身体強化魔法の究極系のものだと認識しています」

「まあ詳しくは違うんだが、概ねその認識でOKだ。獣人は独自の能力により肉体と感覚器官がさらに強化されることで戦闘中はまさに野生になる」

「感覚器官が強化されるということは、闇討ちなどが通用しないと?」

「ああ、100%とまではいかないが95%くらいは対応できるな」

出鱈目な気配察知能力だな。

「近接戦においてははっきり言って他のどの種族より強いと自負している。事実なだけで

別に自慢しているわけじゃないからな?」

確かに普通ならおごりに聞こえる発言になるが、目の前の女王を見る限り誇張ではなく本当に事実なのだろう。

「でもいくら近接戦最強種族といえども敵に近づけなければ、意味がない。接敵する前にやられたんじゃただの大馬鹿だ。それに近接戦にはめっぽう強いが逆に中遠距離戦は壊滅的なくらい弱い。それに獣人固有の能力で身体機能と感覚器官を極限まで高めると、副作用として獣の遺伝子が急激に活性化して野生が表に出てくる。基本野生が表に出ると細かい作戦は意味をなさず、猪突猛進で敵陣に突っ込んでいく。その結果は言わなくてもわかるだろう?」

「いくら動きが速いからと言って、直進してくるだけならただの的ですね。そんな戦い方では毎回の戦闘で死傷者の数が膨大な数になるでしょうに・・・」

「ああ、その通りだ。おかげで医薬品の消費量もハンパないんだぜ?」

そんな自慢気に言う内容ではないだろう。

「だから俺に防具も製作して欲しいと?」

「そういうことだ。ぶっちゃけ中遠距離武器の開発より、防具の開発を優先して欲しい。死傷者の数の減少を見込めるし、何よりわずかなダメージで敵に接近できればその分あたしらの持ち味である近接戦闘を活かせるからな」

一見命を大事にしているように思われる発言だが、後半は戦闘狂のそれだな。

「防具優先でその後に中遠距離武器の製作だな。どんな防具と武器が欲しいんだ? 具体的な話は誰とすればいい?」

「うちの精鋭の兵士数名とお前さんのイメージを実際に形にするドワーフの職人達、それにヒューマン国から亡命してきた魔術師達を兵器開発室に集めてある。そいつらと協力してくれ。案内はさっきここまでお前さんを連れてきたヤツが引き続きするからよ。それと兵器開発室は好きに使ってくれてかまわない。兵器開発室にいる連中には王命でお前に従うようにもう伝えてあるからよ」

分かってはいたが最初から俺に拒否権はないな。


「わかった。ただ兵器開発の対価として2つほど頼みたいことがあるのだが・・・」

「ほう・・・お前さんは兵器開発が成功すれば我が国の利益にはなるが、現段階ではタダめし食いの人間だぞ? それなのに「頼み事」だと? 見た目とは違いまあ随分と図太いな、ええ?」

俺の「頼み事」発言を聞いた瞬間、目の前の王女の姿がどんどん大きくなっていく。

ちがう、これは折角だ。実際は体の大きさが変化するわけがない。

女王から発せられる威圧の強さが増したせいだろう。

玉座から一歩も動かずに威圧のみで、こちらに完全な敗北感を与えることが出来る存在・・・これが王か。


「・・・図々しいかつ無礼なのは百も承知です。ですが聞いて頂きたい」

「聞くだけは聞こうじゃないか」

「まず1つ目は俺と同日に脱走した神崎葵という女性を探して欲しいのです。そして無事であるなら俺と同じように保護してもらいたい」

「お前さんと同じ異世界人仲間といったところか? もしかしてお前さんの恋人か?」

「全く違います。彼女は聖女なので無事であるなら合流したいのです」

「可愛げのない反応だな。その年齢なら色恋沙汰の1つや2つあってもいいだろうに・・・それでもう1つの要求はなんだ?」

「図書館のようなものがあるなら、所蔵している書物を見せて頂きたい」

「書物ね・・・理由は?」

「亡命前にヒューマン国で閲覧許可が下りた書物を読んだが、ほぼすべてがヒューマンに都合の良い内容しかなく情報が信用できなかった。だからこの国視点の書物を読んで情報の整合性を図りたい」

一応頼んでみたが色好い返事はもらえるだろうか?


「よしわかった。2つとも頼まれた」

女王が軽くそう言うと俺は重圧から解放された。どうやら威圧が解かれたようだ。

威圧まで放っておいてあまりにもあっさりと俺の要求を受諾したことに困惑していると、女王がシニカルに笑っていた。

「その表情から察するにもしかして断られると思ったのか? 別に断ることは簡単だがそしたらお前さん兵器開発に手を抜きそうだし、女王としてあたしの器のデカさもアピールしときたいじゃん! しかし・・・若人をからかうのはいくつになってもやめられんな。楽しすぎて!」

謁見してから徹頭徹尾からかわれている気がするのは、気のせいじゃないよな?

ちょっとムカついたが、こちらの要求が通ったからよしとしよう。


「あとで人を寄こすからお前さんのガールフレンドの特徴を細かく説明してくれ。それが終わり次第、表と裏のルートを使って探してやるからよ」

「ありがとうございます。しかしガールフレンドではな・・・」

「図書館については・・・兵器開発室に行く前に案内してもらえ。一般エリアの本なら何を見てもかまわない。ただし禁書庫の閲覧は却下な。もし禁書庫に入ったら即敵として処理するから肝に銘じておけよ?」

「わかった」

「それと言い忘れたが一般エリアには多種多様なプレイを網羅した渾身のエロ本エリアという、若い健全な男子にはパラダイスのようなエリアがあるから遠慮なく使ってくれ!」

「俺の面白い反応を期待してそんな発言をしたのだろうが、下ネタ耐性はこれでもかなりある方だから残念ながらあなたの期待する反応はしないぞ」

「チッつまらん。んで、これで大方の話は終わりか?」

「ああ、俺の方はもう特にない」

「そうか。じゃあ図書館の場所をサクッと確認したら、早速兵器開発を開始してくれ。お前さんの頼みごとを2つも聞いてやったんだ。手早く成果を出して出世払いしてくれよ?」

そう言うと女王は俺に片手で「シッシッ」として、部屋から追い出した。

その後は俺をここまで案内してくれた獣人に、図書館と兵器開発室まで案内してもらった。


眼を温めていたタオルをどかし、3ヶ月前の出来事を思い出していた自分に苦笑する。

「この国に亡命してまだ3ヶ月なのに、ヒューマン国にいた頃より濃い経験をしているな」

湯船からあがり少し温度を低めにしたシャワーを浴びて体のほてりを冷ます。

タオルで体の水気を拭いてタオルを腰に巻いて、浴場をあとにする。

脱衣場でもう1枚のタオルでもう一度髪と体の水気を完全に拭いて、持参した服に着替える。

木桶に持ってきた備品と洗濯機から乾燥まで完了した服を回収して、兵器開発室に戻る。

扉を静に開けると未だに全員が爆睡ちゃんをかましていた。

気持ち良さそうに爆睡している者達を起こすのも忍びないが、もういい時間なので起こすことにする。

部屋に入り窓まで歩みを進めて一気にカーテンを開いて、窓を開ける。

突然明るくなったことで流石に目覚めた者も数名いたが、まだ大半の者が深い眠りの中にいる。

仕方ないので古式ゆかしくフライパンをお玉で叩いて起こすことにする。

何故フライパンが兵器開発室にあるのかは未だに謎である。

「カンカンカンカン」と耳障りな大音量が部屋に響き渡ると、流石の寝坊助たち全員が目をこすりながら起き上がった。

「疲労困憊で爆睡しているところ申し訳ないけど、そろそろ起きないと昼になってしまう」

「「え? もうそんな時間なのか?」」

「ああ、だからとりあえず朝風呂にでも入ってスッキリしてくるといい。俺はお先にサッパリしたからみんなが風呂に行っている間に、部屋を片付けておくよ」

「悪いな。おーし野郎ども風呂だ!!」

「「おおー!!」」

ドワーフの親方の号令でみんなが部屋からいなくなった。


俺以外誰もいなくなった部屋をとりあえず足の踏み場ができるレベルにまで片付けていく。

正直それ以上はどう頑張っても片付けようがない。

とりあえずの足の踏み場が出来たので簡易的な掃除を中断して、椅子に座る。

そして机の上にあるこの3か月の成果に目を向ける。

範囲系遠距離武器として作り上げた「魔導マスケット銃」と牽制用の「小型魔導マスケット銃」、防御力向上の要である「疑似TPインナー」と「強化改修した鎧」、魔法防御対策の「疑似ゲシュ〇イディッヒ・パ〇ツァー」、近接戦闘用「高周波ブレード」、「魔弾文珠」、「魔力筒」などようやく実用に耐えうるレベルで完成し絶賛量産体制に入った武器と防具たちだ。



遠距離武器を「銃」にしたのはカナメの影響だ。弓やボウガンに似た武器はこの世界に存在するが、流石に銃は流通していない。

裏ギルド関連には似たような武器があるかもしれないが、技術者不足と生産コストの面で数は限られるだろう。

そこで俺が提案した銃は「マスケット銃」だ。

本当はカナメが使用しているような銃を再現したかったが、いかに賢者のエクストラスキル「英知」でも構造や原理を「知る」ことは可能でも「作る」ことは出来ない。

それに俺が知っている銃の技術を他者に説明するにも限界がある。それに銃の部品程の精巧なものを作り出せる技術はこの世界ではまだ広がっていない。

そして何とか作り出せるレベルかつ、数を何とか確保できるという点で「マスケット銃」という選択に至った。

一応大量殲滅用の遠距離タイプと近接牽制目的タイプの2つを製作した。


「銃なのに何故遠距離タイプが大量殲滅用なのか?」というと、マスケット銃がそれほど銃弾を遠距離まで飛ばせずかつ精密射撃に向いていないからだ。

流石にドワーフの技術を持ってしてもライフリングの大量生産は現実的ではなかった。

ライフリングの大量生産が出来ないとなると次の手段が必要になる。

ではその次の手段とは何か? 弾の改造である。

せっかく魔法が存在する世界にいるのだから、これを利用しない手はない。

距離と精度に期待が持てないなら何で補うのか? もう威力と範囲で補うしかない!

銃弾は俺が形状を説明したらドワーフは「生産は可能だが錬金術でも使わない限り、大量生産はむりだ」と即答した。

そこで考えたのが「銃弾(仮)に予め魔法を込め着弾と同時に発動させる」というものである。

もしこれが実現できれば魔法が苦手な獣人でも、単発だがある程度の魔法を使用することが可能になる。

しかしこれが大変な作業だった。

魔力を一定期間貯蔵しておく電池のようなものはこの世界にすでに存在していたが、その大きさがデカすぎるのだ。

一番小さいものでも電話ボックスほどのサイズになる。

それを銃弾サイズにするのだから、かなりの無理難題である。

正直この作業に時間の大半を消費した。

俺のエクストラスキル「英知」とドワーフの技術、そして数少ないヒューマンの魔法使いの連日にわたる徹夜のおかげで・・・というより連日にわたる徹夜をしたおかしい状態の頭のおかげで、普通の状態では到底浮かばない案が出て奇跡的に実現したのだ。

あの瞬間は今でも鮮明に覚えている。

小型化に成功したと同時に兵器開発室にいた全員が床にぶっ倒れて、意識を手放した挙句に翌日半数が腹を出して寝ていたせいで高熱を出して寝込んだからだ。

小型化に成功した物の名称は「魔力珠まりょくじゅ」とした。

大幅な小型化には成功したが従来からの蓄電魔力の問題である「魔力の劣化」までは、残念ながら現段階では改善できなかった。

要は俺の元居た世界の電池と同じでしばらく使用せずに放置していると、自然に魔力が漏れ出るように消費されてしまうのだ。

例えばなんの属性も持たない純粋な魔力なら電池のように蓄電されている魔力の量が減るだけだが、属性を持つ攻撃魔法の場合はその威力が時間と共に減衰してしまうのだ。

極大クラスの魔法なら威力の減衰は緩やかだが、弱い威力のものではすぐに空になってしまう。

これでは「魔力珠まりょくじゅ」を事前に大量に生産しても、十分な威力を発揮できない状態になってしまう。

そこで本当に急場しのぎとして「魔力保存庫」を作り出して、そこに保管することにした。

イメージ的には冷蔵庫の異世界バージョンである。

魔力保存庫の中に保存することにより完全ではないが何もしないときよりも、魔力の放出を非常に緩やかにすることが可能になった。

今の俺達ではこれが限界だがいずれ完全な魔力保存庫を作って見せる。


魔力珠と同時に「魔力筒まりょくとう」という、携帯目的の小型化したバッテリーの役割を担うものも製作した。

製作意図は主に防御と近接攻撃強化が目的である。

まず近接攻撃強化についてだが単純に既存の武器を強化発展させた。

新たにもといた世界の武器を何か作ろうと思ったのだがマスケット銃でさえ作るのに死ぬほど苦労したのに、それと同等の近接武器を作るのは正直厳しいと思い強化発展の道を選んだ。

獣人たちが主に使用する近接武器は剣、かぎ爪、手甲、槍、メイス、ダガーなど自身の身体能力を極限まで生かせるものを使っている。

ハンマーなどの重量級の武器を使用しているのは、獣人の中でも一部の者達だけだった。

やはり重さでスピードが失われるのを嫌ったらしい。

そこで俺が最初に思いついたのは「高周波ブレード」だった。

エクストラスキル「英知」とドワーフ達の能力、そして魔力筒があれば実現可能だとふんで製作したところ何とか形にはなった。

ただ高周波を発生させる装置とそのバッテリーの役割を担う魔力筒を搭載したことで、従来の武器よりも若干大きくなり重量も増してしまった。


最初に発展強化した武器を見せた時の獣人兵士たちの反応は最悪だったが、手元にあるスイッチを押している間だけ高周波モードになることを説明し使ってもらうと・・・反応が見事に真逆になった。

流石は脳筋集団なだけあって少しくらい大きく重くなろうが、それを帳消しにする威力を目の当たりにして「これだよ! 一撃で敵を屠れるこんなヤツが欲しかったんだよ!!」と両肩を掴まれ意識が飛ぶまで体を揺さぶられた。

威力に感動してくれるのは開発者の1人として素直に嬉しいが、人間と獣人とではパワーが大きく異なるので揺さぶる際はもう少し気をつけてほしい。


俺の意識が戻り獣人たちが落ち着いたところで、武器の説明と注意点を説明した。

しかし俺の話などどこ吹く風で、獣人たちは新しい武器をいじくりまわしていた。

「おい、ちゃんと人の話を聞けよ!」と思いながら、脳筋集団だから仕方ないと諦めた。


「みなさん、俺の話がつまらないのはわかりますがここだけは真面目に聞いて下さい!!」

そう俺が急に大声で言うと、獣人たちも武器いじりを一時中断して全員が俺に注目した。

「その切断力は魔力筒により武器の刃を高周波化しているおかげです。しかし魔力筒からの魔力の供給がなくなれば、ただの刃に戻ってしまいます」

そこで一旦話を区切って獣人たちを見渡し、全員が話を聞いていることを確認して続きを話し始めた。


「ですので手元のスイッチで高周波ブレードにするのは、できるだけ攻撃もしくは防御の間だけにして下さい。カートリッジ式なので魔力筒を交換すればまた使えるようにはなりますが、魔力筒の在庫や1人が戦場に一度に持ち運べる魔力筒の数にも限界があるので出来るだけ省エネ使用でお願いします。最低限今言ったことだけは頭の片隅に覚えておいて下さい」

俺の真剣さが伝わったのか獣人たちは誰も茶化すことなく、戦士の顔で「分かった」と答えてくれた。

その後は実際に多くの兵士に試用してもらい、改善して欲しい点を聞いて調整して近接強化は幕を閉じた。


そして難題だったのは「防御」の強化である。

これは本当に大変だった・・・二度とやりたくないレベルでだ。

まず防御面を強化するにあたり最初に思いついたのは「単純に鎧の素材をもっと強度があるものに変える」だったのだが、この案は即却下されることになった。

こんな浅はかな案はすでに兵器開発局の面々が試しており、断念した主な理由は以下の2つである。


① 強度が高い素材は一貫してその分重量が加算されて、獣人の持ち味である動きが阻害されるから。

② 軽量かつ高硬度の素材はあるが入手するのが困難で、そんな素材で大量に鎧を製作したら国の財政が破綻するから。


理由を聞いた瞬間に「まあそうだよな・・・」と納得して、次の案を考え出したが中々思いつかずに数日間ベッドの上で悶絶していた。

そんな難題を解決するきっかけは夢だった。

久しぶりに夢を見たと思ったらその夢の内容がガ〇ダムだったのだ。

幼少期は色々なジャンルのアニメを見ていたが中学、高校と進学するにつれて自然と見なくなっていった。

しかしそれでも唯一新作が発表されると見ていたのが「ガ〇ダムシリーズ」である。

何故かガ〇ダムだけは毎週の視聴を楽しみにしていた記憶がある。

「!?」

今一瞬何かを閃いた気がする・・・何だろうか?

しばらくベッドの上で瞑想していると閃いたことをついに思い出した。

「そうだトラン〇フェ〇ズ装甲だ!」

トラン〇フェ〇ズ装甲というのは「機動戦士ガ〇ダムS〇ED」に登場した特殊装甲のことで、簡単に言ってしまえば通常装甲の内側に特殊装甲を備えた複合構造のものである。

しかも攻撃を受けた部分だけ電力が通電し防御力がその瞬間のみ上がるので、魔力筒をバッテリー代わりにすればいけるのではないだろうか?

そう思いまずドワーフの親方に説明してみたところ「確かに面白い発想だが鎧の2枚重ねで、重さもそうだが動きづらくならねーか?」と言われてしまった。

言われてみればその通りで、いかに防御力が上がろうと動きを阻害してしまうものなら意味がない。

妙案だと思っていたので俺が落胆しているとドワーフの親方が「いや・・・ちょっと待て。攻撃を受けた瞬間だけ硬質化すればいいんだよな?」と問いかけてきた。

「ああ、そうだが?」

「それなら材質は魔力が通りやすくて硬質化できればなんでも大丈夫なんだな?」

「ああ・・・」

「それなら何とかなるかもしれんぞ?」

「?」


ドワーフの親方曰く今までは通常の鎧を製作する材料で内側の特殊装甲の役割を担うものを考えていたが、その枠組みから外れたいわゆる「普通の服を作る過程で出来た失敗作」の中に該当しそうな材質のものがあったらしい。

そのことを思い出したドワーフの親方はすぐに服飾ギルドに連絡して、サンプルを取り寄せてくれた。

ちなみになんでそのドワーフの親方がそんな情報を知っていたかというと服飾ギルドにもドワーフが数名在籍しており、週1でみんなで集まって夜通し飲んでいるらしい。

その時に聞いた失敗作の話を思い出したからだそうだ。


その日のうちにサンプルをなんと服飾ギルド在籍のドワーフ本人が持ってきてくれた。

俺としては助かるがそちらの仕事は大丈夫なのかと尋ねると、「大丈夫~だってこっちの方が面白そうだから~」とのんびりとした返事が返ってきた。

ドワーフにしては珍しく随分とのんびりしたタイプのようだ。

ちなみにお名前は「さっちゃん」だそうだ。そこで気づいた。ドワーフの親方の名前を知らない事実に・・・あとでさり気なくさっちゃんさんに聞いておこう。


実際に持ってきてもらったサンプルの布に魔力を通すと確かに硬質化した。

しかしまだ俺が求めているレベルの強度には至っておらず、それに魔力の通りにもラグがありこれでは攻撃を受けた瞬間に硬質化するには不十分だった。

俺の落胆した表情が気になったのかさっちゃんさんが理由を聞いてきたので、感じたことと思っていることを素直に伝えた。

すると「それならも~と硬くなる繊維の糸とも~と魔力の伝導率が良い糸で編み編みすれば大丈夫だよ~」とゆる~く提案された。

「本当ですか?」

「うん、ほんとだよ~」

「えっと、試作品の製作をお願いできますか?」

「い~よ。3日待っててね~」

そう言い残してさっちゃんさんは帰っていった。


そして3日後の朝にさっちゃんさんが、出来上がった試作品を持ってきた。

メインの仕事の合間で作業してくれたようで、少し目の下にクマが出来ていたので「無理強いをしたようで申し訳ない」と俺が言うと、「大丈夫~徹夜には慣れっこだから~ちなみに最高7徹だよ~」と笑顔で答えてきた。

さっちゃんさんの体調が大丈夫そうなので、すぐに持ってきたもらった試作品の説明をしてもらった。

見た目は完全に普通の服だった。

上下ともにアスリートが着るような、ピッチりとした体にフィットするタイツのような物だった。

全体的な色合いは黒でよく見るとメタリックブルーの糸とモスグリーンの糸、黒色の糸で複雑に編み込まれていた。

肘や膝などの関節部はグレーで、こちらもグレーとメタリックブルーの糸とモスグリーンの糸で編まれていた。

俺が服を興味深く触っているとさっちゃんさんが試作品の説明をしてくれた。

「え~とね、もっと硬くなる方がイイって言ってたから~一番硬くなる繊維で糸を作って~魔力伝導率が一番高い繊維を糸にして反射反応が良いやつも糸にして編み編みしてみた。関節のところは曲げやすさを優先して~硬質化をゆるめにしてみたよ~。ちなみに黒色の糸が一番硬質化するやつで~グレーのが少し柔らかいやつで~メタリックブルーのが魔力伝導率を高めるやつで~モスグリーンが反射反応するやつだよ~」

俺が思い描いたものをしっかりと形にする技術はかなり凄いと思うのだが、いかんせん間延びしたしゃべり方のほうに気をとられて凄さが霞んでしまうのが絶妙に残念だ。


「この試作品、実際に着てみても良いかな?」

「どうぞ~サイズはフリーだから着られるはずだよ~」

試作品の大まかな説明が済んだからかさっちゃんさんは椅子に腰を掛けて、目の前のテーブルにあるパンに手を伸ばし「モキュモキュ」と食べ始めた。

余談だがそれは俺の朝飯になるはずだったパンなのだが・・・

実際に着てみた感想は「少し重い普通のインナー」という感じだった。

着た状態で部屋の中を動いてみたが、とくに動きにくさは感じなかった。

これで本当に規定レベルまで硬質化するのか不安になったので、とりあえず手の甲に魔力を流すと一瞬で硬質化した。タイムラグもなく一瞬でだ。

魔力を止めると一瞬でもとの柔らかい服に戻った。

魔力の伝導率は文句なくクリアである。

次に右腕に魔力を流し硬質化した状態で、ドワーフの親方に片手剣で思い切り斬りつけてもらった。

斬撃の衝撃はあったが斬りつけられた腕には傷1つなかった。

硬度も文句なくクリアである。

関節部に魔力を流すと確かに「防御」という面からみれば少々心もとない硬度だが、動きやすさと柔軟性とのバランスを考えるとこれがボーダーラインなのだろう。

最後に実際に皮鎧を着て腕に魔力を流した状態で再びドワーフに片手剣で斬りつけてもらった。

するとモスグリーン色の反射反応の糸の特性で、皮鎧の下のインナーは見事に硬質化してダメージを軽減してくれた。

こちらも問題なく成功である。

思い描いていたものが形になりとりあえず一安心である。


その後はドワーフの親方とさっちゃんさんと試作品を挟みながら、改良案と魔力筒への接続方法について話し合った。

細かい改善点は実際に獣人の兵士たちに模擬戦で使用してもらって、順次解決していくとして今話し合っているのは魔力筒から疑似TPインナーへの魔力供給方法である。

俺は当初上下インナーの背後の部分から魔力伝導率の高い繊維と関節部に使用されているグレーの糸の2つで編み込んだ導線の役割を担うものを4本作り、腰の後ろに魔力筒を入れたポシェットのようなものとUSBケーブルみたいなもので繋ぐ気でいた。

基本的なイメージはドワーフの親方とさっちゃんさんに伝わったようだが、ポシェットとUSBケーブルもどきにはダメ出しが入った。

まずUSBケーブルもどきは接続部分が華奢だから激しい戦闘にもしっかり耐えられるように、接続部分は一度接続したら戦闘終了後まで外れない仕組みにした方が良いとのこと。

「緊急時にどうしても外したくなったらどうするのか?」と尋ねると「獣人の馬鹿力で引っ張れば千切れるだろう?」と返された。それで良いのだろうか?

次に魔力筒の収納先として腰の後ろ辺りにポシェットを考えていた件だが、ドワーフの親方に「そんなもんつけたら重心が変わって戦闘に支障がでるだろう! 却下だ却下!」と言われてしまった。

代わりにさっちゃんさんから「ベルトみたいなのに~差し込む形にすれば~体に密着するから~重心の変化は最小限に抑えられるよ~」と提案された。

確かに戦う側の視点からすればその方が良いのだろう。こういう時に相談できる人がいるのは本当に助かる。俺1人だと考えに偏りがあるから、下手をすれば粗悪品が生まれてしまいかねない。

あとは試作品を実際に兵士たちに試用してもらって、意見を求めるということで話は終了と思いきやドワーフの親方が「いっそのこと従来の鎧も改造してみないか?」と提案してきた。

俺としては女王からの依頼はほぼ形になり手が空いたので構わないのだが、何故急に従来の鎧の改造などと言い出しのかが気になって聞いてみると「お前さんの知識に感化されただけだ!」と少し顔を赤くしてそっぽを向いた。ドワーフの照れ隠し。


現在使用されている多くの鎧は動きやすさ重視の軽量な皮鎧が主流である。

これは獣人の身体能力を最大限生かすために、動きやすさを優先して防御力を犠牲にしたためだ。

まず改良案として思いついたのは以下の通りである。

・急所の部分には出来るだけ軽い素材の金属で補強を行う

・鎧に魔法の威力を少しでも減少させるコーティングを行う

・物理系の攻撃は疑似TPインナーで軽減できるので、魔法攻撃対策として魔法の軌道を強制的に変更する「疑似ゲシュ〇イディッヒ・パ〇ツァー」の開発を検討。


俺が思いついたことをドワーフの親方に説明すると、3つの案のうちの最初の急所部分を金属で補う案はすでに行ったらしい。誰でも思いつきそうな強化方法だから当然か。

2つ目の案である「鎧に魔法軽減効果のあるコーティングをする」に関してはしてやっていなかったようで、この案を聞いたドワーフの親方は興味深そうな表情をしていた。

魔法軽減効果がありコーティング剤に出来そうな素材があるかどうか尋ねたところ、いくつか当てがあるとのことだったので後で試すことにした。

3つ目の「疑似ゲシュ〇イディッヒ・パ〇ツァー」に関しては、これも説明に難儀した。

ドワーフの親方に原理を根気よく説明して、理解してもらって装置を作るのにはかなり難儀はしたが何とかなった。

動力源は魔力筒で良いとして問題は小型化と魔力力場の発生条件だった。

装置の設置場所は俺のエクストラスキル「英知」とドワーフ達の技術力のタッグで死力を尽くして限界まで小型化したものを、皮鎧の肩のパーツを新調する形で内側に装置と魔力筒3本を組み込む形に落ち着いた。

装置の効果の発生条件に関しては、最終的に獣人の兵士たちが任意で発生させる形になった。

「任意」になった経緯だが発動条件に関してだがまず常に「疑似ゲシュ〇イディッヒ・パ〇ツァー」の効果を展開していたら、即魔力筒が空になるので却下。

次に疑似TP装甲と同じ条件だと、攻撃を受けてからの発動になるので意味がないので却下。

そもそも変に条件を付けると獣人たちの動きの邪魔になる可能性があったので、「それならいっそのこと本人に丸投げしよう!」と割り切って獣人たちに話したところ「どうしても魔法が回避できないときに使うものなんだろう? それならむしろ自分で判断して使うわ」と返答されたのでそうすることにした。

色々と試したが流石に本家のように魔法を任意の方向に曲げることは出来なかった。

両肩から自身を覆う形でらせん状のドーム型の魔力による力場を形成して、飛んでくる魔法の軌道を無理やりランダムに曲げるのが限界だった。

それに全身をカバーするため燃費も悪く、5秒魔力力場を発生させるのに魔力筒を1本使うのだ。

魔力筒3本を標準装備にしているので、魔力力場の最大展開時間は15秒だ。

最初は腕に仕込んで飛んでくる範囲攻撃系以外の魔法を獣人たちの反射神経で受けてもらい省魔力化をはかろうとしたのだが、「魔法の軌道を逸らすくらいなら最初から避ける。それに腕にそんな装置やらをつけたら邪魔で仕様がない」と言われてしまったので、両肩につける形になった。

全身を覆うドーム型にしたのは本当に緊急時、獣人の反応速度でも回避できないものや多数の魔法に対応するためだ。

任意で発動するためのスイッチの位置にも苦労した。

戦闘の邪魔にならずにかつ即発動できる場所・・・結局、奥歯に仕込んだ。

ルパン〇世も真っ青な往年の古式ゆかしい場所である。

戦闘の邪魔にならずかつ、素早く任意で発動できる場所がそこしか思いつかなかった。

俺が獣人たちに魔力力場の発動スイッチの場所を奥歯にしたことを伝えると「? 特に問題はないし手足が自由に使えるから良い場所ではないか?」という反応をされた。

その後、従来の鎧の強化改修をして女王からのオーダーを及第点は取れるであろうレベルで終えた。


机の上に置いてあるここ3ヶ月の努力の結晶を眺めていると、兵器開発室のドアがノックされた。

俺がドアを開けると女王直属の近衛兵が立っていた。

「女王様からの伝言をお伝えします。今から1時間後に謁見の間に来るようにとのことです」

「わかりました。1時間後に伺います」

「では、失礼します」

本当に簡潔に用件だけを伝えるとその近衛兵は帰っていった。

「1時間後か・・・一体何の話だろうか? とにかく準備するか」


「武器防具共に量産がある程度完了したから、次回の国境砦防衛線で実戦配備するぞ」

兵器開発室のみんなに女王から呼び出されたので、行く旨を伝えて謁見の間のドアを開けて開口一番女王に言われた内容がこれだ。

まだ扉を半分ほどしか開けてないのに・・・しかも玉座まで結構距離があるのに何故このタイミングで言ったのか理解不能だ。

玉座まで向かう間に女王から言われた言葉を噛みしめる。「実戦投入」という言葉を聞いて、表情が強張っていくのが自分でわかる。

「何だ? 己の作った武器がいよいよ人殺しの道具として実戦デビューするのに良心が痛むのか? それとも防具がちゃんと兵士たちの命を守れるのかが不安か? はたまた兵器開発を安請け合いした罪悪感に苛まれているとかか?」

玉座でわざとらしく足を組み替えながら、女王がニヤニヤ顔でそんなことを言ってきた。

俺の内心など手に取るようにわかるということか。

「ええ、まあ正直に言えばそうです。間接的にでも人を殺す手助けをするわけですからそのことに対して何も感じない程、俺の神経は図太くありませんよ」

そう言い終えると玉座の前までたどり着いた。


精神的重圧からか玉座までの距離が酷く遠く感じた。

「割り切れよ、でないと死ぬぜ・・・」と急に真顔になり俺の目をまっすぐに見つめながら、女王がそんなことを言ってきた。

「わかってますよ。でもそう簡単に割り切れるもんじゃ・・・」

「とか言ってたヤツがそう言った次の日の戦いで、あっさり戦死していたことを今思い出したわ~」

シニカルに笑いながら女王が遠い方を見つめていた。

なんだ、俺へのアドバイスとかじゃないのかよ。意味深なことすんなや!


「賢者様いじくりタイムは一旦終了してと・・・武器防具共に試験運用では問題なく性能を発揮できているんだろう? 量産体制も軌道に乗り兵士達も使用感覚を大方掴んだ・・・故の実戦投入だ。文句ないな?」

「どうせ俺が文句を言っても「権力で握りつぶす」、みたいな清々しい表情しながらはなから選択肢のない問いかけをするのはやめてもらえませんか?」

「まあそういうな。実際お前さんから見ても実戦投入しても問題ないのだろう?」

「ええ、最終調整も済んでいますから大丈夫ですよ」

「ならヒューマン国との国境砦の小競り合いが初陣だな。つーわけで兵士と新兵器と共に行ってきてくれ」

「・・・うん?」

「戦果を期待してるぞ」

「???」

一瞬何を言われたのか理解できずに、フリーズしてしまう。

「何をいつも以上にアホ面をしている?」

「いや・・・俺も行くんですか?」

「当たり前だろう? 新装備の開発責任者が初陣を見ないでどうする。それに何かトラブルが発生した場合にお前でなければすぐに対応できないだろう?」

「まあそうですけど・・・」

「だろ? そんでついでにお前が作った武器で奪われる命と守った命を間近で見て感じて、いい加減にその甘ったるい考え方から卒業しな。今回に限り奪う命と守る命を見届けるのはお前の責任だ」

「っ! わかりました」

女王が言い放った「責任」という言葉が重くのしかかる。戦場の惨状を想像して一瞬胃酸が逆流して吐きそうになったが、何とか耐えた。

「まあ死なない程度に頑張りな」というと、もう話は終わりとばかりに部屋から閉め出された。

不安だらけだがこうなることが分かっていて新兵器を作ったんだ。

今は余計なことを考えずに準備をしよう。

そう自分に無理やり言い聞かせて兵器開発室へと足を進めた。

相変わらず頑張っても投稿速度が亀さんペースです(^_^;)

もう少し速く書ければ良いのですが・・・今はこの速度での投稿で精一杯です。

あんまり投稿速度が遅いと忘れられちゃうので、頑張ります(>_<)

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