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明け方、まだ日が昇らないころからいつもの戦闘服を着て入念に準備運動をする。準備運動の後で深呼吸をして精神集中する。

1週間、毎日熊師匠や森の猛者達に稽古をつけて頂いているが、今日のお相手は熊師匠です。

1週間で一番気合いが入る日です。アップを終えて森の一角の開けた場所に足を進める。

開けた場所には既に先客がいた。静かながらも巨大なオーラを放つ後ろ姿。おっさんの憧れ。

すり鉢上の中央に佇んでいる後ろ姿に声をかける。

「おはようございます。熊師匠、本日はよろしくお願いします」

そう声をかけると「ぐぅあ」と一声鳴いて、熊師匠はゆっくりと振り返った。いつもと全く変わらないその姿。力んでいるおっさんとはえらい違いである。

2メートルくらいの距離になって足を止める。深呼吸をして集中する。

お互いに礼をして、戦闘開始。

熊師匠と戦うときはあとのことは考えず、最初から全力でいく。

「魔装展開」

おっさんの体が激しく輝き出す。光が収まるとおっさんの姿があらわになる。

魔装・熾天阿修羅

三対六翼の漆黒の翼。三面六臂。三つの顔それぞれに異なる仮面をつけている。

正面は烏天狗、右は狐のお面、左は般若の面。身に付けている鎧は当世具足。武具は深紫。全身から陽炎のような紫炎が出ている。この姿は非常に強力だが消耗も激しく省エネモードで15分、フルパワーだと5分しかもたない。しかもフルパワーで使用した場合は魔装解除後反動で通常戦闘にも多少支障が出る。

六本の腕でそれぞれ武器を装備する。通常使用している武器を手に持った瞬間、深紫色に染まっていく。まるで侵食されていくかのように。武器がこの状態になるとエンチャントした時よりも遥かに性能が向上する。

翼の翼力も使って一瞬で熊師匠の前方に踏み込んで、六本の腕から攻撃を繰り出す。

対する熊師匠は構えずにおっさんの接近を待つ。六本の腕から同時に異なる箇所に攻撃をしかける。直撃間近に攻撃が6つの方向にそれぞれ逸らされる。地面6方向に異なる武器の傷跡がつく。

六本あるうちの二本の腕の武器を離し、二つの魔法を同時に放つ。

右腕からは細長い槍の形をした神聖魔法「ホーリージャベリン」。左腕からは範囲内の敵を黄泉の底に引きずり込む深淵魔法「アビスゲート」。片方は正面の至近距離から、もう一方は足元から発動させる。

熊師匠の足元に半径25メートルの真っ黒な円が出現する。漆黒の闇が熊師匠を闇の底に引きずり込もうとするが、熊師匠が片足で地面を踏み鳴らすと「アビスゲート」がガラスのように砕け散る。

正面からの「ホーリージャベリン」に対しては、前方の空間を歪曲させて軌道を変えている。熊師匠を中心に左右に分かれた「ホーリージャベリン」が地面に突き刺さり、爆ぜる。

翼をはためかせ後方に下がり一旦距離をとる。その際に散った翼が細い漆黒の針に変化して、熊師匠に襲いかかる。

熊師匠はその場から動かずに少し構えるような仕草をみせる。

なんだ? 熊師匠は何をしようとしているんだ?

漆黒の無数の針が迫るなか、熊師匠は腕を円を描くような動作で動かした。その円運動にすべての漆黒の針が受けられていく。あれってまさか「回し受け」ってやつか? 嘘でしょ!

熊師匠は何でもアリだな。流石は熊師匠だ。て、感心している場合じゃないな。残り4分しかないんだしな。

空中に急上昇して六本の腕全てから異なる属性の魔法を放つ。

獄炎魔法「プロミネンス」、氷雪魔法「フローズンエイジ」、重力魔法「グラビティ」、風雷魔法「スパイラル」、水流魔法「バブルボム」、深淵魔法「カオスセイバー」。

氷雪魔法で地面ごと足を凍らせ、重力魔法で真上から強力なGをかけて動きを封じる。上空から直線軌道で風雷魔法と水流魔法を水平方向から深淵魔法を放ち牽制しつつ、本命の獄炎魔法「プロミネンス」でダメージを狙う。「プロミネンス」は超高熱の魔力をボール状に圧縮して小型の太陽のようなものを作り、相手に叩きつける威力重視の魔法である。

直上から小型の太陽が徐々に近づくなか、熊師匠は「ぐぅあああ」を叫ぶ。叫んだだけで「プロミネンス」以外の全ての魔法がかき消された。熊師匠は顔を上に向け、予備動作なく右腕を振り抜いた。

周囲に衝撃波が起こらない。力の分散がなく拳の軌道上に全ての力を込めている。振り抜いた腕の衝撃波と「プロミネンス」が激突し相殺される。残された時間3分。

上空から急降下しつつ二本の腕にハチェットとチェーンソーをそれぞれ装備、残り四本の腕で連射重視の獄炎魔法「フレアブリッド」、風雷魔法「スパークニードル」、土石魔法「ロックスピア」、氷雪魔法「フローズンニードル」を放つ。

熊師匠は回し受けで魔法を受けながら、おっさんを観察している。

熊師匠までの距離が残り5メートルになったところで、パイロキネシスで熊師匠の頭を発火させて視界を奪い動揺をさそう。魔法を放っている四本の腕のうち二本の腕の魔法をキャンセルして、通常サイズのブーメランを2本投げてから瞬間移動で熊師匠の左側面に移動する。

ちょうど頭部の炎が消えたところらしく、目の前に迫ってくる2本のブーメランに意識がいっているようだ。

その隙にがら空きの左脇腹をハチェットで狙う。鼻をヒクヒクさせ熊師匠は間近に迫る二本のブーメランをあっさりと掴み取り、左肘を後ろに引いて脇腹に迫るハチェットを肘鉄で砕く。

おっさんは残ったチェーンソーで熊師匠の背中を狙う。熊師匠は振り返り様に左手に持ったブーメランでチェーンソーを真っ二つに切り裂いた。

続けざまに右手のブーメランでおっさんを切り裂きにきたので、サイコキネシスと磁力魔法で無理矢理ブーメランの軌道を変える。

軌道を曲げると熊師匠はすぐにブーメランを離し、右手で正拳突きを放ってきた。

アイテムボックスから大盾を取りだし、残りの四本の腕で構える。そこに熊師匠の正拳突きが激突する。

おっさんはフルパワーでガードしたのだが、大盾が砕かれ熊師匠の正拳突きがおっさんお腹に深くめり込んだ。その衝撃で後方に激しく吹き飛ばされる。大木を何本も砕き倒しながら50メートル程離れた大岩にめり込んで止まった。

「かは、はあはあ・・・」

咳き込むと口の中に血の味が広がる。治癒魔法をかけながら呼吸を整える。その間にも残された時間が減っていく。残り1分30秒。

熊師匠は先程の場所から動かず、おっさんのことを待っている。

時間もないので残りの魔力を次の一撃に全て注ぎ込む。六本の腕全てに異なる属性魔法を持てる限りの魔力で展開し、六属性全てをおっさん前で統合していく。六属性の魔力が統合され虹色の球体ができあがる。その後で虹色の球体を二つに分ける。

コンポジット・ボウを装備して一方の虹色の球体を矢の形に整形していく。六本の腕で弓を引き狙いをつけて放つ。静かな発射音とは対照的に音速を越える矢が直進していく衝撃で、左右の木々は吹き飛んでいく。

もう一方の虹色の球体を大剣に整形して、六本の腕でしっかり握り熊師匠の真上に瞬間移動する。

熊師匠の真上に現れると既に両手で矢をつかんでいた。構わずに振りかぶって斬りにいく。

鼻をヒクヒクさせた熊師匠は持っている矢を片手剣に整形して、おっさんの大剣にぶつけてきた。

鍔迫り合いもなく両方の剣が砕けちる。凄まじい閃光と衝撃波が辺りに広がり、おっさんは上空に舞う。

時間切れと魔力切れで魔装が解除される。ヒューっと落ちてくるおっさんを熊師匠がその大きな肩で受け止める。模擬戦終了。

「ありがとうございました、熊師匠」

「ぐぅあー」

気にするな。という感じに一声鳴いて歩きだす。

「ところで熊師匠、おっさんはいつまでこの状態なのでしょうか?」

熊師匠の肩の上で魔力切れで脱力モードのおっさんをそのままに、ログハウスの方に向かっていく。

まあ降ろして頂いても、しばらく動けないのだけれども・・・この格好は恥ずかしい(*/□\*)

「ぐぅあ~ぐぉ」

動けないようだからこのまま運んだ方が早い、とのことです。まあそうなんですけど・・・じゃあ、すみませんがお願いします。

それにしてもかなりの速度で移動しているのに、振動が全く伝わってこない。細かいところにも実力の差があらわれるな。

ログハウスに到着するとお留守番だった虎鉄と小雪が駆け寄ってきた。二人とも心配してくれている。でもさあ~虎鉄や、なんでもうお風呂セットを準備してるんだい? 確かにこのあと汗を流しに浴場に行くけど。このお風呂好きめ!

おっさんもアイテムボックスに入浴セットと着替えは入っているけれど、熊師匠もこのまま浴場に行きますか? あ、行きますか。それとおっさんそろそろ自力で歩けるくらいには回復したので、そろそろ降ろして頂けると助かります。やっぱり恥ずかしいの(*/□\*)

「ぐぁぐぅあ」

え、遠慮するな? えーとでは御言葉に甘えさせて頂きます。浴場近くのウサちゃんズのおっさんを見る視線が・・・超恥ずかしい(/-\*)

敗北感より恥ずかしさを噛み締めながら、朝風呂から今日もおっさんの一日は始まります。


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