15:奴隷商
噂は駆ける巡る。
商業区、マルガリータ邸。
マルガリータは、ブオトの町一番の豪商である。
「ガーレル、あんた間の悪い時に来たねえ」
ガーレルと呼ばれた男。
大きな鷲鼻に鋭い目つきの男が、その暗い目をマルガリータに向ける。
「何がだ?」
「どうやら今この町にローラン王家縁の御方が来ているみたいでねえ」
「ほう、王家筋か」
「ああ、あんたがカーライルで商いをしているのは知っているさね、何をするかは知らないがあちらが人を集めているも知ってる」
「ローランに攻め込むらしいぞ」
ガーレルが暗く笑う。
「カッカッカ! そりゃ楽しみだねえ」
「フンッ」
「アタシの扱っている商品ならあんたに売ってもいいが、今この町でおかしなことは起こさない方がいいよ」
「お前に迷惑をかける気はない」
「そりゃ無理さね、これでもアタシャここの商人を束ねる立場にいるもんでね、王族のいる間は何の問題も起こす気はない。意味は解るね?」
「…………解った。では、お前が飼っている獣人をくれ」
「カッ! 白金貨百枚出すなら譲るよ」
白金貨一枚は金貨一万枚に相当する。それを百枚ならばこのブオトの町自体を買ってもお釣りがくる。それでもマルガリータは商人であり、自分の持ち物も商品として値をつける。
「たかが一匹の獣をそんなに気に入っているのか」
マルガリータの背後、垂れ幕の向こうで殺気が膨れ上がる。
「およし!」
「フンッ、まあいい。ユウキという男を探している。情報をくれ」
「ユウキ? 誰だいそりゃ、人相がわかっているなら教えてくれれば、半日で居場所をつきとめるよ」
「…………ユウキは確実にこちらが貰うということでいいか?」
「なんだい、楽しそうな話しになってきたねえ」
美味しい儲け話の匂いをマルガリータは楽しむ。
「フンッ、迂闊に手を出すと痛い目を見るぞ」
「カッカッカ! そりゃ楽しそうだねえ」
滞在先の宿の名を告げガーレルが出て行く。
マルガリータの背後から奇妙な人影が現れる。
「ボク、あいつ嫌いだ」
「カッ! そりゃあいつを好きな奴なんざいりゃしないさね、アタシャ人さえも商品として売るが、あいつはそれ以上だからねえ」
「それ以上って?」
「ガーレルは奴隷商さね」
「ボクにはマルガリータも同じに見えるけど、さっきボクを売ろうとしたでしょ?」
「カッカッカ! アタシのしてることなんざ遊びさね」
「そうなの?」
「ああ、商人マルガリータさんは、ローラン王国のブオトの町で商売をしてるのさ」
「?」
「カッカッカ! まだファムにはわからないかねえ」
ファムと呼ばれた獣人の娘は、テーブルに乗っているお菓子をひとつつまみ食いして部屋を出て行く。
お茶をすすりながらそれを見ていたマルガリータが、誰にともなく呟く。
「ユウキというのを探して、どういう素性か調べておき。猶予は半日、それを過ぎたらガーレルに知らせな」
何事もなかったかのように、お菓子をひとつ口に運び、お茶をすするマルガリータ。




