12:最下層
狂戦士が出現した!
「ファイアランス!」
中空に出現した火の槍が狂戦士に襲い掛かる。
「ウオオオオオオオオ!」
狂戦士の咆哮!
攻撃力アップ! 回復力アップ! 挑発の効果!
狂戦士の腹にファイアランスが刺さり燃え上がる。
腹に刺さったファイアランスを直接掴み握りつぶし、斧を振り上げ術者へ向い突っ込んでくる。
「ガード!」
仲間への攻撃を防ぐガードスキルを発動し、騎士がメイドへ向う狂戦士の突撃を受け止める。
術を唱えていないメイドが二人、スカートの中から取り出した短剣を握り騎士の背後と狂戦士の背後に回る。
「騙し討ち! トリプルアタック!」
「不意打ち! ネックリッパー!」
それぞれ、効果アップのスキルを使用した後、短剣スキルを放つ。
暗殺者が出現した!
狂戦士を倒した一瞬の隙をついて、気配を消していた暗殺者がメイドの背後を取る。
「崩山地撃!」
離れた位置から山なりに宙を移動したセザールの戦斧が反応が遅れたメイドを刺そうとする暗殺者を両断する。
重戦士が出現した!
「ファイアアロー!」
連射の効く下級魔法を放ちつつ、残りのメイドが左右から重戦士の防御の薄い部分をつく。
私とメイド長さんとゴルジフさんが、ゆっくりと歩きながらその攻防を見ている。
「単体で出現してくる敵は対処しやすくていいね」
「はい、お嬢様。よい訓練になります」
「そうだね、メイドさん達それぞれを補うようによく動けてるね」
「ありがとうございます」
メイドさん達、言葉を交わさないでの連携が上手い。
「騎士さんも上手く立ち回れてますね」
「ハッ! お褒めの言葉、ありがとうございます」
めまぐるしく動くメイドさん達の動きに、盾スキルや剣術スキルを発動する事、強制的に体を動かす事で対応している。それなりの戦闘経験がなければ出来ないスキルの使い方だ。
ギルド長のセザールさんは、戦闘全体の流れを見て足りない部分を補っている。指示を出しているわけではないけど、パーティーにおけるリーダーの役割をはたしている。ああいう人が一人いると皆が安心して全力を出せる。さすが冒険者ギルドの長をしているだけはある。
パーティーとしてはよく機能しているけど、個々の実力はそれぞれの職に特化した形だ、メイドさんは結構色々出来ているけど主力には成り得ないかなあ。
ボス部屋に挑戦したいと言い出したら却下しないとね。今居る中でボス部屋に挑戦出来そうなのは、メイド長さんだけ。
「どうなさいました、お嬢様」
メイド長さんの顔を見ていたら、微笑まれながら返事をされてしまった。なんだかなあ、複雑な気分だなあ。
(だいたいこんな感じだろう)
フードの中のクロが私の複雑な気持ちを察知して感想を述べてくる。
(味方に対してって事?)
(うむ、敵に容赦が無い者の大半は味方には甘いものだ。普通はリンのように敵を作らないよう努力するものだが、こいつの主がバカで敵しか作らない無能だったから効率的に敵を潰す手段をとっていただけだろう。こいつの不幸はその敵にリンがいた事だけだな)
(うーん、やっぱりなんか複雑な気分)
(複雑な乙女心?)
(いや、違うから)
ボス部屋に到着する。
セザールさんとゴルジフさんがなんか緊張している。特にセザールさんは、なんか、
「何かあるんですか?」
聞けば答えが帰ってきそうだし、普通に聞いてみる。
顔を見合わせる二人。どうやらここに詳しいそれなりの地位の人達には共通の認識らしい。
喋りづらそうにしている二人を余所に、メイド長さんを見る。
「知ってる?」
「はい、おそらくこのスキルの迷宮の真のボスが出るタイミングになっているのではないかと」
「倒すとこの最下層がしばらく挑戦できなくなるっていう?」
「はい」
メイド長さんを遮るようにセザールさんが話しだす。
「そうだ、早ければ次入った時にレアボスが出現する可能性がある」
「倒したらまずいの?」
思ったことを素直に聞いてみる。
「倒せん」
「え、なんで?」
「おぬし、どういう敵が出るか知っておるのか?」
なんかセザールさん言葉使いが元に戻ってるけど、こっちのほうが話しやすいしいいか。
「自分でしょ? 五階でどういう能力があるか迷宮が調べて作られた、自分と同じ姿と能力を持っている魔物」
「――知っておったのか! ならばわかるだろう、同じ能力があり感情の無い自分が襲ってくるのだぞ」
「はあ」
「瓜二つの自分を殺すことに躊躇しないものなどおらん、それに比べて相手は躊躇も何も無く持てる戦力を効率的に使い殺しに来る。早々勝てるものではない!」
「はあ」
「本来ならばここには、数は少ないが今この町に滞在しているAランクとSランクの冒険者が常にいる。その者達がここにいない理由はただひとつ、今ここに挑戦すれば高い確率で死ぬ事になるからだ」
「けど、何度か攻略されてるんでしょ?」
「たまたまだ!」
「たまたまなの!?」
セザールが魔法の鞄から、アイテムを取り出す。
あれは見た事がある、迷宮脱出用アイテム。ゴルジフさんも同じ物を取り出す。
「もしかして、ついてきた理由はそれ?」
「そういうわけではないが、王族をこのような場で死なせるわけにはいかん」
「ゴルジフさんも?」
「リン様、現在の最下層は危険すぎます。どうしてもと申されるなら、我が騎士に挑戦させてください」
メイド長さんを見る。……頷く。
「……ふぅ」
ため息をひとつつき、ボス部屋から少し離れたところに移動する。
「ここでいい?」
「解ってくれたか!」
セザールさんが、安心した顔で近付いてくる。ゴルジフさんと騎士も、それにメイド達も横に並びながらこちらに集まる。
アイテムを地に置き、発動の準備をする。
「よし、では早速使うぞ!」
「どうぞー」
部屋の中から返事をする。
その声に振り向くセザールとゴルジフ。
メイドが列を開けるとそこには、ご武運をとお辞儀するメイド長とひらひらと手を振るリンの姿!
ボス部屋の扉が閉まる。




