第006話 転移一日目 六
「……んズッ。…………。はっ!?」
自分の鼾の音で目を覚ます。如何やら居間のソファーで寝てしまったようだ。
胸の部分に重さを感じればチーカマが乗っかって気持ち良さそうに寝てた。
薄暗い中、チーカマをソファーに置いて抗議の鳴き声を聞きながら、徐に立つ。明かりがなくてもなんとなくトイレまでの経路は身体が覚えているので、そのまま向かう。
「……ふぅ」
トイレのジャーという音と共に小用を済ましてスッキリする。水洗レバーを戻した所でを現在の状況を、トイレが詰まって溢れるかもしれない危惧を思い出して天を仰ぐ。天井に据え付けられた電球は明るい。謎の電源はまだ生きている模様。
居間に戻って蛍光灯の明かりを点ける。ソファー横のリビングテーブルを見れば三本のビールの缶と肴にしたハムやらチーズやらが散乱していた。飲み慣れない酒を飲んだ所為か見事に爆睡したらしい。
ソファーの上でチーカマが不機嫌そうに「なー」と鳴いてる。気持ちよく寝ていた所を起こしてしまったのが気に入らないご様子。五分ほど、機嫌取りのスキンシップをして、テーブルの上を片付ける始める。
時計を見れば天辺を少し回った辺り。
多少の期待を込めてカーテンをずらして外を窺うも室内灯が硝子に反射してよく見えない。と言うか、夜空の星を見ればこの場所がある程度の想像付くんじゃなかろうか? 薄々と感じている懸念が払拭されるか、或いはそれが現実として受け止める覚悟が出来るんじゃなかろうか。
そうと決まれば、早速外に出る。家の敷地を覆っている森は暗く静かに闇を湛えている。それと対比して。
「…………。……おぉ凄ぇ」
満天に輝く星が今にも手が届きそうなぐらい近く感じられて凄え綺麗なんだけれど、最高に綺麗なんだけれども……。
夏の大三角とか、冬のオリオン座とか、北斗七星とか、カシオペア座とか季節柄の有名どころか方位を特定しやすい星座が何処にもない!
地球の北半球じゃないにしても、見た事の無い星の配置をしているんですが!
まぁ、なんとなく察してはいたけれど、これで確信、確定したと言ってもいい。
原因は判らないけれど、俺は何処ぞと知らない世界に居るって認識で覚悟を決めた方がいいだろう。
妹夫婦や本家の小父さん。友人、会社の同僚達には多大な迷惑を掛けたであろうと予想出来るけど、向こうに戻れたらのなら土下座して謝ろう。
どうやら僕は異世界に飛ばされたようです。
そんな感傷に浸っていると、綺麗な星空に一際長い尾を引いた流れ星が出現した。それを見て何かを願うで無く家の中に戻る。
居間のソファーに座って、チーカマを抱き上げ膝の上に置いて撫で捲くり、気持ちよさげなゴロゴロ音を聞きながら、今後の行動について思考を巡らす。
電気、ガス、水道のインフラが何時まで使えるか判らないけれど、基本になる家が在るってことがせめてもの救いだ。
当面は家に有る在庫で持つと思うけれど、森の中を探索して食料と飲料水の確保。
昼間森に入ってみた結果、五十メートルも進まず、細かい謎の虫が纏わり付いてきた。敷地に張り巡らされた謎のバリヤーに弾かれていたけれど、蚊やツツガムシ……はダニの一種だったか、みたいに怪しげな病気を媒介させるのが居るかもしれん。外に出た時に噛まれなくてよかった。
虫除けは、救急箱にハッカ油が有った筈だけど果たして効くんだろうか? 無いよりはマシだと思いたい。
これだけの森なんだ。虫以外にも猿や鹿、猪、最悪熊なんかの野生動物の脅威があるかもしれない。虫は謎のバリヤーが弾いてくれたから良かったものの、四足の野生生物にも有効だと限らない。下手すると簡単に押し入られるかもしれない。
そうなると生垣だけだと心許無い気がする。外周りの整備と補強に回るか。今更ながら腰ぐらいの高さでも良かったからコンクリート製のブロックで囲っておけばよかったと後悔。水を入れたペットボトルを置いておくと避けていくとか、いや猫じゃ有るまいし、ないよなぁ。
先ずは下草を刈って邪魔になりそうな木を切り払って敷地と森の間を広げて緩衝地帯として堀を作る、か。って、家の敷地全周を?
……結構な広さがあるんだけど。だ、誰か、重機を、重機を持てきて! 小型のバックフォーでも可! その前に燃料確保に無理がある。全部、人力でこなすしかない予感。
これってあれか、漫画やラノベで読んだ開拓モノとかそんなヤツ? 物作りに特化した魔法とかスキル覚えたりとか、森の妖精さんとか、仲良くなったりドラゴンとか力を貸してくれる系の、暇潰しで読んだ漫画やラノベ知識が活かされる時っ! ……って、んな訳有るかよ。
現状で日本に帰れる見込みもないし、どうせやる事も何も無いんだし、地道にやるしかないか。森の探索はそれ以降に改めてトライしてみよう。
昼に農業用ドローンを使って偵察してみたいけど、地面は木々に覆われて見えないし、家のは安全も考慮して飛ばせるのは直線で五百メートルぐらいがいい所。
物に依っては二千メートル以上飛ぶのも有るらしいけれど、それでもあの上空から見た我が家を囲っている森や小高い山は越えられまい。
食糧確保に関しては、無難に家庭菜園を使った方が良さそうか。種って何があったっけ? 茄子とかトマトとか有ればいいんだけど、朝顔や菜の花的な観葉植物ぐらいだった気がしないでもない。有ったとしても実が成るまでに食料が持つか、だな。
そう言えば四足の野生生物しか頭に無かったけれど、野鳥なんかも居そうだ。害鳥じゃなければいいんだけど、案山子とかギラギラしたテープとか、目玉のバルーンに紐で吊ったCD辺りか、鳥避けも用意しなきゃいけないか。車庫に有ったっけ? 爺さんのことだから買っていそうだな。
て言うか、今の季節って時期的に如何なんだ? 種を植えた途端に冬が来ました。じゃ目も当てられない。そもそも四季って有るのか判らない。季節が判るまで植えるのは待った方がいいのか。うーん。
「チーカマ、如何しよう?」
「…………」
こやつ気持ち良さそうに寝てやがる!?
昼から酒を飲んだ影響で爆睡した所為か、或いは現在の置かれた状況を知ってしまった所為か、改めて寝られる気がしない。
時計を見ると午前一時を回った所。せめて気持ちを落ち着かせられればいいかと目を瞑って居たら、何時の間にか夢の世界へ落ちていた。
我が妄想……でした。
読んで頂き有り難うございます。




