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第005話 転移一日目 五

 自分の部屋に戻って農作業用のツナギ服に着替える。その間、俺の外部記憶装置であるディスクトップ型パソコンを起動させてみたら、普通に立ち上がった。


 インターネットに繋げられるか確認してみたけれど駄目だった。ネタ的にSNSに呟こうと思ったけれど無理だった。暇潰しのブラウザなネトゲーと動画漁りも出来ない。


 これでこのパソコンは俺の恥かしい性癖を網羅しているだけの只の箱と化してしまった。


 ぶっちゃけて言うと、性癖って俺好みのエロ動画やエロ画像の事だよ。二次元だっていける、よゆーよゆー。謎の電源が生きている内に、己の分身である外部記憶にふけるられるか判らないけれど。って、これ以上言わせんな恥ずかしい。


 そんな事を考えながら、パソコンの電源を落とし、再び車庫まで移動する。


 大量に置かれた荷物を掻き分けて、なんとか隙間を作りながら爺さんの道具が置いてある棚まで辿り着く。


 そこには農作業用の道具だけじゃなく、素人目によく判らない道具がずらっと並んでいて、これを毎回見る度に「作業道具マニアかよ!」って叫びたくなる。


 判る範囲で、片刃や両刃、幅の違う様々なのこぎりやとび口、のみが一式。金槌や釘打ち機、色々なサイズの釘が大量にある。そこに墨壷に水平儀、巻尺やスケール、L字型の曲尺かねじゃくも取り揃えてある。


 木槌から金槌、ゴム製ハンマー、バールのようなモノ。挙句、壁には杭打ちの用のカケヤだっけか、が立て掛けられている。鶴嘴つるはしや剣型、角型のショベルやスコップも一緒に並んでいる。しれっと壁際にセメント袋が重なってる。


 足を掛けられる方がショベルで、掛けられない方がスコップと教えられたけれど、東京に出た時に、同じ会社で仕事していた関西のヤツと世間話的な会話の中でショベル、スコップの呼び名に齟齬が生じて、調べてみたら地域に寄って形や大きさで呼び方が変わるって事を知った。


 他にも、樹脂製のケースに入ったハンドドリルやドライバー、電動鋸といった電気や液体燃料で動く工具が置いてある。これ等は結構使い勝手がいいのでたまに借りていた。


「ホント、なんで家にチェーンソーが三本もあるんだよ」


 俺が整理して片付けているので見知ってはいるのだけれど、毎度同じ言葉を口にしてしまう。混合ガソリン用二本と電動用が一本。爺さんはいったい何と戦っていたんだろう。神か? ゾンビか? ネタ的にそう思わずにはいられない。


 草刈機は二本、爺さんと親父の分か。それに合わせてアタッチメントの替え刃が予備として何枚も用意してある。購入の日付が爺さんの字で几帳面に書いてあって、見れば平成年号の中期。物持ち良過ぎぃ。


 親父が生前、材料さえ揃っていればここに有る道具で家を建てられるって話していたっけ。そんな事を思い出しながら、棚の中から、本命である鉈を見付け出して拝借する。


 頭には麦藁帽子。首に汗拭き用の手拭い。農作業用のツナギを着て右手には鉈を装備。背中にビニールで編んだ籠を背負って、腰にはお茶の五百ミリペットボトルが入れたポーチを下げて、家の敷地の門に立つ。いざ森の中へ出陣。


 敷地外へと一歩踏み出すと、湿り気のあるむっとした草木の独特な青臭さが漂ってきた。手に持った鉈で低い立ち木や枝を払い、羊歯っぽい植物の葉を掻き分け、道なき場所を突き進む。


 気分はちょっとした山菜採りである。辺りに有るのは見た事が無い植物だらけだけどな!


 そう、日本人にお馴染みの木々や植物が見当たらない。植物学者なんかだと近縁種や近似種として、もしかしたら見分けられるだろうけど、素人の俺にはさっぱりだった。


 あと森に入った辺りから、ブヨみたいな、小バエみたいな、蚊みたいな、ポヤっとした毛みたいな名前も種類も判らない謎の細かい虫が大量に纏わり付いてきた。効くのかは判らないけれど、虫除けを付けて来れば良かったと後悔した。


 せめて桜や松、杉、アカシヤなんかの判り易い木。近場の山に生えていた楓、けやき、ブナなんかの見慣れた木。あとは食えそうな山菜でも生えていれば、もう少し頑張れたんだろうけど、五十メートル程入って色々と諦めて家に戻ることにした。


 お茶のペットボトルなんて蓋を開ける暇すら無かったよ。


 ただ、不思議なことに家の敷地に入った途端、森の中から纏わり付いていた謎の細かい虫がシャットアウトされた。幾ら追い払っても近寄ってきていた不快感の消失に振り返って見たら、門の向こう側で蚊柱みたいなの感じにたむろっていた。


 少しして蚊柱みたいなのを形成していた虫の塊は拡散していったけれど、それを観察していた限りだと、見えない壁に阻まれて敷地内には入ってこられない感じに見えた。


 試しにもう一度外に出てみる。さっき拡散していった虫なのか、時間を置かず寄ってくる。ある程度寄ってきた辺りで手で払いつつ敷地内に退避する。やはり見えない壁に阻まれるのか虫は入ってこられない。何度か繰り返してみたけれど結果は同じだった。


 ふむぅ、細かい虫を寄せ付けない快適空間を形成する謎のバリヤーか! ……って、違うだろ。


 森の中は、似た植物なら見た事があるかな? ぐらいな感じで厳密にそれだって確信を持てない物ばかりだったし、寄ってくる謎の細かい虫に辟易して家に戻ってくれば、敷地内に入ってこられないし、森を散策したら多少なりと何か判るかもと思っていたけど、益々訳が判らなくなった。


「……誰でもいいから現状の説明してくれないかな?」


 門の外に目を向けながら、思わず言葉が口からいてくる。


「…………」


 暫くその場に佇んでいたけど、さわさわとした木の葉が風に揺れて擦れる音しか聞こえてこない。


 頭に浮かんでいる懸念、妄想的な事案は有るけれど、それを認めるには突拍子も無さ過ぎてちょっとした拒否感がある。諦めて車庫に道具を戻して家の中に入る。


 このあと、冷蔵庫内の食料をさかなに飲めない酒を飲んで不貞寝した。


 これでも人生を真面目にやって来たつもりなんだけどな。神様なんて何処にも居ないんや!

我が妄想……でした。

読んで頂き有り難うございます。

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