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第011話 転移十六日目 二

「ああ、やっぱり人だ!」


 ここに来て初めて目撃した人は敷地の門から二、三メートルの辺りに人がうつぶせになって倒れていた。行き倒れ、か?


 森の下草が枯れたっぽい色合いに近い、麻っぽい繊維でできた長袖の服とズボン。買い物袋みたいな少し膨らんでいる袋を肩に担いでいる。


 この着ている衣類と袋の色合いの所為で、周りに馴染んでいてパッと見で気が付かなかった。


 そして、人が倒れていると気が付けた部分。


 頭の部分に汚れの所為かくすんだ金色をした髪の毛が生えていた。森の下草が生えたような場所でもこの金色は目立つ。


 結構な長さがあって後頭部の高い位置でポニーテールに結んでいるから女性、と思われる。


 反対の足の部分は森の中を歩くには心許ない感じの紐でできたサンダルのような靴。当然、むき出しになった素足が土で汚れている。


 敷地の門から出ずに観察した限りではそんな感じだ。


 人が意識を失って倒れた。もしくは倒れている場面に遭遇したら……職場でやったよな、アレ。AEDを設置するに伴って、受講した講習したヤツ。


 救急の心得!


 えーっと確か、周囲の安全を確認して優しく肩を叩いて反応を見る。


 近くの誰かを指名して救急車を呼んでもらう。AEDが近くに設置されているなら持ってきてもらう。応急処置を行う。だったか。


 救急車とAEDの二つはスキップする。……そもそも誰も居ないし、家にそんな機械無いし。


 取り敢えず、門の外に狼なんかの危険な野生生物が居ないか辺りの安全を確認して、と。……前方確認、左右確認、指差し確認でヨシ!


「……オケー、オケー。大丈夫そうだ」


 では、次にこのまま声を掛けて……あ、言葉通じるかな? ま、まぁ、駄目なら駄目でその時だ。よし、やるぞ。


「おい、君っ、大丈夫か!! しっかりしろ!!」

「…………」


 続けて二度三度と声掛けしてみたけれど反応はない。下手に身体に触れてセクハラとか言われたら嫌なんだけど、やっぱり優しく肩を叩かないと駄目なんだろうか。


 声掛けだけで気が付いてくれればよかったんだが……。ここは別の世界なんだ。向こうと違ってそんな騒ぎになることはないだろうと腹を括って、改めて安全を確認して門の外へ出る。


 近付いてうつ伏せになっている人物を顔が見える場所に移動する。……うん、ちょっと匂う。それを香木で誤魔化している? で、女性の横顔は少し幼さが残っている。……少女、なのか。こんな場所に一人で?


 セクハラと事案発生の言葉が脳裏をよぎり、すぐさま振り払って、少女の顔の鼻と口元付近に手を近づけてみる。……呼吸はあるみたいだ。


 改めて、肩を優しく叩きながら、二度、三度と声を掛ける。


「おい、君っ、大丈夫か!! おい、しっかりしろ!! おい、大丈夫か!!」

「…………ん、んん」


 おお、反応あったヨシ!! 内心、応急処置の胸部圧迫と人工呼吸にちょっとした抵抗感があったけれど、その必要は無さそうだ。見た感じだと他に外傷は見当たらない。


 ただ、このままこの場所に寝かしておくのも宜しくないな。野生生物、狼なんかが来たら大変だ。謎のバリアーで守られた敷地内に運び込んだ方が無難か。


 そうと決めたら、少女の腕を持ち上げて肩に担いでいた袋を外して、左肩に引っ掛けて背負う。そして、少女を仰向けにして背中と膝裏に手を回し抱えた。いわゆるお姫様抱っこだ。


 そのまま敷地内に入って、俺が昼寝で使っていたビーチチェアまで運んで寝かせた。移動中、少し声が漏れ聞こえたけどそれだけで、やはり反応は薄い。動かさない方がよかったのか?


 肩に掛けて背負ってきた袋には、大量の山菜っぽい草が入っていたけど、それ程重くはなくて軽かった。そいつはビーチチェアの足元に置いた。


 すぐに目が覚めるか判らないけど、このまま横に寝かせておいて、ちょくちょく様子を見ながらバーベキューセットの片付けをやるか。


 ……っと、その前に、食材を家の台所にあるテーブルの上に食品用ラップフィルムを掛けて置いてくる。夜はこれで何かを作ろう。


 チーカマは居間のソファーでお休み中だった。


 次に、道具類を玄関近くに運んで、据え付けられた水道を使って、ブラシで擦りながらこびり付いた汚れを落としながら、洗っていく。


 たまにビーチチェアで横になっている少女の様子を、声掛けをしながら確認していたけれど、目を覚ます気配はない。


 洗い終わった物は水を切って車庫内に運び込み、所定の位置に戻していく。


 完全に乾かしていないから錆びの心配もあるけれど、こうすれば日付が変わるころに修復されて元通りになっている。


 逆に出しっぱなしのモノはそのままの状態だし、補充もされない。おそらく日付を超えて連続使用中とかなっているんだろうと、ここ二週間ぐらいの経験からそう推測している。


 片付け終えて、車庫から出る。黒い影が伸びて薄暗い。空を見上げると陽もすっかり傾いて真っ赤に染まっていた。夕暮れだ。


 少女が横になっているビーチチェアの方を見ると、億劫そうにしながら上半身を起こしている少女の姿があった。


 ようやく目を覚ましたらしい。急いで少女の元に向かって声を掛ける。


「やあ、気が付いたようだね。身体の方はなんともない?」

「……おじさん、だれ? ここはどこ? 私、は……」


 そこまで言うと少女は口元に手を当てて、視線を地面に落として何事かを考えている。或いは、ここに到るまでの事を思い出しているのか。


 俺はその姿を黙って見ていた。

我が妄想……でした。


読んで頂き有り難うございます。

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