↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/24

24 幕間 盲点

『三日前にもお休みになられたばかりだし……』


 画面の向こうでスカーレットが物憂げに答える。気高きスカーレット様らしからぬ言動に、これも全部アランの長年のモラハラによるものだと怒りが湧いてくる。


――もう! 何を弱気になっているのよ。スカーレット様は気高く強いの! 来週の木曜日がチャンスよ! 絶対決行しなさいよ。それから、早くアリシアに手紙書きなさい。


 本来、木曜日の図書館でシドに会うのはカレンなのだが、カレンの相手はレオルドを推しているので丁度いい。完璧なタイムスケジューリングだと自画自賛していると、


「部長帰って来たわよ。報告するように言われているんでしょ?」


 と同期が声を掛けてくれたので顔を上げた。


「有難う」


 わたしはお礼をいうと急いで部長のデスクへ向かった。

 部長は出張が多くて、これまでの進捗の報告ができていない。『新・運命の二人』のプログラム変更後、早速テストプレイに勤しみ、悪役令嬢達の曇った目を晴らすことに着々と成功している。今もスカーレットに対して、シドと会うよう強く強く後押ししていたところだ。なので、


「いい感じ。いい感じ! 凄いいい感じになってきましたよ、部長!」


 と意気揚々と部長に駆け寄った。

 

「君ね、いい感じなんていう報告があるか。具体的に何がどういい感じなんだ」


 真面目な部長から尤もな指摘を受けて、わたしはここまでの状況を細かく説明した。


「つまり悪役令嬢達が開眼して、攻略対象達にようやく見切りをつけた、というわけか」

「はい! そうなんですよ! いやー、もっとあっさり開眼してくれるかと思ったんですけど、結構、みんな疑い深くて苦労しました。あんな碌でなしばっかりなのに恋は盲目とはよく言いましたよね」


 わたしがにこやかに言うと、部長はちょっと返答に困るみたいな顔をした。


「……まぁ、順調ならいい。この調子で進めてくれ」


 部長はそう言うと、掛かってきた内線電話に出てしまった。

 なんか軽く流されている感じがするんだけど、と思わないこともない。しかし、進めてくれと言われたのだから進めればよいか、と自分のデスクへ戻った。


「何? 部長に何か言われたの?」


 顔に出やすい質なので、わたしの納得いってない様子を気にして、隣席の先輩が声をかけてくれた。


「いえ、進めるように言われました。あんまり興味なさそうでしたけど……」

「別にそんなことはないでしょ。部長は結構、放任主義だからさ」

「そうですかね」

「それより、私、気になってることがあるのよ」


 先輩は慰めモードから急にキリッとした、仕事のできる女モードに切り替えて言った。


「出張続きで、あんたの企画書読むの遅くなって、今更こんなこと言うのは申し訳ないんだけど」


 先輩にはこれまで散々お世話になってきたし、信頼できる。めちゃくちゃ優秀な人だ。その先輩にこんな風に言われて、一瞬で緊張が走った。


「悪役令嬢が、攻略対象を見切って他に行くっていうコンセプトはいいんだけどさ、その新たな相手にまた攻略対象充てがって大丈夫なの?」

「え?」

「いや、だからさ、クズだから別れさせたのに、そのクズ使い回してよいの?」


 先輩が、素朴な疑問みたいに言う。一瞬頭が真っ白になった。そんなこと微塵も考えていなかった。だって、攻略対象だから。元々、世の女性達がときめく要素を兼ね備えたイケメン達だ。悪役令嬢に対してはひどい態度であるけれど、ヒロインに対してはスパダリ以外の何者でもない。だから、新たな相手を充てがえば、カレンに対する対応と同じになってハッピーエンドを迎えられると考えていた。


「カレンを好きになったように、新しい相手を好きになったら上手くいくんじゃないでしょうか……」

「ふーん。それは一理あるけど、カレンは下町からでてきて右も左もわからない真っ白な純粋無垢な状態じゃない? でも、悪役令嬢達はずっと学園にいて、ある程度周囲の状況とか把握しているんじゃないの? 私だったら、こいつ、あの子を冷遇していたクソ野郎だな、代わりに成敗してやる、とか思っちゃうけどね」

「……いや〜……でも、ほら、周囲には冷たいけど自分にだけ優しいとかは胸キュンポイントじゃないですか」


 苦し紛れの言い訳みたいに言うと、


「なるほど。確かにそんな見方もあるか。若いわね。さすが二十代」


 と先輩はよくわからない返事をした。先輩だってまだ三十代前半のはずだ。十分若いじゃないか。馬鹿にしている感じではないし、皮肉を言う性格の人でもないから、素直な意見を言ってくれたのだろうけれど。


「まぁ、何か困ったことがあれば教えて。一緒に考えましょう」


 先輩はそう言うと自分のパソコンに向き直った。


「……ありがとうございます」


 わたしもお礼を言って自分のパソコン画面を見た。自動モードでストーリーは勝手に進んでいる。今は、スカーレットがカレンから女子会の説明を受けて嬉しそうに笑っているところだ。みんなでランチするらしい。そんな展開知らんけど。元の物語にはなかった。物凄く嫌な予感がする。いや、でもまだわからんし。攻略対象はイケメンで、スペックは申し分ないのだ本当に。ただ悪役令嬢達に対してクズなだけ。それが最大の問題なのだが。


…………………………。


 もしかして、とんでもない盲点だったかもしれない。ぐるぐる思考が巡り、今すぐ先輩に泣きつきたくなった。わたしは途方もない気持ちで、ひたすらに画面を見つめ続けた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白い! 「クズ使い回してよいの?」名言頂きました(笑)。 攻略対象がイケメンで魅力的という前提がありますからね。なんとなく感じていた違和感を、先輩がズバリ言語化してくれてスッキリしました! 続きが楽…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。