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予定の遅れを取り戻すべく、何とか本日二話目の投稿です。
その男性の声に疑問を浮かべながら顔を上げると、そこには微かに幼い頃の面影を残した懐かしい思い出の中の少年が立っていた…
既に成長期を迎えていた彼は、当時よりも随分背が高くなっており頭一つ分の身長差は頭二つ分以上になっていた。当時よりも幾分か低くなった声、幼い頃とは違った話しぶりに目を白黒とさせてしまったが、そこにいた彼は7年前に貴族街で出会い、図書館で私を守ろうとしてくれたヴォルフラムだった。
「君は、リーゼじゃないかい?幼い頃に一度だけだが…貴族街で出会った白銀の君なんじゃないかと…覚えていないだろうか…ヴォルフラム・ビッケンバーグだ。あの時は、家名も爵位も名乗っていなかったが…。」
覚えている。
懐かしい平民時代の思い出として、もう名前さえうろ覚えだったが今ハッキリと思い出した!彼は、ヴォルフラム。勉強嫌いの魔法嫌いで剣に生きようとしていたあの小生意気で、でもとても男らしく私を守ろうとしてくれた彼だ!
「…はい。覚えております。あれはわたくしがまだ平民で幼かった頃…あの時は、助けて頂き本当にありがとうございました。あの後暫くして、お父様が爵位を賜り名を改めました。今は、リーゼロッテ・クラウゼンと名乗らせて頂いております。」
「そうか…そうか…よかった!やっと会えた!君程の子の親だ、準貴族ならば文爵にはなっているだろうと探していたのだが…まさか、あのクラウゼン子爵の…だからリーゼの名だけで探していたから見つけられなかったんだな…反転作用の魔法の件もクラウゼン子爵の手柄と聞かされたが当時の私の力では「御令嬢はリーゼではない。」と言う事しか調べられなかった…。系統も違えば、どうも隠されている様子でどうにもならなかったんだ。」
「そうだったのですね、ご面倒をお掛けして申し訳ありませんでした。」
「いい、そんなのいいんだ。仲間だからな!元気そうでよかった!」
ヴォルフラムが振り返り、青髪の青年に目配せをするといくつか殿下と言葉を交わした。もしかして、あの青髪の彼は…そう思ってヴォルフラムに目を向けると幼い頃そのままの屈託のない笑顔でニカッっと笑った。そんな彼の笑顔に気取られているとこちらに向かってくる一行が目に入った。
…まさかの、エーリッヒ殿下御一行様だ!
ミィーンヒェンに横眼で視線を送ると既に跪礼の所作に入っていた。早い!!私も慌てて跪礼をする。もう頭の中は大パニックだ!事情の分からないミィーンヒェンはきっともっと酷い…機械的になんとか動いたのだろう…ごめんね、ミィーンヒェン!でも、エーリッヒ殿下が来るなんて想定外だ!
「やぁ。君が彼らの探していたリーゼだったんだってね。僕は、オーステル王国第一王子エーリッヒ=マリア・オーステルだよ。まぁ、知ってるよね。彼らの話を少しばかり聞いたことがあって少々興味があったんだ。えっと、顔を上げていいよ?感動の再会に水を差したい訳じゃないんだ。」
「お初にお目に掛かります。わたくしは、クラウゼン子爵家の長女リーゼロッテでございます。こちらは、私の友人です。」
「お初にお目に掛かります。ビアラス子爵家長女ミィーンヒェンにございます。」
「うん、覚えたよ。んー…、それじゃあミィーンヒェン嬢行こうか!」
「え?エーリッヒ殿下…それは、どういった…」
「僕は感動の再開に水は差したくないって言ったろ?エルネスティーネ嬢、いいかな?いつも僕に良くしてくれる彼らに時間を上げたいんだ。」
「まぁ!それは素晴らしいですわ。ミィーンヒェンさんとはクラスメイトですし問題ありませんわ!流石エーリッヒ殿下です。本日はゆっくり三人でお食事をして下さいまし。」
エルネスティーネ様が肯定の声を上げると、サッと取り巻きの令嬢がミィーンヒェンの脇を固めた。ミィーンヒェンがロズウェル事件よろしく、連行されてゆく…ごめんね、ミィーンヒェン…王族の命令には逆らえぬよ…
「それじゃあ、僕たちは行くよ。ヴォルフラム、ヒューベルト午後の授業でね。えーっと、なんだっけ…あぁ、そうだ文武両道の仲間だっけ。旧交を深めておいで!じゃあね!」
「「お気遣いありがとうございます。」」
後ろ手に軽い感じでヒラヒラと手を振るエーリッヒ殿下と、こちらに軽く会釈を送るエルネスティーネ様は十人以上もの取り巻き達を連れて爽快と去っていった。
ミィーンヒェンの悲し気な横顔が気になってしかたがなかった…。
「さて…、リーゼ久しぶりだね。僕の事も覚えているかい?ヒューベルト・チェスクッティだ。」
「はい、覚えております。リーゼロッテ・クラウゼンです。ご無沙汰しております。」
「君の白銀の髪が見えてね、まさかと思ってヴォルフラムに声を掛けて貰ったんだ。行ってもらって正解だった。クラウゼン…あのクラウゼン子爵か…やっぱりね。コルトレツィス侯爵もやってくれたなぁ…何が「リーゼと言う名の少女はいなかった。」だよ。しっかり隠してるじゃないか。まったくやってくれたね…。」
「まったくだ。バイルシュミット侯爵の四男が交流があるって噂を聞いて探りを入れてみたけど…どういう訳かはぐらかされるし…俺達には本当にお手上げだったよ…。」
「何故そこまでしてわたくしを探そうと?」
「話せば長いような、短い様な…まぁ、個室を取るから食事をしながらゆっくり話そうじゃないか。なぁ、ヒューベルト。」
ヴォルフラムが声を掛けるとヒューベルトは優雅な所作でドアの方を掌で刺し、私を教室の外へと誘導した。
記憶の中のヒューベルトは、言葉が少し上手くないというか…人見知りのような感じだったはず…。それが今はどうだ、一見すると同一人物とは思えないほどにスラスラと会話をし、身分に相応しい振る舞いと女性に対するエスコートの能力も兼ね備えている様だ。身体つきも当時のか細い感じからそれなりに筋肉がついたのか脱いだら細マッチョっぽい…。
そしてヴォルフラムも…二度目の初対面の後、エーリッヒ殿下が居なくなってからは幾分か砕けた口調になったがそれでも当時の腕白な雰囲気は鳴りを潜め、爽やかな汗の似合う好青年といた雰囲気になっている。
私は、どのように振舞っていいか解らず…前を行く二人の間に一歩遅れて付き従うのがやっとだった。傍目に見れば少し前のミィーンヒェンとそう変わらない様子に見えるだろう…。
「いやぁ、本当にまたあえて良かったよ。ずっと君と話がしたいと思っていたんだ。えーっと、リーゼロッテ嬢と呼んだ方がいいのかな?僕たちの間ではもっぱらリーゼだったから、なんとも不思議な感じがするよ、なぁヴォルフラム。」
「そうだなぁ。でも、流石に色々問題があると思うぞ。俺はともかく、ヒューベルトは駄目だろ。婚約者候補達が発狂しかねない。」
ヴォルフラムが大袈裟に身震いしてみせた。
しかし、それは私も困る。女の嫉妬はとても恐ろしい…特に学園にはそういった話しが渦巻いている…勘違いされるような行いはなるべく控えたい。
「あの…できれば敬称は付けて頂きたく…。」
「うーん…、じゃあリーゼ嬢。これでどうだろうか?呼び捨てよりは幾分マシじゃないかな?駄目かい?」
捨てられた子犬の様な目を振り返りながら向けるヒューベルト。
こんなんズルい…ダメって言えないじゃない…。
「で、できれば人目の多い所では避けて頂きたく…」
「俺は、リーゼでもいいだろ?北部辺境伯の嫡男だけど、今は情勢も良くなくて目立った婚約の話も来てないし、大丈夫だろ?」
「僕が駄目ならヴォルフラムだって駄目だよ。それに僕たち側の話をしてるけど、彼女にだって立場があるだろ?変に騒がれてリーゼ嬢が結婚できなくなったらどうするんだ。」
「あぁ、そうか。…んー、良くないか?それなら俺のとこに嫁にくればいい。」
「なっ!?お前はそうやっていつも簡単に物事をっ!少しは賢くなったと思ったが、やっぱりお前は筋肉馬鹿だ!リーゼ嬢にだって選ぶ権利があるだろ!家同士の結婚でないなら、互いの意思が…」
「ヒューベルトはいつもそうだ!何でもかんでも理屈ばかり!たまには何も考えずに動いたらどうだ?そんなに考えてばかりいるとそのうちハゲるぞ?」
「言っていい事と悪い事があるよ、ヴォルフラム!」
私の思考が追いつかないうちに喧嘩がはじまってしまった。と言っても、本気でといった様子ではなく仲良がいい故のいつもの口喧嘩といった感じがする。彼らはあの頃から仲良くなって、親友の様な立場になっていったのだろうか…二人の変わりようには驚いたが、それはとても微笑ましく見えた。
「ふふっ」
「「ん?」」
「リーゼ嬢、笑ったね?」
「あ、申し訳ありません。つい、微笑ましく見えてしまって…」
「リーゼ、そろそろその口調なんとかならないのか?まぁ、昔もそうだったけどさ…もう少し砕けてくれていいんだぞ?俺達は仲間だろ?」
「そんな…その様な恐れ多い事出来ません。私は子爵家、お二人は侯爵家と辺境伯家の嫡男ではありませんか。私の様な者とあまり親しくされるのは…」
二人は顔を見合わせて、呆れた様子だった。
「あのね、リーゼ嬢。僕たちが君をずっと探してた意味が解らない?僕たちはね、あの日君と出会った事で変われたんだよ?」
「変われた…一体、何がでしょうか…。」
「俺は、剣だけを…ヒューベルトは魔法だけを極めようとしてた。でも、それだけじゃ駄目だって…文武両道の精神を教えてくれたリーゼに俺達は感謝してたんだ。だから、もう一度あって変われた俺達を見せてお礼が言いたかったんだぞ!」
「たった数刻ですよ…?」
「それでもだよ。当時の僕たちは別方向だったけど、その道を行くべきだとそれだけが正しいと思い込んでいたんだ。今の僕たちがあるのはリーゼ嬢のお蔭なんだよ。」
「そんな訳だから、リーゼ諦めろ!俺達はもう既に仲間なんだ。一緒に王家に仕えて、国を盛り立てて行こうぜ。リーゼなら何か凄い事をやってくれそうな気がするんだよなー。」
「丁度良い事に、武・魔・財の三系統だ。きっと面白い学園生活になるよ。楽しみだ。」
私の意思はさておき、二人がどんどんと楽しそうに話を膨らませている。さっきまでの口喧嘩は、やはりいつもの流れといった感じだったのだろうか…それより…確かに財系の家ではあるが、我が家が何かをどうこう出来る立場ではない。しかも私は女で家を継ぐ訳でもないから、彼らとは全然立場が違う。彼らの中のリーゼ像はどれだけ膨らんでしまっているのだろうか…そんな大した事はできないし、アレ以来目立たず何もせずを意識して生きて来た。今の私に何かを望まれても困るのだ。
「そうだ!あの時のお茶!あれ、どうにか手に入らないのか?あの後、母上に探してもらったけど全然見つけられなかったんだ。絶対稽古中に飲むのに合うと思うんだよ!あれ、どうしたリーゼ?」
「リーゼ嬢?不思議な顔をしているけど、どうしたの?」
「あ、いえ、何でもありません。ウィーティでしたら寮の部屋にありますので、後程お届けしますわ。もっとご入用なのであれば、取り扱っている商会をご紹介する事も可能です。」
「おっ、やった!じゃあ、後で頼むよ!」
「あれがまた飲めるのか、楽しみだね。」
その後、二人が用意してくれた個室で食事を取り、あの後どう過ごしていたのか昔話をする事になった。話の流れでなんとか、人目のあるところでは無難な対応をしてもらう様に取り付ける事に成功はしたものの…妙に不安な気持ちは収まらなかった…。私の平穏な学園生活は、ちゃんと続くのだろうか…。
複雑な気持ちが渦巻く昼食を終え教室に戻ると、同じように複雑な顔をしたミィーンヒェンが既に待っていた。
「ミィーン…。エーリッヒ殿下やエルネスティーネ様との食事はどうだったの?」
「それ…聞く?…全然味がしなかったわよ。なんか、殿下がリーゼが二人の恩人の様に聞いてるって話だったけど…後で詳しく聞かせて貰うんだからね…。」
恨めしそうなミィーンヒェンに私は苦笑いで答えるしかできなかった。
誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。
作者は恋愛物のつもりで書いてます!
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人物が増えて来たので、そろそろ人物紹介のページがあった方がいいのかな?と考えております。よろしければ感想にてご意見を頂ければ幸いです。




