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「警告への応答なし。
敵艦、速度進路、変わらず。
間もなく、前陣艦隊の中央に接近。
一次防衛ラインに侵入します」
士官の一人が現在の状況を報告する。
それは、間もなく、戦いが始まることを予告していた。
艦橋からは、既に一時の喧騒は失われている。
前を見据え、その時が訪れることを待っていた。
「前陣艦隊の攻撃管制を同期。
有効射程に到達した瞬間に斉射を行う」
「攻撃管制の同期を確認。問題ありません」
「やはり、迂回してはくれなんだか。
困ったものだ」
「いよいよですね」
ため息をつくシャルケに参謀の一人が声をかける。
「ああ、そうだな。
貴官はどう考える?」
「小官であれば、勝算のない戦いは挑みません」
「私もだよ。
ならば、敵は勝とうとしている。
そう考えるべきなのだろうな。
にわかには信じがたいことだが」
「それが、愚かな思い上がりであれば良いのですが」
「怖いか?」
握りしめた拳は揺れていた。
「いえ、ただ、悔しいのです」
「そうか、だが、そう悲観することはない。
皇帝陛下は仰っておられた。
未来を見据え、帝国の威光を示せとな。
ここで終わりではないと、そう告げられたのだ。
ならば、我らは、それを信じ、その礎となるだけだ」
「有効射程まで、三〇カウント」
声が響き渡る。
艦橋にいる者全てが、永遠にも感じられる時間を過ごした。
敵艦の座標を示す赤い柱体。
立体俯瞰図の中で明滅していたそれが、遂に実在する脅威として現れた。
「敵艦、有効射程に入りました」
「撃て」
シャルケは、ただ命じた。
その瞬間、宇宙は眩い光に包まれた。




