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情報は、間もなく、守都艦隊旗艦トラスベイルへともたらされた。
「敵艦に動き。侵攻を開始したものと思われます」
遂に、戦端が開かれる。
艦橋に詰める士官たちは、あらためて、その現実を強く意識し、表情を険しくする。
「艦隊の集結から間もなくか。
こちらの態勢が整うのを待っていたのであれば、
期待に応えねばならないな」
一方で、シャルケの様子は、悠然として変わりがない。
司令に任じられた、その時に、帝国のために殉じると心に刻んでいる。
あらためて、覚悟する必要などない。
「敵艦の進路を」
参謀の言葉に応じて、艦橋の中央に展開する戦域の立体俯瞰図に、予想進路を表す線が幾つか引かれる。
「現在の進行速度に基づき算出したものですが、敵艦の詳細が不明であるため、あくまで暫定的なものです」
「そも我らは、未知の外敵と相対するために在る。
情報を制した上で、戦いに臨むことなどあろう筈もない」
参謀の捕捉に言葉を返しながら、予想進路を一瞥し、シャルケは、ため息をついた。
それ自体を否定するつもりはない。
脅威を想定し、備えることは、重要である。
だが、それは、相手次第でもあった。
「ここまでしておいて、迂回はない。
最短距離で向かってくる。
これが私の考えだ」
裏付けは何もない。
だが、シャルケの中で、既に答えは出ていた。
「そう思わせることが狙いである可能性はありませんか?」
参謀の言葉に、シャルケは、口元を緩める。
仮に、そうであれば、相手は、小細工を弄してくる程度の存在ということになる。
それは帝国にとって、この上なく、都合がよい想定であり、
シャルケとしても、そうであって欲しかった。
「そうであれば、なお、問題にならん」
「万全を期すべきでは、ありませんか?」
「尤もな意見ではある。
だが、貴官らは、忘れてはいまいか?」
「と、申しますと?」
参謀たちは、首を傾げる。
シャルケは、深く息を吸い、そして、声を張り上げた。
「傾聴せよ!
一葉の船に、何を臆することがある!
守都艦隊は、偉大なる帝国が擁する最大最強の戦力である。
我らは、その威光を宇宙に掲げるために陣を敷いた。
これは帝国に相対さんとした勇猛への敬意に過ぎない。
我らは、既になすべきをなしている。
他に、何があろうと言うのか?
迎え撃ち、一蹴すれば良いだけのことだ!」
一〇万を超える大艦隊が一隻の船に怯え、軍議を重ねるなど正気ではない。
狂人の相手をする必要などはない。
対応など議論するまでもない。
言葉は、そう告げていた。
確かに、滑稽に過ぎる。
参謀たちは、直面する状況と自身の姿を顧み、冷静さを取り戻していく。
「はっ! 失礼を申しました」
「小官も同意であります」
「帝国に栄光あれ!」
「平穏を脅かす者に鉄槌を!」
鬨の声に湧く艦橋で、シャルケは静かに自嘲する。
まるで知性を欠く愚将の如き言動であった。
だが、そうであったとしても、構わない。
怯えを振り払わなければ、戦いになどならない。
敵は未知。
警戒して然るべきである。
だが、重要なことは、それだけではない。
勇気を以って臨まなければならない時がある。
シャルケは、そう考えていた。
露骨な誘導である。
艦橋にいる士官たちが、気づいていないわけではなかった。
だが、指揮官の意図を汲み、そして、己の心を奮い立たせるために、声を上げた。




