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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
二章「調停者」
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12

 ソウマは、女官に従い、庭園を歩いて行く。

やがて正面には、人工的に象られた水の空間が現れ、その傍らには、白い鳥籠を連想させる洋風の四阿が視えた。

近づくと、鳥籠の中には、クロスが敷かれた一卓のテーブルがあり、その上には、豪奢なティーセットが置かれていた。

テーブルには、既に、車椅子に座る細身の女性と、それに従う屈強な壮年の男性の姿があった。

「お連れしました」

「ご苦労であった」

 女官に告げられると、車椅子に座る女性は、よく通る声で応えた。

そこに病弱さは感じられない。

ソウマへと向き直ると、女性は、

「座したまま失礼する。帝国の特使としてきたアイリスだ」

 アイリスの表情は視えない。ベールが完全に顔を覆い隠している。

だが、女官とは異なり、声には友好的な響きがあった。

「ソウマです。地球の管理者として参りました。会談の機会を設けて頂けたこと感謝に耐えません」

 帝国の女性には、顔を隠す文化があるのかもしれない。

であれば、女官のベールの下を覗こうとしたのは、かなりの非礼であったのかもしれない。

クノスに確かめておくべきだった。

などと詮ないことを考えながら、ソウマは一礼し、帝国語で挨拶をした。

「ほう流麗だな。意思の疎通に不安はないということか」

「優秀な臣民の協力を得て学びました。美しい言語です」

 事実としては、ソラを介した自動翻訳であるが、そういうことにしておいた。

実質は変わりない。

ソウマの耳には、副音声の如くではなく、直接、意味が聞こえている。

「他の文明の者に、帝国の文化を褒められるのはこそばゆいな。いや、嬉しく思う」

「言葉には、それを紡いできた者が歩んできた歴史が現れます。

言葉を学ぶことで、貴国への理解を深めることができればと考えました」

「その心遣いに感謝を言おう。まずは楽にして欲しい。時間もある。ゆるりと話しをしようではないか」

「嬉しいお言葉です」

 そして、地球と帝国、双方がはじめて異なる文明との対話を行う歴史的な会談は、はじまった。

だが、既に、運命は決してた。

帝国の歩みは、その在り方は、言葉で変えられるものではなかった。

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