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ソウマは、女官に従い、庭園を歩いて行く。
やがて正面には、人工的に象られた水の空間が現れ、その傍らには、白い鳥籠を連想させる洋風の四阿が視えた。
近づくと、鳥籠の中には、クロスが敷かれた一卓のテーブルがあり、その上には、豪奢なティーセットが置かれていた。
テーブルには、既に、車椅子に座る細身の女性と、それに従う屈強な壮年の男性の姿があった。
「お連れしました」
「ご苦労であった」
女官に告げられると、車椅子に座る女性は、よく通る声で応えた。
そこに病弱さは感じられない。
ソウマへと向き直ると、女性は、
「座したまま失礼する。帝国の特使としてきたアイリスだ」
アイリスの表情は視えない。ベールが完全に顔を覆い隠している。
だが、女官とは異なり、声には友好的な響きがあった。
「ソウマです。地球の管理者として参りました。会談の機会を設けて頂けたこと感謝に耐えません」
帝国の女性には、顔を隠す文化があるのかもしれない。
であれば、女官のベールの下を覗こうとしたのは、かなりの非礼であったのかもしれない。
クノスに確かめておくべきだった。
などと詮ないことを考えながら、ソウマは一礼し、帝国語で挨拶をした。
「ほう流麗だな。意思の疎通に不安はないということか」
「優秀な臣民の協力を得て学びました。美しい言語です」
事実としては、ソラを介した自動翻訳であるが、そういうことにしておいた。
実質は変わりない。
ソウマの耳には、副音声の如くではなく、直接、意味が聞こえている。
「他の文明の者に、帝国の文化を褒められるのはこそばゆいな。いや、嬉しく思う」
「言葉には、それを紡いできた者が歩んできた歴史が現れます。
言葉を学ぶことで、貴国への理解を深めることができればと考えました」
「その心遣いに感謝を言おう。まずは楽にして欲しい。時間もある。ゆるりと話しをしようではないか」
「嬉しいお言葉です」
そして、地球と帝国、双方がはじめて異なる文明との対話を行う歴史的な会談は、はじまった。
だが、既に、運命は決してた。
帝国の歩みは、その在り方は、言葉で変えられるものではなかった。




