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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
二章「調停者」
29/94

10

 連絡艇は、静かに飛び立つと、緩やかに加速し、地球の重力の存在など、まるで問題にすることもなく、大気圏を突破した。

轟音も、振動もない。

その飛行は、気球が空へと舞い上がっていくかのように、なめらかだった。

「外を観ていなければ、宇宙に上がったことに気づけなかったかもしれません。

地球人類の船では、こうはいきません」

 ソウマは、案内された船室で、ソファに座り、グラスを傾けていた。

注がれた水は、自然な動きで、揺れている。

それは宇宙では不自然なことであり、重力の制御がなされていることの証明であった。

「お褒めに預かり光栄です」

 傍らに、控える女官がソウマに応じる。

三人いた女官はのうち、彼女一人が残り、二人は室外で待機している。

「帝国の船は、どれも、このようなつくりなのでしょうか?」

 ソウマは、室内に視線を配り、確かめるまでもないことを尋ねてみせる。

連絡艇の内装は、高級ヨットを連想させる豪奢なつくりとなっていた。

そう広くはないが、

「いえ、そのようなことはありません。この連絡艇は、母艦と同様に、特別な仕様となっております」

「やはり、そうでしたか、貴国のご好意に感謝します」

 女官は、何も言わず、恭しく頭をさげることで応えた。

だが、ヴェールの奥に透けて視える微笑みは微動だにせず、その瞳は氷の如く冷たい。

心を許すことはしない。

仕えるべき主は唯一人であることを誓っている。

 ソウマとしては、情報収集などをするつもりは、はじめからなかった。

だが、ここまで機械的な対応をされると、寂しくもなった。

 ソウマは、共にいる予定だった者について、考えを巡らせる。

クノスは、扱いやすかった。

いや、扱いやすすぎた。

親しくなりすぎた。

誰かと親しくなれば、それだけ面倒が増えるのと同義である。

異論もあろうが、ソウマはそう定義している。

「過ぎたるは及ばざるが如しか」

「何か?」

「いえ、何でもありません。水を、もう一杯頂けますか?」

「承知しました」

 女官は水差しを取り、ソウマに近づくと、グラスに水を注ぐため身を屈めた。

そこで、ふと、ソウマは、女官のベールに手を伸ばしていた。

が、指先は、虚空へとすり抜けた。

女官は、優雅な体捌きで躱していた。

「お戯れを」

「好奇心を抑えられませんでした」

 一瞬、ベールの奥の能面が、軽蔑と侮蔑に歪んだように視えた。

ソウマは、感情のある表情に、悠然と微笑みを返した。

「あまり狼藉を働くべきではないと具申します」

 ソウマの頭に、ソラの言葉が響く。

ソウマとソラのリンクは変わらずに維持されている。

地球であっても宇宙だっても関係なく繋がり、意思疎通、情報伝達が可能である。

「お行儀がよいだけのつまらない存在と侮られているより、

手癖の悪い蛮人として警戒されておいた方が都合がいい」

 何もできないのと、何もしないのとでは、大きく意味が違う。

それを示す狙いが、ソウマにはあった。

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