捌話 何でこうもついてないの。……まあ、初めからか
浜辺の遭遇から嫌な予感を感じた白零。
やや急ぎ気味で里へ向かうが……
あのあと俺達は急ぎ足で風精族の里へと向かった。
森ばっかだけど道はあるから大丈夫だ。
浜辺から一日経過しつつ着々と進んだ俺達。
しかし、その道中、
「…!? 零ちゃん! 隠れて!」
「え!?」
突然千代は俺を引き寄せて近くの木の陰に隠れた。
俺は千代の視線を追ってそこを見た。
そこには、武装をした三匹の蜥蜴男がいた。
「…! あれは……!」
「うん、火蛇族さん達だね」
なんでここに……! ってか蜥蜴人間?
何か話しているが遠くて聞こえない。
「もう少し近づいてみるか……?」
「ちょっと待って。これを使えば……」
「ん?」
すると千代は袖の中から何かを取り出したのだが……
「なんだそれ?」
それは拳銃の形をしたもので、先端にマイクがついていて、上に妙な装置が付いていた。
「零ちゃん。これは集音まいくって言ってね、これで遠くの音を拾う事が出来るの」
「もう何で持ってるかは突っ込まないがやってみよう」
ずいぶん変わったマイクだなこれ。
千代は慣れた手つきでマイクを起動し、蜥蜴男達に向けた。
すると、
『……い、どうな…んだ』
『ああ、それが…のようで……』
おお! 聞こえてきたぞ。
「もうちょっと感度を上げるね」
千代はマイクをいじりもう一度、火蛇族へ向けた。
今度ははっきりと聞こえた。
その内容は……
『おい! 準備はできたのか?』
『はい! 七割方、終わりました。完了は明日かと』
『もうすぐか……よし! 最後の準備へ戻れ! 実行は明日とする!』
『はい!』
スタタタタタ……
『くくく。もうすぐだ。もうすぐで風精族の領地に奇襲できる』
『ああ。あの人間どもはよくやってくれたよ。』
『まったくだ。国境を警備してた風精族を連絡係ごと全滅させるのだから』
『ああ! おかげで同盟の水妖族は気づいていない』
『その上、領地の者共も気づいていない』
『奇襲するチャンスは今しかないってことだ』
『そうだな!』
『『はっはっはっはっは!』』
『これで功績を取ればサンティアゴ将軍に……』
『あ、そういえば』
『なんだ突然?』
『水妖族の里を監視をしてた隊から連絡が来たのだが……』
『なに? いつからだ』
『ついさっき通達蜥蜴が来た』
『内容は?』
『水妖族の里から人間の子供が二名出てきた、と。捕らえようとしたが逃げられてしまった。だそうだ』
『ち! あいつらは真面目にやる気があるのか!』
『と、いう事は……』
『ああ、“迷い子”だな。しかし、水妖族の頭は無闇に“迷い子”を外に出したりはしないはずだが……』
『おそらくこっそりと逃げたんでしょう。しょせん人間の子供だから放っといてもいいだろう』
『ああ。水妖族はどうなんだ?』
『そっちはまだ動いてはいないそうだ』
『なら引き続き警戒しておくよう言っとけ』
『わかった』
『あ、そろそろだ。本部に戻るぞ』
『ああ』
所々よくわからないところがあったがつまり纏めるとこうなる。
・火蛇族は領地を襲う準備をしている。(その領地に密入国)
・国境警備隊は全滅(人間の協力者がいる?)
・連絡係もやられたため、同盟の水妖族は知らない。(たぶん風精族も知らない。
・水妖族云々はたぶん浜辺であった者たちの事だろう。(っつか通達蜥蜴ってなんだよ。伝書鳩みたいなものか?)
・決行は明日
と、こんなところだな。
と、なると……
「零ちゃん」
「ああ、わかってる」
やることは一つだ。
「風精族の者たちを護らなきゃあな」
決して“月の口”の事だけじゃあない。
罪もない者を理不尽な暴力から護る。
それが俺達、用心棒だ!
「でも、勝てるの?」
「……………」
「だって、相手は未知数だよ。」
「……………」
……………
そうだな。世界は広い。
先ほどのセリフからして、浜辺の奴らは下っ端っぽいし。
将軍とか強そうだし。
せめて状況さえわかれば……
その時だ、
「待ちやがれ!! クソガキ――――――――――!!」
「「!?」」
集音マイクを使わなくても聞こえるほど大きい声が響いた。
森から外れた平原の所から聞こえた。
声のした方へ見てみると……
「ん……?」
森の民っぽい服装で背中に羽が付いた栗色の髪の女の子が先ほど叫んでいた蜥蜴男から逃げていた。
おそらく風精族であろう、まだ俺達より少し年下感じな少女は必死な状態で逃げていた。
……ってか
「こっちに向かってきてね?」
「うん。こっちへ逃げてるね」
い、いかん! このままだとバレ……
「待ちやがれ! 俺達がここいいることがばれた以上、生かして帰さん!!」
「誰かー! 誰か助けてください!!」
……てもいいか。
緊急事態だ!
「俺は行く! 千代、あれを!」
「うん、あれだね」
俺があれと言って、千代が渡したのは、
「周波数はあらかじめ設定してあるから」
そう、携帯用無線通話機であった。
千代はそれを俺と千代とで二つ持っているのだ。
千代の母親は本当にわからん。
「後で指示出すから援護頼む!」
「うん。わかった」
俺は女の子の方へ向かって駆け出した。
「捕まえた! おとなしくしてろ!」
「嫌ッ! 嫌アアアアァァァァ!」
やらせない!
「うおりゃあ!」
「ぐほぁ!」
俺は思いっきり蜥蜴男に飛び膝蹴りをかました。
ってか肌硬っ! 俺の膝が砕けちゃうよ!
だがそれにより、女の子が蜥蜴男の手から離れた。
「……おい! 俺の後ろへ隠れろ!」
「あ、ありがとうござ……なっ! に、人間!? なんで……」
「いいから早く! 説明は後だ」
「でもあんた、膝が…」
「いいから!」
「あ、ああ!」
女の子は俺の後ろに退避した。
俺は女の子を追っていた蜥蜴男を睨み付けた。
「ぐ……、なんだ手前は。人間風情が邪魔してんじゃねーぞ!!」
「悪いが、思いっきり邪魔させてもらう」
さて、この蜥蜴男をシバけば……
「おい! 何があった!」
「人間だと!? “迷い子”かこいつ!」
「ああ、こいつらに我々の事が知られたかもしれん!」
「なら口封じだ!」
あれ? 増援来ちゃったよ?
しかも浜辺より強そうだし。
まあ、先ほど話してた奴はいないが。
「はあ……」
連続で同じ敵とじゃあくたびれるって。
だが……
「こっちにも事情があるんでね!!」
護るとするぞ!
俺は背中から刀を鞘ごと抜き取り、抜刀して蜥蜴男たちへと向かった。