表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/91

伍捌話 再会なのに、なぜこんなにも喜べない……

 がるしゃーどくん……あの人と楽しかったことは長くは続かなくなったの。


 あの人がわたしたちを護るばかりに今度はあの人までもが攻撃の対象になったの。


 ただでさえ目立つ容姿だから、あの人……


 このままだとあの人はもっとひどい目に遭う。


 現に、あの人はわたしたちを護るためにケンカなんかして、傷まで追っているの。


 傷がつかない日はない。酷い時は骨折寸前まで追いやられた時があった。


 わたしのせいで……


 わたし原因であることに違いがないの。


 ひっく!


 頭が……くらくらする……


 えっと、どこまで話したっけ……


 あ、そうそう。そんなあるとき、あの人がいない時を狙われてわたしたちはひどいことをされたの。


 正確にはあのこだったけど、それが原因であのこはいなくなった。


 いなくなった? 出てこなくなった?


 どっちでもいいけど、もしこのことをあの人が知ったら、絶対にあの人は謝る。辛い気持ちで謝ると思うの。


 そのときわたしはあることを思いついたの。


 案の定、傷ついたわたしのもとに駆けつけて、呆然とした顔のあの人に、わたしは拒絶をしたの。


 もう護らなくていい。護るために傷つかなくていい。


 あの人を護るためにわたしは突き放したの。


『護るなら最後まで護れ』ってひどいことを言って、それでおしまいにしようと思ったの。


 酷い女と思われるかもしれない。でもそれでいい。


 あの人はわたしたちに関わるべきじゃなかった。わたしたちのせいで傷つく必要はなかった。


 ……学校にも行かなくなった。


 あのこなしにわたしひとりで生きようとした。


 でも、あれからずいぶん経って、わたしは衝撃を受けたわ。


 だってあの人は……あの人は……


 ……用心棒になっていたの。


 金で遣わされ、依頼人を護る。損な用心棒に……


 わたしは……ショックを受けた。


 わたしの一言のせいであの人はこのまま平凡に戻るどころか、逆に……!


 わたしはもう……護るためにあの人に傷ついてほしくないのに!


 でも……もう遅い。


 向かい合った以上、戦うしかない。


 もうあの人の所へは戻れない。戻るつもりなんかない。


 だから戦うの……


 どれだけ対立しても、殺し合うようなことになっても、もうあの人の所に戻りなくないから……


 ……話を……聴いてくれて、ありがとう。


 なんでだろうね……これを飲んだら不思議な気分に……


 ……眠いよ、がるしゃーどくん。


 目の前が、どんどん暗くなっていく……


 あ、そうだ。最後に聞いてくれないかしら。


 わたしは……



          2



 目の前の気の弱い少女は、俺を見つめたまま視線を離さずにただ俯いている。

 俺に向けられているのは言葉だけだ。


「白零君? 本当にあなた、白零君なの?」

「……そう言うお前は、間違いなく昼江なんだな」


 俺は……静かに昼江のそばまで近寄る。

 昼江は怯えているけど、離れないでくれる。


 近付いた俺はうずくまる昼江の前でしゃがみ、怖がる昼江から視線を外さずに、俺は真っ直ぐ見つめたまま話す。


「……俺は、ずっと勘違いを……いいや、欺かれていた」


 こいつがこんなに弱々しい姿をしているのは初めて見る。

 けど、やっぱりこいつは昼江なんだな。


「お前をずっと昼江と思っていたあいつは…………」


 ガルシャードから話を聴いたときは半信半疑で、確信を持てなかった。

 けど、あいつと本気で戦った時、だんだんと確信を持てるようになった。

 あいつが感情を交えて叫んだ時が、一番の確信時だった。


「……浮空うきそらよる。あいつがお前に成りすましていたんだ」


 今思っても、不思議な話だ。


 いじめには簡単に屈しない明るい昼江。

 それに対して気が弱くていつも俺に対して申し訳がなさそうに思っていた気弱な夜。


 あの日、いなくなってしまったのは夜だと思っていた。

 しかし…………本当は違った。


「俺を叱ったのも、俺と対立したのも、悪意を許さないのはずっと…………夜のほうだった」


 ……あいつらはいつも俺に、自分どっち昼江と夜(どっちだ)って俺を試していた。

 いつもはなんとなく当てていたが……


「まいったな、ずっと俺はあいつを昼江と勘違いしていた。随分と本気を出した入れ替わりだな」

「……違うよ、白零君。夜は本気で、あたしになるつもりだったの」


 昼江が……

 震えが収まりつつも、視線を合わせないまま話をしてくる。


「夜もあたしもずっとずっと弱いから、誰かに依存を……あなたに会うまではお互いによりかかって生きていたの」


 それは……知らなかったことだ。

 俺は昼江と夜に会う前の過去は知らない。

 けど、そういうのは大体、察せられた。


「あの時あたしは白零君を、夜はまだ白零君には遠慮していたからあたしのほうによりかかって、それが心地いいって思えていた。けど……」


 思い出すのは痛々しかったあの事。

 俺があいつらの男たちに呼び出されて取り押さえられた時に、俺がいない時を狙って夜を……いいや、昼江をなぶったあの時の事。


「白零君。夜はね、あたしが死んだことが信じられなくて、あたしに死んでほしくなくて、だから夜はあたしになったの」


 あの時夜は『あなたのせいで夜は……』と言った。

 あの時から夜は、いなくなった昼江に変わって自分が昼江になり、夜を……殺した。

 自分の存在を殺してまで、依存する相手を死なせたくなかった。


「夜ったら、いきなりあたしの事を真似たのかと思うと今度は自分を昼江にして夜を死んだことに……ううん、多分死んじゃったの。もう夜は元に戻れないくらい壊れてしまった」

「…………」


 夜は……無理をしてあいつになって、そのくせ憤る時は夜の片鱗みたいなのが出て、それでいてより悪意に憎悪を持つようになって……


「夜は死んだんじゃない。変わってしまったんだ」

「白零君……」


 ……こんなことになったのは、俺のせいだ。


「なあ、夜が独りになってしまった時、俺はあいつ等に仕返しをした」

「え……白零君? なにをいきなり……」


 俺は、昼江と夜……その片方を“殺した”あいつらを憎んだ。実際にあの時の俺は本気で怒り狂っては、すぐさまあいつらを追いかけて、容赦なく報復しようとした。

 そのために半ば確信して問い詰めた。

 しかし……


 ―――――白零! そんな、なんでお前がここに……!

 ―――――ちょっと待って! まだあの変態女のことかばうの!?

 ―――――また変態のことを…………!


 怒りの形相の俺を恐れて必死に言い訳するあいつらに腹がたった。

 しかも言い訳にししろまだ昼江と夜を変態と呼ぶあいつらに虫唾が走った。

 挙げ句の果てにはそれらを全部昼江と夜のせいにするあいつらにはらわたが煮えくり返った。


 ―――――全部あの変態女が悪いのよ! 異常で気持ち悪い変態のくせに、調子に乗って出しゃばるから……


 言葉は最後まで聞かなかった。

 俺は生まれて初めて、誰の為でもないただ自分だけの為に本気で人を殴った。

 それも…………女をだ。


 ―――――いったい! なにをするの白零!


 もう、悪事の言い訳は聞きたくなかった。

 一発から二発、二発から三発、次々と容赦なく人を殴り続けた。


 ―――――ちょっと! 痛い痛い痛い!


 柄にもなく本気で人を傷つけた時だった。

 始めは殴り、だんだん蹴りも加わり、最後には締め、そして思い出すのも嫌な罵詈雑言を浴びせながら、昼江と夜を傷つけたあいつらに、同じ痛みを思い知らせようとした。


 ―――――やめて! なんで私がこんなことされなきゃいけないのよ!

 ―――――…………!


 他人を容赦なく傷つけておきながら、自分になると急に謝り出すあいつらを、なおのこと心の底から嫌悪した。


 しかし、どれだけ殴り続けただろうか。

 ふと、突然冷静になって気がついて見れば、俺の前には全身を汚し、傷だらけの女たちが、顔面が崩壊するくらい泣きじゃくりながらひたすら謝っていた。


 ―――――ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……

 ―――――………………。


 虚無感と言うべきだろうか、一気に俺の中から何かがなくなった感じがした。


 ―――――白零、ごめんなさい……!

 ―――――!


 けど、その一言が余計で俺は再び腹が立って…………


 ―――――なんで俺に謝っているんだ…………!

 ―――――え?


 そして気がつけばまた拳を振り上げて……


 ―――――なんで昼江に……夜に……あいつらには謝らないんだ!!


 叫びながら思いっ切り顔面を殴った。


 ―――――痛い……よ…………

 ―――――………………。


 ……ちっとも心の中が晴れない。

 それどころか、今自分がしていることの無意味さを実感させられた。

 こんなことをしてもいなくなったあいつが戻って来るわけがない。


 夜であれ、昼江であれ、自分の半身がいなくなったことに絶望してしまった。

 そんなあいつに俺は、手を差し出すことが怖くてできなかった。


「お前らがあいつらにひどい目に遭わされてあいつが消えてしまった時、俺は復讐という意味で本気であいつらを傷つけた」


 だから俺はそんなどうしようもない感情をあいつらにぶちまけた。

 怒りを、憎しみを、ただただ言葉と暴力にのせてあいつらを傷つけるばかりだった。

 でも、後悔した。


「けど、本当はそんなことをしている場合じゃなかった。気づいたのはかなり後だが……」

「え?」


 あの時、俺がすることはそんなことじゃなかっただろ。


「あの時俺は、すぐにでもお前らの所に行って……謝るべきだった」


 俺が一番失敗したことは、二人を護れなかったことじゃない。

 泣きながら走り去ったあいつを、何もできずに放ってしまったことだ。


「傷ついたお前らのもとに駆けつけて、すぐに言葉をかけるべきだった。たとえ聞いていなくても、なんか言っておくべきだった」


 しかしそれを俺はしなかった。


 あいつらに暴力的な復讐をしてしまった。

 親父に泣きながら殴られて説教された

 後悔ばかりでグズグズしてしまった。


 だから今、夜は殺し屋に、昼江はこんな状況で目の前にいる。


「……は、はは」


 別にあの後追いかけて謝ろうが何をしようが、同じ結果になったかもしれない。

 なんの意味もなかったかもしれないし、余計な事をして悪化させてしまうかもしれない。

 けど、護れなかったことに加えて、謝ることもできなかったのが何よりも辛かった。


 あの時の俺は……昼江と夜、二人のことを本気で諦めていた。

 だったらこんな形で対立するのも、必然だったんだろう。


 ……本当に、バカだ。


「なあ、たとえお前の言うことが正しくて、俺のしていることが無意味に見えようが……」


 昼江……お前にはこんなところに引きこもってはほしくない。

 なあ夜……もうお前が血とか浴びて汚れていくのを、見たくない。


「独善でも偽善でもなんと言われようが……」


 だから何度も言う。

 立場が違っても、何度対立しても、変わらない。


「俺はお前らに、戻ってきてほしい」


 夜は殺し屋から、お前はこんな暗い心の奥底から、どうかこっちへ戻ってきてほしい。


「もうあれから四年も経ったけど、またお前と一緒に友達として、話をしたい。遊びたい。楽しいことだってしたい!」


 殺し屋という立場に立った夜は、もうそういった日常からほど遠くなっている。

 けど事実はいい。まずは俺の願いを聞いてほしい。


「だからお願いだ。戻ってきてくれ。夜だけじゃない。お前にも戻ってきてほしい!」


 俺の願いは、夜を殺し屋からやめさせること。

 けど、その先……本当はお前らもまた四年前のような日々を過ごしたいから。


 また三人……いや、千代にラネット、新しい友達も交えてさ…………


「…………自分勝手で我が儘な白零君。本当に、どうしてわたしなんかにそんなに執着するのかな……」

「!」


 この時、昼江はようやく俯いた顔を上げて俺と目を合わせた。

 もう涙なんか流していない。弱々しさもほとんどない、少し晴れたようなとてもきれいな表情だ。


「わたしが引きこもって、夜がわたしになって、殺し屋になっちゃって、たくさんの人を殺して、さっきの騒動のようなことになって…………」


 昼江はこれまでの夜の動向と俺の動向を知っているのだろうか。

 わからない。全部なのか断片的なのか、わからない。


「なあんだ。結局理由はシンプルだったんだ」


 少しだけ声の調子に明るさが戻ってきている。

 どこか安堵したように幽かに笑い、しかしまだ諦めの色が残っていた。


「でも無理だよ、白零君。たとえあたしが戻ってきても、夜はもう元に戻れないかもしれない。だって、もう取り返しのつかないくらい歪に変えられてしまっちゃったんだから」

「…………」


 その事実に目を背いてはいけない。

 ならばどうするべきなのだろうか。

 実はたった今、その場しのぎかもしれないが夜を殺し屋から何とかする方法がある。


 さすがにそれを昼江にいう事はできないが……


「……………………!?」


 っ! なんだ!?

 俺の体が…………!


「白零君!? 体が透けていく…………!」

「ちくしょう……時間切れが近いってことか……!」


 こんな時に……空気読めよ何か……!

 思念と思念の対話シーンってのは満足いくまで話し合う事じゃないのか……!?


 ちくしょう……!


「白零君、これだけは訊かせて!」

「!」


 昼江がここ一番に、よく通ったハッキリとした声で俺に訊いてきた。


「白零君。あなたにとって、あたし達はなんなの? どうして用心棒になってまであたし達を追うの? 答えて!」


 昼江…………

 そう、だな……これだ……けは言って、おかなくちゃ…………向こうにとっては…………割に合わないよな…………

 けど、そんなの……決まっている…………


「俺の……大切、で……大事な…………」


 初め……て、の…………友…………達、だ……………………


「白零君!」


 く、そ…………まだ満足に、はな……せ……ない…………の、に………………



          3



 ああ、まだ満足に何も話せていない……

 そもそも俺は生きているのかどうかも分からないんだ。

 ……だけど、本当の昼江は生きていた。昼江と思っていたあいつは夜で、依存する相手に成りすましてそれで空いた心を埋めようとした。

 ……まだ安心できない。それどころか問題は浮上するばかり。

 殺し屋云々も重大だけど、あいつ自身の精神も無視できないほどになっている。

 だったら俺はあいつになにができる? 昼江が生きていることを夜は多分知らない。

 それどころか、夜は死んで自分は昼江だと妄執するばかりだ。

 ならば俺は……………………まず。生き残ろう。

 この状況がよくわからないんだけど、自分は生き残っていると信じよう。

 次に目を開けた時が現実なら、俺はなにをする?

 その時昼江は生きているか? レイラさんやガルシャードはまだ……

 ためだ。待ちきれない……

 早く……早く目を……覚ましてくれ…………!

突然ですが、次回は十月に入るまで不定期更新となります。

誠に申し訳ありません。しばらくこちらが安定するまでしばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ