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肆肆話 拘束はもう勘弁してくれ……

 ……居心地が悪い。


 番人から警備兵らしきものに引き渡されてしまい、現在進行形でどこかへ連行されている俺たちは、町中の視線を浴びながら、歩き続けられている。

 俺たちの手首には、蛇みたいな模様の奇妙な縄に縛られ、前から警備兵、俺、ガルシャード、レイラさんの順番で歩かされているため、逃げることはできない。


 レイラさんやガルシャードは特に気にしていないようだし、俺だって特に気にすることじゃないが……

 やっぱり、こうも見せ物みたいにされるのはいい気分じゃないな。

 しかし、俺たちを運んでいる警備兵はたった一人で俺たちの前方を歩いている。

 もちろん、俺たちの両腕を縛り付けているロープを持っているんだが、ちょっと無防備じゃないか?

 と、頭のなかでどうでも良さそうなことを考えながらただ歩き続けているている俺たちなんだが……


「…………?」


 …………あれ?

 今さっき、周りの火蛇族サラマンドラたちの視線の中で、一際妙な視線を感じたような……

 気のせいか?


「(どうしたでありますか、ハクレイさん?)」

「(いや、なんでもない。気にしないでくれ)」


 まあいいか、こんな状況の中でいちいち違う視線なんか感じてられるか。


「(……もう少しです。もう少ししたら説明するでありますから、待ってくださいであります)」

「(わかった。いつまでも待っている)」


 変に心配されちまったな。

 そりゃ、この状況は結構緊迫するし、なにを考えているのかわからないが、うまく行くかどうかとか思っているのだろう。

 そうこう考えているうちに、大通りをしばらく歩き続けると、なにやら大通りの先に登り坂のようなもののがある。

 さらにその登り坂の先に、なにやら大きな門みたいなものが立ちふさがっている。

 町中なのに、なんなんだあの大きな門は?


「(あれが、下層部と中層部の境界に建つ大門であります。中層部の住人は自由に通れますが、下層部の住人は通ることすらできないのであります)」

「(……徹底してやがるな。ここまでくると恐怖を感じる)」


 ……しかし、俺たちはその大門をくぐり抜けるんだろうな。

 そして、火蛇族サラマンドラの軍の元へ……


「ちょっとガルシャード! お前、いったいどうしたのよ!!」

「!」


 今のは……

 突然、横からガルシャード指名で、女性の声らしきものが聞こえ、俺はついそっちへ視線を向けた。

 そこには、集まる野次馬に紛れて、蛇人サーペンターの女性が、俺の後ろにいるガルシャードに向かって、声を荒げている。

 ガルシャードの関係者か?

 それにしては、後ろをちらりと見るが、ガルシャードはまったく声の主の方には目を向けない。

 しかし、そんなこと構わない位、蛇人サーペンターの女性は叫び続けている。


「どうして! どうしてこっちを見てくれないのよ! なにか一言言いなさいよ! なんで軍に連れて行かれているのよ! ねぇ、答えて!!」

「おい、うるさいぞ!! すっこんでろ!!」

「余計なことをして、軍を怒らせるな!!」

「いや! ガルシャード! ガルシャード!!」


 しかし、叫びは届かないばかりか、周りの野次馬が鬱陶しそうに、その女性を後ろへと押しのけた。

 悲痛そうに叫びながら、後ろへと押しのけられていく。

 いったい、今のは……


「(すみません……)」

「…………」


 ガルシャード……

 まさか、さっきの蛇人サーペンターはがお前が言っていたあの……

 しかし、さっきの独り言を言ったきりで、以降は何も言ってこない。

 後ろで、ガルシャードがどんな様子になっているのか振り向く気もあったが、俺にはそんなことできなかった。

 ……心配することはたくさんある。

 だけど今は、素直にこの警備兵に連れられることだ。


 目の前に大門が迫る。


「おい、俺だ。開けろ! 侵入者と裏切り者を捕らえた! こいつらを中層部の第14地区に連れて行く!」

「あ、はい!」

「…………」


 さて、向こうはいったいどんなところなのか……



          2



 と、いうわけで門をくぐった先にある、なにやら一気に要塞っぽい街並みになったところを歩き続け、その先にある、仰々しい収容施設っぽいところにたどり着いた俺たち。


「おい! こいつらを入れろ! 侵入者だ!!」

「なに? ……人間に、水妖族オンディーヌだあ?」

「そうだ。入れろ!」


 とまあ、そんなやり取りもあり、取り調べを後に控えた俺たちはひとまず……


 ガシャン!!


「……またこれか」

「問答無用だな」


 まさか、また俺たちが地下の牢屋に入らされる羽目になるとは……

 俺、レイラさん、ガルシャードは、ご丁寧に鎖付き手枷を嵌められた状態で一つの大きな雑居房に入られてしまった。

 全く身動き出来ねえ……!


「取り調べはまた後でやる。それまで大人しくしてろ」

「くっ…………!」


 なんとかもがこうと体を動かすが、手かせがあまりにも硬すぎる。全くビクともしない。


「ふざけんなよ! まだ何の事情も訊いてないくせにまずは牢屋って横暴すぎるだろ!! 脱獄するぞおい!」

「ふん。威勢がいいな。そう言ってられるのも今の内だ」


 警備兵っぽい奴は、憤る俺を特に不快に思わずニヤリと嫌な笑みで見た後、この部屋を出てしまった。

 ここには俺たちのみ、取り残された。

 ……いや、俺たちだけか?

 ならば…………


「……まったく…………なんでこうも面倒くさいことに…………なっちまうんだよぉ――――――――――!!」

「! ハクレイさん!?」

「白零殿……」

「…………はぁ」


 ガルシャードもレイラさんも心配そうに俺を見ている。

 こんな理不尽な状況、叫ばずにはいられないだろ。


 とまあ、腹を立てるのはとにかく、思い切って大声を出して叫んでみたが、しかしなんの反応もしない。

 他に誰かいそうな気配はしないし、俺たち以外に誰もいないことは確定か。


「(……なあ、ガルシャード。そろそろ喋っていいか?)」

「(はい。構いませんであります)」

「(そうか……)」


 誰かに聞かれるかもしれないという問題もあるが、どうやらガルシャードにとっては問題はなさそうだ。

 レイラさんも、ジェスチャーで大丈夫そうな様子だし。


「……はぁ~。いったいなんなんだよこの状況は」

「……ハクレイさん。申し訳ないであります」

「別にガルシャードの事を責めているわけじゃない」


 まったくもって……なんなんだよこの里の兵士の連中は。

 ただ、里の近くの崖をうろついただけでこの扱いかよ。うろついてないけど。

 しかも、ガルシャードが脱走兵と言うのも酷いが、俺やレイラさんに至っては完全に種族で判断したよな。

 まったく……


「しかし……ここまでは完全に、予想通りと言うべきであります」

「…………予想通り、ね」

「ほう、ここまで予想の内か。ガルシャード殿」

「おいおい……どういうことだよこの状況」


 そりゃあ確かに、なにも文句を言わずについて行ったわけだから、こういうことになるのは予想していたのは分かるが……

 いったい、それがなんだってこんなことに?

 さすがにこの状況では訊かずにはいられない。


 レイラさんが、目線で暗に俺に先を譲るらしいので、俺はそろそろガルシャードにどういうつもりなのかを訊いた。


「ガルシャード。お前はいったい何を狙っていてこんな状況に持ち込んだんだ?」

「……そうでありますね。そろそろハクレイさんやレイラさんには教えなければいけないのでありますね」


 さすがにこれ以上は黙ったままではいられないだろう。

 ガルシャードは、深呼吸を一度して、その後にいったい何を考えているのか話出す。


「自分たちがわざと番人に捕まり、里の中を歩かされ、そしてここまでに至った理由。それは……」


 それは……?

 いつになく真剣な声でガルシャードは答える。


「難なく火蛇族サラマンドラの中層部に入るためでありますよ」

「……なに?」


 難なく入れたって……

 今捕まっているじゃん。どういうこと?


「自分たちの目的地である火蛇族サラマンドラの里でありますが……正直、番人に見つかることなく潜入することはできないのであります」

「なに?」


 番人に見つからずに潜入することは無理……

 そりゃあ、空飛ぶ竜に跨って徘徊しているんだから、見つからずにこっそり潜入することなど難しそうだし……

 それに入り口は一か所しかないから、そこを厳重にされたら潜入なんてできなさそうだ。

 裏口を探そうとしてマグマにドボンなんてお断りだぜ。


 俺一人で深く考える間、ガルシャードの話は続く。


「それだけではありません。番人が優秀なのはもちろんでありますが、下層部から中層部へ、または中層部から上層部へ続く道は警備が厳重なのであります。それ以前に下層部の下町の住人に全く気付かれることなく潜伏することも、不可能なのであります」

「少し待たれよ。ガルシャード殿」


 すると、ここで疑問が浮上したかレイラさんが一旦話を止めて質問に入る。

 まだ、なにか理解ができないところがありそうだ。


「なんでありますか、レイラ殿」

「要するにガルシャード殿は、里の番人や警備兵に見るかることなく、里の奥まで進むことができないと言ったな」

「そうであります。もしも戦闘という事になれば自分たちはただでは済まないのであります。それどころか、下町で戦うことになれば最悪であります。警備兵とはいっても、あくまで里上層部の防衛が目的であり、そのために下町がどうなろうと、被害が少しなら構わないと言う考えが大半であります」

「なるほど……確かに、侵入に成功はしたものの、見つかってしまうのは厄介なことになるのは分かった。しかし……」


 レイラさんは、己の両手に嵌められた手枷を掲げ、そして周りを見渡しながら言う。


「わざと捕まることで、火蛇族サラマンドラの里に潜入することはわかった。しかしこの状況をどう切り抜けると言うのだ」

「それは……」


 レイラさんからの厳しい意見に、ガルシャードが言葉に詰まる。

 そうだ確かに、今の俺たちは身動きができない状況だ。

 けど……


「それはレイラさんが精霊術をつかって何とかするのは……」

「それは不可能だ白零殿。私たちを拘束する枷をよく見よ」

「枷?」


 レイラさんの言うとおり、俺は両手首に嵌められた枷を見てみると……


「……ん? レイラさんとガルシャードの手枷に、なんか赤い宝石みたいなのが付いてないか?」


 なんか、手枷の中間点の、右手首と左手首の間になにか赤い輝きを放つ、宝石のようなきれいな石がはめ込まれている。

 それも、ひとつの枷に二つもはめ込まれている。無駄に豪勢な枷だな……


 そう疑問に思っていると、ガルシャードがこの謎の石について説明した。

 

「……これは熱凝石と呼ばれるもので、石の中に火蛇族サラマンドラの精霊術を封じ込めることができる代物であります」

「精霊術を……封じ込める物?」


 ……ただの石じゃないのか?


「そうであります。精霊術を封じ込めることによって、一つ消費するごとに封じた精霊術を発動することができるのであります。他にも制限時間が付きますが、常に術を発動し続けることも可能であります。この枷の場合は後者であります」


 なるほど。つまりはインスタント精霊術って訳か。

 幻界って、物質まで奇妙なものが存在するんだな。


「この枷に着けられた熱凝石には【熱感知カローペルセシオン】の精霊術と、【爆発エクスプロシオン】の精霊術が封じられているのであります」

「……聞くからに嫌な予感がするが、詳しくは?」

「前者は術の発動中に、常に枷に嵌めた人物の体温を感知し続ける術であります。もしも、術の発動中……つまり看守などの許しなしに枷が外されてしまえば、体温は感知されないものとされ、もう一つの石に封じた術が発動するのであります」


 ちらっと俺は枷に付けられた、二つの熱凝石を見る。

 見た目は……形も色も、同じ石にしか見えない。

 しかし……


「ガルシャード。体温が感知されないと、もう一つの石が……どうなるの?」

「それはもちろん……」


 嫌な予感しかしないが……


「爆発するであります」

「……規模は?」

「この雑居房一つが吹き飛ぶくらいであります。しかも爆発は一点に集中して発動するためでありますので、隣の房には被害が及ばないよう、巧妙に術が施されているのであります」

「……おいおい」


 なんて迷惑な術だ。

 しかも、他の人を巻き添えにするようになっているじゃないか。


「この雑居房にある手枷全てに熱凝石がはめ込まれているのであります。そのせいで、もしも同じ房で自分以外の誰かが脱獄をしようとこの枷を外そうとするのなら……」

「……失敗した時の爆発に巻き込まれることを恐れて、同じ房の誰かが止めに入る、と?」

「そう言う事であります。ちなみに無理やり石を外そうとしても同じことが起きるのであります」


 なるほど……逃げようものなら、連帯責任でみんな爆発しろということか。

 そうすることによって、脱獄する気力を失わせる。

 お互いがお互いを監視させようとするわけか。


「その上、【熱感知カローペルセシオン】の熱凝石は精霊術を感知するであります。もしこのままレイラさんが精霊術を使っても同じことが起きるのであります」

「……ますます厄介だな」

「だとするならガルシャード殿。なおの事この牢を脱することはできないではないのか?」

「いえ、ここを出るチャンスはまだあります」


 しかし、ガルシャードは弱る様子はなく毅然とした態度を崩さない。

 ガルシャードは両手に嵌められた枷を前に出しながら言う。


「この二つの熱凝石は、監視の目が無かろうと常に拘束し続けることが可能なのでありますが、ひとつだけ欠点があります」

「欠点……」


 そうは言っても、精霊術に関してはあまり詳しくはないが…………

 すると、先にレイラさんが気付いたのか、この熱凝石の欠点を指摘する。


「常に発動し続けている、感知の方の石の効果時間か」

「そう言う事であります」

「!」


 そうか……この熱凝石には限度があるのか

 無限大に術を発動し続けるわけじゃあないのか。


「この【熱感知カローペルセシオン】の術が施された熱凝石には、効果時間に限度があります。最大でもたった二日間しか保ちませんし、効果がなくなるとたとえ無理矢理枷を外しても爆発はしないのであります」


 なるほどね……

 いや、ちょっと待てよ。


「だったら感知の方の石を、もっと増やしてつければいいんじゃないか?」

「いいえ、枷の構造上、それにコスト上の問題もあって、どうしても熱凝石は二つしか取り付けられないのであります。その為、一度効果が切れた熱凝石は、再度精霊術を籠めない限り、動かすことはできないのであります」

「ということは……」


 その間、この枷はただの枷になるという事なのか。


「しかし、たとえ枷を外すことができても次にはこの鉄格子を抜けるかどうかが問題であります。なぜならこの格子にもたくさんの熱凝石が嵌められているのであります」

「なに!?」


 ガルシャードに言われて、俺は縦横のマスみたいな鉄格子を観察してみる。

 確かに……建枠と横枠が交差するところに、ひとつひとつ石がはめ込まれている……


「術が切れた熱凝石に、再度術を籠めるのにいちいち枷を外すことはしないのであります。看守自らがわざわざ牢の中に入り、術を施すのであります」

「なるほど。しかしガルシャード殿。それでは結局、感知の機能がなくなるわけであり、枷を外せるかどうかが疑問では?」

「それは問題ないであります」


 こいつ……いろいろと問題点があるってのに、なんでこんなにスラスラを対策を立てているんだ?

 どう考えても、ここの拘置所の構造に詳しいとしか思えない。

 もしかしてこいつ……


「自分、この枷を三人分しっかりと外せる方法があります」

「それは、なんだ?」

「それは……」


 と、ガルシャードが次に口を開く瞬間、


「おい! 大人しくしているかお前ら」

「!」


 その時、牢の外の出口から看守らしき蜥蜴人リザードマンが現れ、俺たちの牢の目の前で立ち止まった。

 こいつ……空気読めよ。


「聴取の準備ができた。まずはそこの迷い子から話を訊こうじゃないか」

「「!」」

「え、俺?」


 しかしなぜか看守は、俺を指名して連行するように言いだした。

 え? まずは俺?


「ちょっと待て。ガルシャードよりもまず先に俺なのか? いったいどういう事だ」

「余計な口をきくな。貴様はただ黙ってついて行けばいい」


 しかしどうも看守は冷たく帰すだけで詳しく教えてはくれない。


 そう言いつつ看守は、俺の手枷に付けられた鎖の壁についた方を、鍵らしきもので外した。

 外したとはいえ、手枷の方からだらしなく伸びている鎖は、壁じゃなくて看守の手に握られている。

 ……手枷じゃなくて鎖を外すんだな。抜かりがない。


「さあ、行くぞ」

「…………」


 どうにも腑に落ちないところがあるが……

 まだガルシャードの話も満足に聴けないまま、俺は看守にどこかへ連れられようとしているのだった。

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