第五十一話
「そこを——退けぇぇぇッ!!」
ユーの咆哮が、火の粉の舞う戦場に響き渡った。
退路を塞ぐ劫斧竜を、憎悪のすべてを乗せた眼光で射抜く。もはや自身の体の限界など意識にない。ユーは懐から物理耐性を極限まで高める金耀石を鷲掴みにした。
崩化現象により金耀石には亀裂が生じ、属性エネルギーによる灰色の荒ぶる耀気がユーの拳に纏われる。
そのまま弾丸のごとく踏み込み、劫斧竜へと金耀属性エネルギーの耀気爆発を叩き込む。
だが。
——ドゴォオオオン!!
劫斧竜は、漆黒に変貌した両腕の斧を交差させ、その突進を正面から受け止めた。
金耀の崩化による凄まじい衝撃にも微動だにしない劫斧竜。
「なっ……!?」
衝撃がユーの右腕を伝い、全身の骨が軋む。
劫斧竜は即座に斧を横薙ぎに払い、空いた隙間に鋭利な爪を突き出した。
ユーは咄嗟に後ろへ跳ぶ──だが。
ガッ、と頬を爪がかすめ、鮮血が夜空に舞う。
辛うじて直撃を回避したものの、ユーは地面を数回跳ねるように転がり、瓦礫の中に叩きつけられた。
「ハァ、ハァ……っ、……まだだ……っ!」
立ち上がるユーの前に、悠然と歩を進める劫斧竜。
その背後、宿敵フェルゼンの気配はもはや王都の闇に消えようとしている。
(今の俺じゃ……あいつ(劫斧竜)を倒すことは出来ない……!)
カッセルやカイルが絶望の眼差しで自分を見ている。このままでは、復讐を果たすどころか、大切な仲間さえも守りきれずに全滅する。
ユーの右手が、吸い寄せられるようにポーチの奥へと潜り込んだ。
指先が触れたのは、耀気を通さぬはずの漆黒の石———『夜月耀石』。
(……これを使うしかない)
ユーの脳裏に、あの時——獄炎武猿との戦闘で目覚めたあの感覚が蘇る。
そして考える。赤蝕に触れた瞬間、何かが目覚めた。ならば、その核であるこの紫の結晶でも同じようなことが出来るのでは?と。
ユーは震える手で、不気味に脈動する紫の結晶と、黒の耀石である夜月耀石を掌の中で重ね合わせた。




