入学発表の日3
こうして大学に着くと、開門を待って真っ先に合格発表の掲示板に齧り付いた。ふたりは受験番号を片手に掲示板と睨めっこする。先に高村が自分の受験番号を見付けた。その瞬間に坂部はドット気落ちして、掲示板と格闘する意欲を削ぎ落とされた。高村は彼の受験番号を見て「これはかなり後の方ですから」と先を急がしてくれるのとは裏腹に、じっくりと番号を見る気力が失せ欠けた。その時に高村が急に躍り上がって、有りましたよと坂部の肩を叩いた。この激励は有り難いが、もう掲示板は端の方に差し掛かって、此の悪意なき友情には感謝しつつも今一度確かめた。そこには紛れもなく坂部が手にする受験番号と同じ番号が記されて、思わず二人は手を取り合った。
お互いの合格を知ると、二人は此の時ほど益々その存在が身近に感じられた。そこで地方から来ている二人は、近くの不動産屋で住まいの斡旋を頼んだ。此処で二人の家の事情で探す物件が別れた。
二人は出来るだけ近い場所を選んだが、坂部は木造築四十年は超えるという、これには斡旋した方も気が引けるような物件に決めた。一方の高村は洒落たワンルームマンションに決めて、さっそく二人ともその物件を見て契約した。それぞれの賃貸契約書には高村裕介、坂部翔樹と記入した入居欄の名前を見てここで二人はお互いのフルネームを知った。
奇しくも二人はお互いの環境と懐事情を知ったが、どちらもこの違いは気にしていないようだ。不思議とこの頃には、それらを超越した間柄になった。
山陰地方から出て来て、此の春に大学生になった坂部翔樹は、同じく地方の福井から来ている高村裕介とはこのようにして友達になった。