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入学発表の日1

 大学の合格発表ほどなりふり構わず、昂ぶる不安で乱れる心を抑えるのに苦労する。それとは逆に我関せずと薄手のジャケットに細く見えるバギーパンツ姿の軽い足取りで改札を抜けていく男が居た。 

 えらい自信家だなあと見送りながらバス停へ向かった。始発のバス停にはさっき追い抜いた男が、さっきの勢いは陰を潜めて片手に持った文庫本を見ながら立っていた。その姿は如何いかにもインテリ風の学生に見えた。学生なら大学は春休みだろうと一応は否定してみた。それほどその男は、これから大学に入れるかどうかと謂う人生の第一関門に向かう受験生にしては、そんな悲愴感はこれっぽっちも漂ってなかった。彼はそのインテリの後ろに黙って並ぶと、急に受験生ですかと訊ねられた。勿論この日のために努力を積み重ねたので、そうですと答え終わると、じゃあ今日は発表日だなあと間を置かずに言われた。これにも頷くと矢継ぎ早に大学名まで聞かれてたが、そこまで云えなかった。そこでインテリは高村たかむらと名乗り、慌てて坂部さかべと名乗ってまずいと思った。もし彼が同じ大学なら合格で坂部が不合格なら、惨めな将来が待ち受けていると後悔した。

 やがて来たバスに一番に乗ったのは良いが、バスは始発駅で満員発車した。最初に乗った慣れない受験生の二人は、大学までは距離があると安堵し、その内に空いて来るだろうと、当然最後部に座った。通勤する地元の人達は途中の四条通で降りたが、そこから今度は阪急電車で来た乗客でまた一杯になった。

「途中で乗客がすっかり入れ替わるなんて此処は凄い街だなあ、普通は段々減っていって最後はのんびり出来るのに」

 と言われて同感だ。それを察した高村は、ひょっとして地方からかと聞かれて頷いた。そこでまた福井県だと出身地を言われて、まだ受験結果も判らないのに坂部も若狭だと、云わなくても良いのに言ってしまった。これで二人とも不合格なら問題ないが、いやこの場合は大問題だが、どう見ても高村の余裕に蹴落とされそうだ。




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