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第七話

「……なんということをしてくれたのだ、お前たちは」


 国王は怒りに体を震わせながら、三人の王子を見回した。


「なぜこんな勝手なことをした? 何故ことを起こす前にわしに相談しなかったのだ」

「ご病気の父上をわずらわせてはいけないと思いまして」


 長兄のアベルがその場を代表して答えた。


「愚か者が、わしの病などどうでもよいわ。愚か者が三人そろって、聖女になんという仕打ちをしてくれたのか……。ああ、もう何もかもおしまいだ」

「お言葉ですが父上、あれは聖女ではなく忌まわしい魔女です。彼女が闇の存在であることは、聖なる指輪が証明――」

「そんなことは最初から分かっておる!」


 その言葉を理解するまで、王子たちはしばらく時間を要した。


「……分かってるって、まさかクローディアが魔女であることをご存じだったとおっしゃるのですか?」

「そうだ。魔女でも聖女でも呼び名なんぞどうでもいいが、あの娘が『ああいうモノ』であることは最初から分かっておった。我が国における聖女とは、そもそもがああいうモノなのだ」

「待ってください、我が国における聖女とは、闇の存在だとおっしゃるのですか?」

「そうですよ?」


 口を挟んだのは、国王の命令によって解放されたばかりの大神官だった。

 紫のローブは破れ、あちこちに擦り傷ができているものの、その顔つきにはどこか捨て鉢な迫力があった。


「陛下のおっしゃる通り、聖女でも魔女でも呼び名はどうでもいいのですが、いにしえの伝承にならうなら、彼女の正体は魔王です」

「魔王……?」

「ええそうです。数百年に一度この地に生まれ、その存在だけで魔獣たちを活性化させる邪悪の化身、それがクローディアさまです」


 大神官はさばさばと言い切った。


「ちなみに魔王が勇者と聖女に退治されたというのは、後世に作られたおとぎ話にすぎません。実際のところ人類は、一度たりとも魔王に勝てたことはないのです。魔王が生まれ、覚醒したらそれでおしまい。あとは魔王の寿命が尽きるまで、ひたすら蹂躙されるだけ。神託で魔王を探し出し、赤子のうちに殺してしまおうとしても、魔王は命の危険にさらされたとたん、魔王として覚醒するのですからどうしようもありません。そこで人類は発想を転換したのです。すなわち覚醒前の魔王を殺す代わりに聖女さまとしてまつりあげ、囲い込んで飼い殺す。それこそが代々ひそかに受け継がれてきた聖女システムの正体なのです」

「そ、そんなふざけたシステムがあってたまるか!」


 ジョージがそう吠えかかるも、大神官は「あってたまるかと言われても、現に今までそれが機能してきたのです」と冷たく一蹴した。

 

「クローディアさまは沐浴は肌が痛いとか、装身具は頭痛がするとか、祈るとどっと消耗するとか、いつもこぼしていたでしょう? 毎朝のように聖なる泉で沐浴させ、聖銀製の装身具を身にまとわせ、光の神殿で祈らせることで、闇の力を無理やりにおさえこんでいたからです。そしてそんな悲惨な境遇を受け入れさせるために用意された餌が、優しく思いやりに満ちた婚約者の存在、すなわち貴方だったのですよ、フィリップ殿下。私、大事なお役目ですからしっかり務めてくださいと、なんども申し上げましたよね?」


 大神官は非難がましくフィリップのことをねめつけた。


「貴方には期待していたのですよフィリップ殿下。アベル殿下は堅物すぎるし、ジョージ殿下は軽すぎる。従弟の方々もぱっとしない。王族の中でフィリップ殿下が一番女性受けする容姿と性格をしておられた、だから『聖女さま』の婚約者に指名したのです。そして実際にとてもうまくいっていたのですが……こうなった以上、もはや何もかもおしまいです」


 大神官はささやくように繰り返した。


「もはや何もかもおしまいです」





 外では迫りくる魔獣の群れの足音が、地鳴りの様にとどろいていた。

 のちに「暗黒時代」と呼ばれるおぞましき世の始まりであった。


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― 新着の感想 ―
ざまぁというよりも、そんな存在として生まれてしまったクローディアが不憫でたまらない。そして魔物が溢れたということは、クローディアが生命の危機に瀕したということですよね。辛くて悲しくて、世の中を呪ったの…
もっと国が滅びるところまで”ちゃんと”描写してほしい
発表5年後もランキングに載るのも納得の名作! 聖女なら知った上で現状維持を選択できるだけの精神的強さが必要だし、 王太子でない王子なら知らずとも聖女の発言より王命(による婚約)を優先させる忠誠心が必…
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