閑話その8
前回の続きの話
「……おかわり……どこ?」
「な、中原……まさかお前……」
部屋を沈黙が包む。
「大トロ……まずい……赤身……ほしい」
「「「贅沢を言うな!」」」
全員がハモるのに対して
中原は寿司が詰まっていた容器を見せつける。
「というか俺の寿司はどこに言った?!」
残っていたのはガリとバラン(草みたいな奴)、醤油が入っていたビニール袋、そしてご飯粒が10粒ほどへばりついていた。
「私のイカは?えんがわは?タコは?エビは?」
「マグロ!サーモン!マグロ!マグロ!」
「コーン軍艦とかカッパ巻きぐらい残してくれたって……ぐすん」
「ガリ寿司すらできねぇ……うん、ガリがうまい」
永田チーフは呑気にガリを食べていたが森田は「カッパ巻き…コーン…カッパ巻き…」と呟きながら自分のパソコンへ向かってふらふらと歩き出した。
ちなみにこの寿司は特上である。
……そして中原と永田チーフ以外の全員がふてくされていた。
「チッ……コンビニの冷やし中華かよ……うめぇじゃねぇか…リニューアルしやがったな?」
「はぁ…またカップ麺か…おっ今日はカレーか!ラッキー!」
「おまっ!それ俺のカレー!」
「シーフードと交換でいいだろ」
「よしそのトレード乗った」
寿司なんて案外どうでも良かったらしい。
「寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司」
「寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司寿司」
藤井氏と森田氏は呪詛を唱え続けていた。
案外どうでも良くなかったらしい。
食い物の怨み妬み嫉みは恐ろしいものである。
佐藤氏がインスタントコーヒーを持って永田チーフに近づく。
「ところで本当にあんなことするなんて大丈夫なんですか?まぁ自分としては構いませんけど…」
「ん?なんのことだ?」
永田チーフはなんのことかわかっていないような答え方をする。
「学習AIへの人格のスキャンとコピー…電脳世界におけるもうひとりの自分の形成。自分が死んでも自分の思考回路や思考方法、自分の人格は残る。それってある意味不老不死ですよね?」
佐藤氏は倫理的な問題がないのか心配なようだ。
「あぁ、そうだな……まぁそんなことはどうでもいい。もともとこの計画を遂行するのが俺の目的だからな。これでいつでも娘に会えるぜ!」
佐藤氏の不安は杞憂だったと言えるだろう…か?
ひとまず永田チーフに悪用するつもりは毛頭ないようである。
「その計画のせいで娘さんに会えないのでは?」
「なん…だと…。お前天才か!?俺、辞めるわ」
永田チーフは荷物をまとめようとするがその両手両足をつかむ人が約10名。
【いまさら逃すとでも?】
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「んで?どうすんの?スキャンするって言ってもプレイヤーからスキャンするのは色々と難しいだろ?あとスキャンした後そのデータどうするの?プレイヤーキャラをNPCにでもするの?」
伊藤氏は永田チーフに疑問とゴミを投げつける。
「うわっ、このエビマヨおにぎり消費期限切れじゃねぇか。でえっとスキャンだっけ?まぁそれは色々と条件を満たしてる人にだけする。そんな感じでいいだろ」
永田チーフは元海老マヨだった何かをゴミ箱に入れる。
「プレイヤーキャラをNPCにするって面白そうじゃん」
誰かがそう言った。
「おい、テメーで仕事増やしてどうすんだ」
森田が呆れたように永田チーフを見つめる。
そう、誰かとは永田チーフのことである。
「だって面白そうじゃん?」
「えー」
「確かに面白そうだけど……ねぇわ」
「確かにログインしてモンスター狩ってクエスト受注してを繰り返すだけのプレイヤーをNPCにしてもねぇ」
相次ぐ反対意見。
永田チーフのノリによる案は否決されるかと思われたが……救世主が現れてしまった。
「NPCの好感度……使えばいい……すごく高い人は大体面白い……」
メサイア・ナカハラ 降臨。
「それだっ!それ使おう!よし決定!」
「まじか…おいチーフ。データ取るなら結構ログインする奴じゃないと無理だぞ?」
「じゃあそれも採用」
こうして人知れることなく、『電脳世界における自分のコピーを形成する』プロジェクト…通称『愛娘に会いたい』計画は永田チーフの私欲と職権、そしてセカンドワールドオンラインの予算の一部によって進み始めたのであった。
そしてその場の誰もがもう軍のお偉いさんのことなど頭になく新しいプロジェクトに夢中になっていた。
「んじゃそんな感じでよろしく!」
「おーけー」
「めんどくさ」
「私は…関係あるか…はぁ」
「モーション担当は関係ねぇな」
「デザインも関係ないよな」
永田チーフは言いたいことを言うとゆっくりと寝袋の中に入った。
1秒、2秒……7秒、8秒……スヤァ……
「ちょっ!チーフ寝るな!お前も仕事しろ!」
「くそっ油断していた!」
「もう起きねぇぞ、そのままにしておけ」
しかしそこにある意味での救世主が現れる。
「ここに……わさびあるよ……」
中原の手には寿司についてくるわさびの袋が握られていた……
スモールデビル・ナカハラ 参上
中原はチーフの元へ近づく
「……これは罰……許してね…」
中原はチーフの鼻の穴にそれをそっと割り箸で突っ込んだ
そして何食わぬ顔で元の位置に戻っていった
スモールデビル・ナカハラ 撤退
「…zzZ…zZZ……Zッ⁉︎
×°*fugiko!?/#apt@=♪%€$ふごっ?!痛っ??」
チーフの鼻からわさび入りの鼻水が出てきた
「誰だ俺の鼻の中にわさび詰めた奴っ!」
無論誰も名乗り出なかった。
その時、中原は割り箸をゴミ箱に捨てた後、念入りに手をおしぼりで拭いていた。




