戦争の終わり
~125
「あのバカ・・・」
水晶球を見つめながら呟くカノン。
今は何も映していないその水晶球が先ほどまで移していた光景にカノンは溜息を吐くと。
「とりあえず報告しないとな、はー気が重いな」
そういうとカノンは席を立ちその建物から出る、周りにいるのはデモン種の兵士たち、ここはどうやら魔王軍の本陣らしい。
「よう、いるかい大将?」
気軽に声をかけ部屋に入るカノン、部屋には数人の士官と机を囲んで討論をしていた。
が、カノンに気づくと中断してカノンに声をかける。
「なんだカノン?何か進展があったのか?」
とのフォウルの問いにカノンは。
「比較的にはいい方のニュースと悪いニュース、最悪なニュースととても信じられないニュースがある。
オススメはいい方のニュースからかな?」
と答える。
「ではいい方から頼む」
フォウルの言葉を聞きカノンは答える。
「まず、ニコルに有効そうな戦術を立てれる情報だ。
奴は魔法は無効化できるようだが魔法によって起きる副次効果は無効化できんようだ、後は上空からの攻撃に対して気持ちだけ反応が遅かった」
というカノンの言葉を聞きフォウルは何かに気づいて首を振る。
「上空からの攻撃を試したということは雇った冒険者たちは全滅のようだな?
それが悪いニュースか?」
という質問にカノンは溜息を吐きながら。
「いや、それはこの際どうでもいいことだな。
悪いニュースはさっきの上空からの攻撃に対する備えを取られたってことだな、これで実質奴に通じる作戦は魔法による副次効果を用いるくらいだ」
というカノンの報告にフォウルは。
「いや?その報告は大きいぞ?魔法による副次効果が通じるということは要するに魔力を使わない火攻めや水攻めは効くということだ、これで攻略の幅が広がった。
それで次のニュースは・・・悪いのしかないのだったな」
フォウルはそういって溜息を吐きカノンに次を促す。
「さて、最悪の報告だったな・・・気をしっかり持てよ?
まずはニコル・ファルシオンに仲間ができてた・・・しかも単騎でドラゴニュートを軽く無力化するほどの強さを持ってて飛行可能、ニコル・ファルシオンほどじゃないにしてもとんでもない化けもんだった」
その報告に部屋はシンとする、ただでさえ手に余ってる化け物がさらに増えれば当然だが。
「しかも、ウチの戦力が勝手に挑んで死にやがった?こいつに関してはちょいと確認しきれない状態なんだが・・・まあ状況的にもう死んでるだろう」
フォウルは何故一戦力の喪失が最悪なのか考え・・・凍り付く。
「まさか・・・グレーターデーモンが勝手にぶつかったのか?」
その言葉に頷くことで肯定するカノン、それを見て力なく椅子に落ちるフォウル・・・だが報告はまだあった。
「でだ、これからいうことはまぁ信じられないだろうが事実だ、聞いてもどう判断したらいいのかはできれば自分の中で消化してくれ。
ニコル・ファルシオンには使える主がいる」
という言葉を聞き途中で遮る一人の若い士官。
「それは神国の王ではないのでしょうか?」
普通に考えれば態々そんな事なら報告に来ないだろうとフォウルや他の者たちが思う中カノンは首を振り続ける。
「そうなら態々報告には来ないさ、まぁ溜めた俺が悪いか。
ニコル・ファルシオンの主とはどうも奴が使っている剣らしい」
一同にどよめきが走る。
「剣が主?カノンそういうからには根拠があってのことだよな?」
フォウルが冗談では済まないぞ、と目で伝えてくる。
勿論カノンも冗談で言ってるわけではない、実は水晶球で”ドラゴントゥース”がやられた後も観察を続けていたカノンは剣とニコルが会話をしていた処も見ていたのだ。
最初は会話の内容もよくわからなかったのだが、どうも会話の流れから剣が上でニコルが下みたいだと分かった、ついでに会話の内容は自分たちの弱点の警戒範囲を広げるという会話だった。
まさかと思ってみていたら剣を地面に突き立ててニコル達は離れる、剣の周囲の景色が歪み始めたところでグレーターデーモンのヨトゥンが登場し、その会話を聞く。
そして突然倒れたヨトゥンを見て会話の内容を反芻した時恐ろしいことに気づく。
『俺の魔力はどうやって集めたモノか分かってるのか?』『俺と魔力的な繋がりを作っちまった・・・その時点で俺の勝ちなんだよ』『馬鹿な奴だな・・・”ソウルイーター”』。
これらの言葉に先日のソフィア様の言葉と戦場で突然魂を奪われたスクレ、そして映像の先の倒れたヨトゥン。
その考えにいたった時に水晶球が光り出し映像が消える、何度繋ぎ直そうとしても繋がらなかったので向こう側の水晶に映像を送ってた送信端末に何かあったようだ。
とりあえず、自分の主観も交えてカノンはあったことを報告する、そしてフォウルはより最悪なことに思い至る。
「待て待て待て!だとしたら魂を奪う上位の悪魔はあの剣ということになる!
そんな奴にヨトゥンが負けたということはソフィア様が危険なのではないのか?
いかんぞ!あの方に何かあれば、最悪死んでしまえば!
次に魔王が現れた時に対抗できる力が無くなるということだ!
このまま神国を亡ぼせば復活した魔王に何もできずにすべて滅ぼされてしまうではないか!」
フォウルの言葉には今回、暗黙の了解として攻め込んではならないとされていた神聖ハーモニア王国に攻め込むことにできた理由が混ざる。
定期的に表れる魔王、その性質は共通して”この世界の生き物は近づくことができない”存在であると言われている。
そして魔王を倒さねば古来よりこの世界は滅ぶとされている。
この世界の生き物が近づくことができない魔王に挑ませるための勇者召喚なのだ。
異世界の人間を召喚するだけなら別に神聖ハーモニア王国でなくてもいいのだが残念ながら、ただの異世界召喚では召喚されたモノに戦う力が与えられず、魔王に挑ませても意味がない、さらにいくら鍛えても一般のヒューマンの域を超えることができなかったらしい。
だが、デモン種の中に胃世界の者、悪魔を召喚契約できるものが生まれた、それがソフィアだ。
悪魔が魔王と闘えるのかは分かってないのだが今回の魔王軍は、「異世界からの強力な力を持つ悪魔がいれば勇者など不要だ!」といって戦争を始めたのだ。
なのに今回、魂を奪う悪魔にヨトゥンが負けた、先だって次に悪魔が負ければ自分にも悪魔の毒牙が届くと説明されている。
「・・・った・・・」
かすれた声でフォウルが呟く。
「どうしたんだ、大将?」
カノンが訊くと。
「撤退だ、これより本国に戻る。
今回の報告によってソフィア様の安否が心配される。
もしソフィア様の身に何かがある状態で神国を亡ぼせば世界が終わる。
それは我らの王も望むまい」
とフォウルの言葉に反対意見も出るが。
「それでは貴様らは残ってあの悪魔に魂を奪われに行くか?
もともと奴のせいで勝ち目が無くなった戦だ、だが今なら奴らに追撃されても全滅する可能性はあるまい・・・」
と言ったフォウルの言葉に一同息を飲む、実際勝ち目が既に希薄であることはここにいる全員が分かっていることだ、反対した者もどちらかというと感情がそれを許さなかったからだ。
反対意見が無くなったのを確認したフォウルは息を吸い込んで指令を飛ばす。
「何をしている!指示はもう出したんだ、すぐにでも行動に移れ!
奴らはすぐにこちらに向かってくるぞ!
出来るだけ無事に逃げるためにもさっさと行動しろ!」
この日のこの判断が、ようやくハーモの町で一休みできると安心していた神国軍の兵に休養も与えずに追撃戦に移らせる結果となり、十分な士気の上昇もできずに挑んだため魔王軍は大した損害もなく撤退を完了させるのだった。
他にもニコルは向かってくるものだけ相手にすると事前に宣言していたために追撃戦には参加できなかった、というのも理由ではあるのだが。
さて、都市モニカから電撃作戦並の撤退戦を成功させた魔王軍はその勢いに任せノスモニアよりハーモニア大陸からの脱出を試みる。
ニコルやその取り巻きは基本的に追撃戦には不干渉を貫く姿勢をとっていたために魔王軍の被害は種族差などからくる戦闘力の差によってほとんど受けなかったのだ、尤もそれによって勘違いした一部の兵の暴走にはニコルが当たっていったのだが。
そして神国軍は魔王軍の船によるの脱出をみすみす許してしまう。
もちろんそれも追撃しようとした神国軍だったが魔王軍が脱出する際に残る船はほとんど破壊しており、神国軍は新たな船を用意する暇もなかったので隣国、ハーモニア共和国に応援を頼むも航路に現れた幻術を看破するレヴィアタンの出現によって援軍はたどり着くことはなかった。
結局、神聖ハーモニア王国はサームスギ南端のサウススギまでの奪還は諦めて、ノスモニアの防備の増強をすることでサームスギから再び来るかもしれない魔王軍に備えることになる。
その際、ノスモニアにいた領主などそれに連なる貴族らは今回の騒乱に一掃されていたために誰が統治するかという話題がしばし上がったのだが・・・言うまでもなくこの戦争の功労者であるニコルに白羽の矢が立つ。
実際単騎で魔王軍と相対できるニコルがいれば言うほど早急な防備の増強も必要ないという目論見もあったのだが。
ノスモニア元領主が住んでいた屋敷の一室にて。
4人の護衛に囲まれながら、ニコルが前領主の執務室にある机の椅子に座り溜息をつく。
「僕が領主ですか・・・一奴隷だった僕が」
ニコルのつぶやきが聞こえる、確かにこうまでうまく事が運ぶのは割といいことなんだが・・・正直物足りない。
せっかく俺もパワーアップしたのに、どうやって知ったのか知らないが、ニコルが追撃戦には消極的なスタンスだと知った魔王軍は基本ニコルには兵を向けずさっさと撤退していったからだ。
逃げた連中をセイレムに襲わせても楽しいかと思ったが・・・魔王軍に恨みがあるわけじゃないし、むしろいてくれれば神国ももう少し緊張感を持った国になるかと思いあえて見逃し援軍もこっちに来させないように手を打った。
その内サームスギには行こうかな?って思っているのだが、今はそこまで興味も湧かないしその内にすることにして今はニコルに伝えようと思っていたことを伝えておく。
『ニコル、これから先の事の指示をだそうとおもうのだが、大丈夫か?』
という俺の問いにニコルは頷いて答える。
『よし、これからはお前がここの領主となり治めていく事になる。
そしてそれは基本的にここに長く住みつくこととなる、そうなると俺には正直つまんない日々が続くわけだ』
まぁニコルの事をよく思ってない連中もいるだろうけどそんな奴らもニコルにちょっかい出して結果どんな目にあうのか考える頭くらいあるだろうから大した事も出来ないだろう。
「確かに兄さんにとって刺激の無い日々しか続かないかと思います」
ニコルも俺の言葉を肯定する。
『というわけで俺は、お前がヒューマンの成長限界を超えるまでは”ソウルブリーダー”をかけるために起きるがそれ以外は随時スリープモードを維持し意識を閉じることにする』
という言葉にその場にいた者達は一瞬狼狽える・・・ような気がしたが狼狽えたのはニコルだけだった、因みに俺は執務机に飾られるように置いてある。
「僕を見捨てるということでしょうか?」
ニコルが動揺を隠すことなく震える声でそう訊いてくる。
『なんでそうなる?まぁなんでそうなるのか分からんがお前は俺の物だから捨てんぞ?ただこのままつまらない日々が続けば俺の心が壊れるかもしれないからそうしようと思ったんだ。
お前を英雄にするという俺の目標はだいたい叶ったみたいだし、そうなると俺の次の目標のためにも寝て待っとこうかと思ってね』
俺の言葉に若干の安心と俺の中ではもう決定事項なんだと分かって落ち込むニコルが何とか質問する。
「次の目標はなんでしょうか?」
聞かないと納得できないといった顔でそれを聞くニコル、まぁ言うつもりだから別に気張らんでもいいんだが。
『次の目標は魔王の討伐だ』
俺はそう一言で伝える。
「魔王討伐ですか?」
ニコルも聞き返す。
『そう、そして召喚される次の勇者を手助けすることだ』
そういった俺にニコルは。
「勇者の手助けをして魔王を倒すのではないんですか?」
ときた、まぁ若干間違えた感があるが・・・間違いではないんだ。
『勿論魔王を倒す手助けもするが、俺の目的は異世界送還だ。
この世界の奴らは喚んだら喚びっぱなしだそうだな?
俺はそれが気にくわん。
勇者に帰るか残るかの選択肢を与えないこの世界が気にくわん。
だから勇者と同行して送還魔法を創ろうと思ってな』
とまで言うとニコルが。
「でしたら今のうちに召喚術を解読したらいいのではないですか?」
とあながち間違いじゃないことを言ってくる、だが残念。
『召喚術と勇者召喚術では術式がなのか分からないが全くの別物らしい。
その証拠に召喚術で呼ばれた異世界人と勇者召喚で呼ばれた異世界人では戦闘力に隔絶した差があるそうだ。
だから、俺は勇者に付き添い勇者召喚の秘密を探り勇者送還術を創り上げる。
”ライブラリ”によると勇者召喚は魔王がいないと使えない可能性があるそうだから、魔王が出現するまで俺は寝ることにした』
俺がスリープモードに入る理由も混ぜて説明するとようやくニコルも折れる、納得はしてないようだが反論は諦めたようだ。
「分かりました兄さん、これからは僕に任せてしばらくお休みください」
『あっ!ついでに”脱衣”』
俺が唐突にそういうと俺を包んでいた鞘がスライムのようにぐにゃぐにゃになりニコルの首に向かっていき剣のレリーフを形作ったネックレスになる。
『鎧はお前に預ける、今度からは”抜刀”じゃなく”装着”の後にタイプを言うようにしろ、ネックレスにするときは”脱衣”だ』
と説明し。
『俺を起こすときは俺を持って”解放”って唱えろ、それじゃあ俺はもう寝る、次の”ソウルブリーダー”を使うときかどうしても俺に報告したいことがあるときだけ起こすようにな。
じゃあ、”おやすみ”』
俺は”封印”をで改造した”おやすみ”をつかっていしきを・・・。




