表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

深紅の悪魔

~113

 神聖ハーモニア王国首都、王都ハーモニアに続くハーモニア街道は北のホクブ森林と南のセイブ山脈に挟まれるように伸びている街道でありホクブ森林を横断できない魔王軍が王都ハーモニアに進軍するための現在唯一の道でもある。

 割と長いその街道にはところどころで広場と呼べるような場所がありそこで迎え撃つという構えをとっての戦闘で今まで何回かは耐え凌いだのだが神国側だが、兵をヒューマンがほとんどを占める神国側とデモン種で構成されてる魔王軍ではその戦闘力の差が著しく数で押していてもしばらくすると盛り返され結果後退、そんな無意味に兵を消耗させるような戦いで今、ハーモニア街道にある文字通り最後の砦である”ハーモニアの門”と呼ばれるかつてこの世界に来た勇者の発案がふんだんに盛り込まれた砦、その名もイージス砦にまで神国側は追い込まれている。

 神国側の貴族などのお偉い連中は喉元に食いつかれた今になって慌てだす、どうしてこうなったのかと、どうしたらいいのかと。

 慌ててももうどうにもならないところまで来てしまっている、国を裏切り魔王軍側につこうとした者たちもいたが次の日にはその首が馬車に詰め込まれて送り返された。

 ”敗北は死あるのみ”開戦後少したってから届けられていた書状に、この一文があったと告げられていたことを彼らは思いだす。

 どうせすぐ軍を維持できず泣き帰るだろうと高をくくっていた彼らは恐怖と絶望に沈む、が、どうせ助からないのなら意地を見せ時だとこの国の最高権力者神聖ハーモニア王国現国王ハロルド・ハーモニアの言葉にその場に居合わせた者たちは奮い立ち自分が自分がと戦場に発っていった。


 結果は惨敗に近かったのだがそれでも彼らの戦いは彼らにとっての希望が到着するための時間を稼ぐことができたのだった。


「そこ!登らせるな!」

 砦に掛けられた梯子からよじ登ってくる敵兵を見て現場にて指揮を執っているホースが指示を出す、この砦が落ちれば後ろにあるのは王都、人がより良く住むことに力を注いだ町並みは戦場になればたちまち火の海になるだろう。

 彼の家族も王都に今は住んでいる。

 この砦は決して落とさせない、その思いこの砦にいる者たちは決死の思いでここ数日の攻防を続けている。

 当初は打って出るだけの戦力があったのだが日がたつにつれて目減りしてゆく戦友たち、援軍も何度か来ているが散発的な少数投入での援軍の為にすぐに敵に踏みにじられていった。

 なぜこうもいい様にされているのか前線で脳筋を発揮しているホースには分からない、兵の錬度の問題なのかもしれないがそんな事指揮官が承知してて当然だと思っている。

 昼も夜も波状攻撃してくるからなのか?デモン種には夜になった方が実力を発揮する者たちも多い、むしろ夜の攻防の方が激しいくらいだ、がこちらも昼夜で部隊を分けて対処していた、夜の攻防で戦線離脱する者の数は昼の二倍を超えるがそれでもまだ耐えきっている。

 昨日はまだ耐えきれていた、こんな風によじ登ってきた者たちをまだ冷静に対処できていた。

 しかし今日、ついに敵兵がこの砦の壁に足の裏を付けて立ってしまっている。

 そこからどんどん敵兵が補充されてくる。

「おしもどせ!これ以上登らせるな!」

 ホースの言葉に兵たちは我先にと敵兵に群がっていくがそのほとんどが返り討ちに会う・・・この兵の強さは異常だ。

 そう判断しても仕方がない、本来種族的には最弱なヒューマンとはいえ鍛えればそれもあまり気にはならなくなるくらいにはなる、筋肉などはエルフ達よりはつくくらいだ。

 だが、先ほどからこの敵兵一人一人になすすべなく蹂躙されている。

 昨日までの兵とは全然強さが違うのだ。

「種族差があるとはいえこれはおかしい・・・」

 考えながらも押し続けるよう指示を出し死体の山を作らせ続けるホースは自分の無能さに歯噛みし自らも戦闘という名の蹂躙劇に参加し・・・その命を散らした。


「ついにこの砦も落とせそうですね」

 そう不敵に笑いながら話す男に。

「ふんっ持った方だろう・・・ヒューマンにしてはな」

 と返す銀髪の男、彼こそこの魔王軍のハーモニア侵攻を指揮する大将フォウルである。

「だが油断なくいけ、窮鼠猫を噛むというように無駄に噛みついて来て貴重な靭帯などを噛みきられないようにな!」

 とフォウルが指示を飛ばす彼は慎重であるがそれでも彼からしたらヒューマンたちの評価はネズミなのである。

「それにしても先ほど壁によじ登っていったデーモンソルジャーは圧倒的ですな」

 フォウルの横に控えていたもう一人の男が感心しながらデーモンソルジャーの感想を言う。

「ソフィア様から預かった貴重な悪魔だ10体しかいないから投入も慎重にしなければいけなかった。

 それまで兵たちに無理をさせねばならんのが歯がゆかったのだが・・・それも今日でひと段落だな、此処さえ落ちれば後は・・・なんだ?」

 話している最中にフォウルは東の空から何かが戦線に近づいているのを目撃する。

 それが何か分かった時にはデーモンソルジャーの布陣していた場所に強力な”ブレス”が放たれた後だった。


 そして視点はこちらに戻る。

 現在、神聖ハーモニア王国の王都上空を雷凄の首に跨って飛んでます、ニコルがね、俺は腰にささってるよ?

『ここからでも見えるなー、まだもってたみたいで一安心だ』

 結構ゆっくりしてたから既に王都が落ちてんじゃないかな~って心配してたが大丈夫みたいね。

 最悪逃げてた王族拾って国の復興からする羽目になるんじゃないかなって心配してたわ、俺みたいな適当人間に内政チートは無理だもんよ。

「間に合いそうですね、やはり飛んで移動するのは速くていいですね」

『だな、さてどうやって戦場に降り立ったら目立つかだが。

 ・・・ふむ、もしかして砦の壁占領されてるな?』

「されてますね」

『しかもなんか強い奴が壁になってて押し返せないみたいだな・・・』

「そのようです」

『決まりだな!雷凄あそこに近づいて一発かましてから離脱してくれ!』

『それはよいのだが我の背に乗ったままだとニコルが黒焦げになるぞ?』

「それでは”抜刀”タイプシャイたん!」

 ニコルが鎧を纏うと。

「電撃を溜め出したら離れます、では行きましょう!」

 その言葉を合図に雷凄が加速する、戦場に向かって。



 壁上で扇状に布陣して徐々に壁を占拠していた魔王軍は突如現れたドラゴンの”ブレス”をくらい陣形に縦線ができる。

「”納刀”」

 縦線の真ん中でそんな声が聞こえる、ドラゴンの一撃で呆けていた魔王軍・神国軍問わずその声に反応して声の発信源に目を向ける、と、そこにはこの泥沼のような殺し合いの場に似つかわしくない見目麗しい、ともすれば美少女に見間違えてしまいそうな美少年がそこに立っていた、誰問わずに息をのむ、突然現れた場にそぐわぬ少年の出現、その少年の美しさにその場にいた者たちの時間は止まっていた。

『やるぞニコル!』

「はい!」

 返事と共にニコルは名乗りを上げる、俺はそれに魔力を重ねて戦場全域に届くように仕向ける。

『「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!

  我が名はニコル!ニコル・ファルシオン!

  これより神聖ハーモニア王国の剣としてこの地を汚す魔王軍を討ちに来た!

  我が剣を恐れるなら逃げよ、追いはしない!

  我が剣に挑むならその身をもって悪夢を語れ!

  神国の兵よ我に続いて敵を討て!」』

 ここまで言ったあと拡散を解除して。

「”抜刀”タイプドラン!」

 深紅の竜をモチーフにした鎧を瞬時に身にまとったニコルに驚いた両軍の兵を無視して周りにいる魔王軍の兵に横薙ぎに剣を振るう、その際俺は限界まで(5メートル)伸びてニコルの手が止まったら元の長さに戻る。

 結果、ニコルが振った剣の届いて無いモノたちまでもが切り殺される不可解な場が形成されるが・・・ここは戦場、自分たちの敵が理解できない力を持っていれば混乱して戦意が委縮されるが、自分たちの味方が理解できなくても圧倒的な力を持っていると思えば。

「わあぁぁぁぁぁ」×たくさん

 神国兵たちの凄まじい歓声が上がる・・・別にまだ勝った訳じゃないのにな。

 そんな声援を受けつつもニコルは淡々と敵を切り伏せて屍の床を作る。

 足元の気持ち悪さに顔をしかめ始めたころに先ほど神国兵を絶望に落としていたデーモンソルジャー達が立ちふさがる、”ブレス”をまともにくらった奴がいたのか最初の斬撃で巻き添えを食ったのか数が減って5人ほどになっていた。

「貴様は何者だ!」

 そのうちの1人がニコルに質問をして首をはねられる、ニコルは非情なのだ。

「くっ問答無用か!」

 散開してニコルに攻撃しようとしたデーモンソルジャー達だが何故か二人ほど味方のはずのデーモンソルジャーに攻撃を仕掛ける、まぁ俺の”マインドハック”の腕も上がってるってことさ。

「馬鹿者俺は味方ぎゃっ」

 襲い掛かってるデーモンソルジャーごとたたっ斬るニコル・・・まぁいいんだけどさ。

「どうなっている?我らを操るほどの精神魔法?ぎゃっ」

 考える時間もあげないニコルに若干俺は引きつつもそんなことを気にしないニコルは一人で壁上に陣取っていた魔王軍を蹂躙していく。

 その圧倒的な戦果から後に”イージスの悪夢”や”深紅の悪魔”と呼ばれ恐れられることになるとは・・・まぁ予想自体はできたかな?


 壁上にいた魔王軍の兵たちを殲滅し終わるとニコルはそのまま壁から跳び降りた。

 ドランアーマーの翼で減速して地面で槍を掲げて待っている者たちに俺の切っ先を向ける。

『”ファイアボール”』

 俺は遠慮なく魔力をふんだんに込めた”ファイアボール”を放つ。

 割といきなりのことだったので焦ってかなり込めちゃったらしくその火球の大きさはかつてサラが放っていた火球の大きさを軽く超えて半径5メートルほどの巨大な青白い火球が飛び出してしまった。

 俺って無意識で魔法の範囲を5メートルで抑えるようにしてるんじゃないかなって一瞬思ったが今は戦闘に集中することにした。



 一方。

「なんだ・・・あれは・・・」

 顔を青ざめて呟くフォウル、ここまで順調といえる進軍で大体は予定通りに事を進めてきた彼はニコルの登場に戦慄していた。

 最初はドラゴンの出現、気まぐれなドラゴンの一撃で貴重なデーモンソルジャーが数体ダメになってしまったがそれでも戦線を返されるほどの痛手ではないと思って安心していたのだが、突如遠くから聞こえるような近くで聞こえるような不思議な声でニコルというものが何やら口上をあげたと思った直後に悪夢が展開された。

 圧倒的な武を持っていたデーモンソルジャーが子供の玩具のようにあしらわれ壁上にいた自軍の兵たちは泥人形のようにその形を変えていった。

「このままではまずいんじゃないでしょうか?」

 フォウルの傍にいた青白い顔をした紳士風の男がそう訊いてくる、フォウル自身もそんなことわかっているが、たった一人の加勢で軍が後退するわけにはいかなかった。

 そこにはいろいろな理由があるのだが一番の理由は個が軍に勝ること許してはいけないと無意識からの強迫観念から来ているのだろう。

「フォウル様、今回は予期せぬ存在が現れたために後退する、ということでいいと思いますよ?

 そうですね・・・奴はきっと先ほど戦場に乱入してきたドラゴンの化身なのかもしれません、それならばあの出鱈目な火球も説明がつきそうですし」

 青紳士の言葉にフォウルも冷静になり始める。

「なるほど、スクレの言う通りかもしれんな。

 我々は知らぬうちにドラゴンの尻尾を踏んだのかもしれん」

 とフォウルも青紳士、スクレの言葉にとりあえず納得して。

「一旦体勢を立て直すぞ!

 あの化け物をこの場で仕留める!

 弓兵、魔術兵遠距離からありったけぶち込め!

 ・・・さてスクレお前には」

「既に向かわせております」

 というスクレはニヤりと薄気味悪い笑顔をニコルのいる方に向けた。



「戦場とはこんなものですか・・・サラさんたちの心配事は的外れもいいところですね」

 明らかに増長しだしたニコルだが・・・まぁ俺もそう思うからしょうがない。

 軍って言っても一人一人槍なんかをもって走ってくるだけだし密集して走ってくるから一振りで2、30人規模で肉塊に変わっていく、もはやニコルは歩く死体製造機になっている。

『おや?何やら敵さんの毛色が変わってきたな』

 パッと見では分かりにくいのだが俺は斬っている者たちには例外なく”ソウルイーター”を使っている為違いが分かった。

 魂の無いモノたちが混ざりだしている、肉体を外部からの魔力で動かしている者が混ざってきているのだ。

 まぁだからなんだっってことなんだけど、本来なら首が飛んでも心臓が無くなっても動いて来るんだろうけど・・・動かしてる魔力を喰っちゃってるから無意味だね、てかせっかくだし。



「な!これは」

 突然苦しみだしたスクレがそのまま倒れる、周りにいた者たちが駆け寄り救護兵の許に運び出す。

「魔力が無くなっているだと?」

「正確には生命維持に必要な魔力、魂までなくなっている状態です」

 状態を確認した救護兵からの報告に耳を疑う、魂を奪う存在・・・それが何を意味するのか。

 敵側には悪魔、それもこちらに一切の気配も見せずにスクレほどの術者の魂を奪えるほどとなるとかなりの上位存在がいるということになる、そして今悪魔のような強さでこちらの軍をかき乱している奴もいる。

「く、くはははははは」

 突然笑い出したフォウルをその場にいた全員がぎょっとした目で注目する。

「撤退だ、一度戦線を下げて体勢を立て直す」

 フォウルの発言に一同息をのむ。

「撤退ですか?

 たかが一人の敵兵を恐れて?」

 そう質問するのも無理からん事だが・・・既に魔王軍の兵の被害は一割に届こうとしている。

「そのたかが一人が問題なのだ!

 その救護兵も危惧しているだろうが恐らく奴は悪魔だ、それもかなりの上位存在の!

 今さっきスクレを殺したのがいい証拠だ、フフフ笑えるよな」

 と何かが琴線に触れたのか楽しそうに笑いだすフォウル、一同は訳も分からずに見守っていると。

「なにをボーっとしている!

 さっさと撤退の指示を飛ばさんか!

 奴は待ってくれんぞ!」

 フォウルの檄で我に返り各々の役割に戻る。

 そんな中。

「何が面白かったんで?」

 フォウルの横に控えていた厳つい男が訊ねる。

「こんなにひどい話は無いと思ってな」

 フォウルが応えそのまま続ける。

「我々は奴らの言うところの魔族という者たちらしい、魔族というのは悪魔連中と同義だという。

 だが、今我らを撃退して奴らの希望となっているのも悪魔だ」

 そういうと、いかつい男の背中に冷たい汗を流させるほどの敵意と殺意を乗せてニコルのいる方を向き、吐き捨てる。

「この仕打ち、この屈辱!決して忘れんぞ!ニコル・ファルシオン!

 深紅の悪魔よ!!!!」

 その叫びは、四方八方から飛んでくる弓や魔法をシューティングゲーム感覚で”メニードル”で撃ち落としていた俺やそれに付き合って棒立ちで剣を頭上に掲げているニコルには届くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ