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オタク山にて

~94

 朝ニコルたち”ファルシオン”とガデムたち”ハモニアの剣”の2パーティが冒険者ギルドに顔を出す、と言うのも。



 昨日の晩。

「お前らはこれからどうするつもりなんだ?」

 というガデムの問いに、

「これから国境を越える予定なんです」

 というニコルの答えを聞いたガデムが、

「おいおいおい、国境を越えるって言っても越境の許可証とか貰えたのか?こういっちゃあ悪いと思うが身内に犯罪者が出たのによく貰えたな」

 越境の許可証?なにそれうまいの?

「許可証ですか?」

「おいおいおい!許可証も持って無いで関所に行ったら無駄に金とられてから『調べて許可証が無かったのでおかえりください』とか言われて追い返されるぞ?」

 何それどんな追いはぎ?

「その許可証とはどうすれば手に入るのか分かりますか?」

 ニコルは許可証の存在を話してくれたガデムに聞いてみた・・・まぁ他の連中は必要なことすら知らなかったからしょうがない・・・。

「国に申請したら貰えたりするんだがな、お前たちの場合パーティリーダーが犯罪者として処刑されたせいで多分国外に出る許可証を国から貰うのは無理だ、最悪関所を使わんでも国境線を越えること自体はできるんだがリスクがな・・・まぁ方法がないこともないか、ギルドカードを見て見ろ」

 ニコルは自分のギルドカードを取り出す。

「ここに発行された国名なんかが記載されてるんだが今のお前たちはDランクだろ?」

「はい」

「Bランク以上になると国境を越えるのもタダになる、もちろんギルドカードの提示は必要だがな」

「それはギルドからのサービスのような物ですか?」

「大体はそうなる、国内に強力な冒険者を引き入れるのはリスク以上に恩恵が大きいから国からも歓迎されるってのもある」

 まぁ大体わかったのだが、問題はやっぱり。

「ですが僕たちはまだDランクです、Bランクまで上げるとなると少し時間がかかりすぎますね」

「そうなんだよ、こればかりはどうしようもない・・・それにBランクからの依頼はこれまでの依頼と比べると桁が違ってくるそうだしな」

 そう、CからBのランクの壁は今までの難易度の比ではなくなるらしい。

 らしいというのは実際Bランク以上の冒険者から聞いたり仕事を斡旋している職員から聞いたりする程度にしか知らないからだ・・・先にことだし興味がなかったんだ。

 というわけでとりあえずCランクを目指すことにしたのでタークの冒険者ギルドに来たのだ。



「ではこちらの品を受け取らせていただきます」

 とりあえずシーフォートで預かった搬送依頼のアイテムなどを受付に渡す、

「そろそろCランクの昇格依頼を受けたいと思うのですが可能でしょうか?」

 ニコルが職員に質問する。

「えーと・・・はい、今回の依頼達成でパーティ内の雪鱗さんも含めて昇格依頼を受けれるようになっております」

 何気に雪鱗だけ依頼達成数が足りて無かったからね、これでCランクには成れるようだ。

「では次は昇格依頼を受けさせてください」

「かしこまりました、では職員の準備などもありますので明日から依頼を開始していただきますが宜しいでしょうか?」

 あっちにも都合があるんだね。

「構いません」

「ではこちらから依頼を選んでいただいていいでしょうか?」

 と受付の職員は表紙にCと書かれたファイルを取り出しニコルに広げて渡す。

 受け取ったニコルがパラパラめくるととあるページでニコルが止まる。

 そのページの依頼は。

 ・ロックリザードの討伐・・・ターク北にあるオタク山に生息しているロックリザードの討伐をしてもらいたい、とにかく数を減らしたほうがいいので規定数を超えて討伐をすればその分上乗せして報酬を払います、規定討伐数3匹、討伐証明部位は尾の先端部分にある棘・・・報酬3000ナル+超過討伐数で加算

「これを受けます」

[承りました、では明日の出発前に一度ギルドまで試験官を迎えに来てください」

「分かりました、では明日また来ます」

 短く挨拶をしてギルドを後にする、オタク山って・・・まぁいいや、オタク山はタークの北に見える山脈の1つでここからだと馬車で半日くらいの距離になる。

 しかもその後山登りとなるので到着後は麓で一泊してから登ることにしたほうがいいらしい。

 今日の所はそういった装備や必要になるアイテムの買い物を済ませ明日からの依頼に備えることにした。


 翌朝、試験管を迎えに冒険者ギルドに行くと昨日の受付さんが試験官となる人達を紹介してくれる。

「紹介します”ハモニアの剣”の方々です」

「初めまして”ファルシオン”リーダーを務めますニコルと申します」

「おいおいおい!俺たちに初めましてってそりゃないだろう!」

 いや、試験官が知り合いってまずくない?てか試験官は職員じゃないのか?

「今回の試験官は職員の方ではないんですね?」

 ニコルが訊くと。

「討伐依頼系の試験官はその危険度から試験官に該当ランクの冒険者に依頼されることが多いです、今回のように」

「なるほど、ではよろしくお願いしますね?」

「お前らなら心配するようなこと自体無いだろうから安心してるぞ、よろしくな」

 ニコルにケインが挨拶をしてくる、ガデムは後ろでミラにちょっとお説教されているようだ。

「ではさっそく出発しますがケインさん方は馬車の方は?」

「僕らは自前で行けるよ、じゃあ出発としよう」

 と簡単なやり取りを交わしさっそく出発する2つのパーティ。

 せっかくなので何かトラブルでも起きたらいいのにな~って思う俺。

 楽しいハイキングになるといいな。


 タークを出発して北にあるオタク山の麓にある村オタク村で一晩過ごす。

 オタク村はその名の通り・・・という感じの特徴などは特に無く、なぜこのような名前になったのかは村人に訊いてもよくわからないとの事。

 まぁちょっと気になっただけだしどうでもいいんだけどね。

 そういやこの村の近くになんかの神様を祭ってる神殿があったそうな、今は廃れて人も寄り付かないそうだから無理に観に行く必要もないかな。



 翌朝、登山開始となる。

 何やら”ファルシオン”メンバーに比べると”ハモニアの剣”のメンツの装備というか持ち物の量が異様に多い気がする・・・そんなに持ち物持ってて戦闘とか大丈夫なんだろうか?

「おいおいおい!お前たちちゃんと登山用の準備してきてないのか?」

 ガデムが質問してくる。

「いえ、僕達は1人2袋ずつ兄さんが容量拡大をかけた道具袋を所持してますので・・・手荷物は少なくて済むんですよ」

「彼は魔道具を自前で創ってたのか!しかも一人二つということは12袋も!」

 ケインが驚きながら数を数える、因みにテレ-ズはオタク村で留守番してもらってる。

「そうですよ?兄さんの保有魔力は尋常ではなかったですから」

 ニコルがケインにそう返答する。

「彼は剣士だと思っていたが」

「実際にほとんど剣での戦闘しかしてませんでしたしね、態々魔法で戦うより剣で斬ったほうが早いって人でしたから」

 まぁファルシオンで切った方がお得だからね。

「魔倫会は勿体ないことを平気でしてしまったようだな、もし国が彼の価値を知っていれば・・・いや、もう遅いか」

 ケインが首を振って溜息を吐く、その荷物重そうだもんね。

「とりあえず登っていきましょう、どのあたりからロックリザードが出るんでしょうか?」

「ギルドで軽く調べたけど、一時間くらい登れば生息域に着くらしいわね」

「そうですか、では最後に確認しておきますが、ロックリザードは岩などに擬態しその硬さも岩並だそうです。そんな体に似合わず敏捷性が高く油断していい相手ではないので気を付けてください」

「了解」×4

 返事を耳にしたニコルを先頭に登山が開始される。

 ニコル先頭って絵的に子供を囮にしてるように見えてやばいな。

 因みにオタク山の標高は?って聞いたら標高って何でしょう?って返されたので聞くことを諦めたことを報告しておこう。

 富士山より低いと思うよってことだけ言っておく、ついでに山脈みたいに山と山が連なってる感じの山だね。



『ニコル』

 しばらく一行が歩いていたのだが、不意に俺がニコルにだけ聞こえるように声をかける。

「はい、どうしました?」

 ニコルも小声で話す。

『そこの岩、多分標的だ』

 進行先にある少し大きめの岩をニコルが凝視する。

「分かりました」

 と一言返事をしたニコルが腰に差したファルシオンを抜き駆け出す。

 因みにファルシオンをもって”抜刀”と唱えなくてもファルシオンを使うだけなら普通に鞘から抜くだけで使えたりする。

 と説明してる間にニコルが岩に擬態していたロックリザードを真っ二つにしていた、じっとしていてくれるならタダの的だなこいつら。

「おいおいおい!よく見破ったな」

「はい、何となく違和感を感じたので斬ってみました」

 違和感感じて岩をきる・・・話だけなら頭おかしい人だな。

「この調子ならすぐ終わりそうね、というかニコルだけで充分なんじゃないかしら」

 パーティ内で最も体力のないサラが愚痴る、ニナたちがフォローを入れているが確かにこれならニコルだけで充分だよね。

 討伐証明の部位を回収してロックリザードの死体を回収しておく、いつ使うかわかんないし、肉はおいしいらしいし。

 ある程度歩いていくとロックリザードとは別の魔物に出くわす、というより見つける。

 額に一本の刃物のような角を持つ大型犬、遠目にはブレードドックかと思ってたけどそれよか一回り大きいそいつが10匹ほどの群れでこちらに向かってきていた。

「おいおいおい!ブレードウルフの群れかよ」

 ブレードウルフ・・・個体としてのランクはDランクであるが常に群れを作っており群れの大きさによってC~Bにまで変動することまである魔物である、今回の群れは割かし少ない方のようなのでCランク相当だろう。

 慌ててみんなが構える、ニコルも。

「”抜刀”」

 全身を赤い鎧が覆う。

 この時点で蹂躙されることが決まったブレードウルフに俺は健闘を祈ることにした・・・。

 数分後。

「おいおいおい!一方的な展開だったじゃねえか!」

 ガデムが興奮しているのか無駄にうるさい。

「しかし坊主がさっき着てた鎧はなんだ?着脱が異常に早かったな?」

「兄の形見です」

 短く返事するニコル、ガデムは空気を読むかのように黙る、と見せかけて。

「あんな重そうな鎧着てながら一瞬で3匹の首を飛ばすとか、坊主はこないだの盗賊どもを片付けたときもそうだが、見た目に完全に騙されるな!」

 がっはっはっはっとつなげるガデム、まぁ見た目で騙された連中は次の瞬間には・・・次の無い状態になってるなきっと。

 因みにブレードウルフの群れは最初に跳びかかってきた3匹をニコルが一太刀で首を飛ばし返す刃で2匹仕留めた時点でリーダーなのだろう個体の一吠えで逃げていった。

「さて、進みましょうか?」

 事も無げにニコルが進み始める、まぁ今のニコルからしたら大したことじゃないしね。



「これで8匹目ですね、皆さんの方はどうなっているのでしょうか?」

 その後、開けた石切り場のような場所に出たのでロックリザードを探すとそこら辺のいたる所にいたので手分けして狩ることにしたのだが。

「ウチらは今さっき4匹目~」

「硬いけど~雪鱗ちゃんの~槍なら~簡単に貫けるみたいで~楽だったよ~」

 雪鱗・ライカペアは問題なく狩れてたようだ、因みに雪鱗の槍は雷凄から貰った素材で強化してある、おかげですごく鋭くなっている上に魔力を送ると電撃を放つことができる。

「あたしたちは3匹~サラがばてちゃった」

「ニナの攻撃が通らないから私が頑張ったのにその言い用は無いんじゃないかしら?」

「うっ・・・ごめんにゃさい」

 ニア・サラペアはなんとか3匹仕留めてきたようだ、これで合計15匹になったのでとっくに依頼自体は終了である。

「それにしても、ロックリザードってこうやって擬態してほとんど動かないから別に害があるって感じでもないよね?」

 雪鱗が疑問を口にすると。

「それがね、ロックリザードって数が増え過ぎると近くの岩とか鉱物が多いところにある程度の数が移動して住処を移すの」

 サラが説明し始める。

「ふんふん」

 雪鱗が相槌を打つ。

「それで、麓のオタク村の壁にもたくさんの岩を使用しているから、いつの間にか壁がロックリザードで溢れてることがあったんだそうよ」

「ふえっ!」

 そいつぁ大変だ!ニコルよ、根こそぎ狩ってしまおう!

「でも狩りすぎて山の生態崩してもいけないから、今回はこのくらいにしてかえらない?」

 とサラが提案する、実際山を下ったら丁度日が落ちるくらいかな?って時間ではあるのでいいタイミングの提案ではあるな。

「そうですね、この辺りで切り上げて明日ギルドに報告しておきましょう」

 とニコルの言葉に全員賛成し下山を始める。

 俺はふと空を見て考える。

 あの飛んでるでっかいのって何なんだろうかなって。

『ニコルさん、ニコルさん』

「なんですか?サン付けなんかして」

『あのでっかいのって何だろね、上上空』

 ニコルはそれを聞いて上を見る。

「なんでしょうね?そこまで高く飛んでるわけじゃないみたいですけど」

「どうしたの~ニコル君~」

 上を見上げ立ち止まるニコルに後ろにいたライカが話しかける。

「いえ、今空を見上げたら見慣れない飛行物を見つけたのでなんだろうと思い見ていたのです」

「あれのこと~?なんだろうね~」

 ライカも見つけたようで見上げていると、みんなしてそれを見上げる。

 ”ハモニアの剣”のミシェルが顔色を変える。

「・・・あれ、竜・・・赤い竜」

 と呟く、”ハモニアの剣”のメンバーとニコルを除いた”ファルシオン”メンバーの顔色が変わる。

「おや?火を噴いたみたいですね、何かと闘ってるんでしょうか?」

 一人冷静なニコルが実況を始めようとしている、あっほんとだなんかちっこいのが竜の周りを旋回してる・・・鳥かな?

「とりあえず関わっても得することもなさそうですしさっさと下りましょう」

 というニコルの提案に全員が賛成しニコルを急かす様に下山していった。

 オタク村に着いた一行は村の責任者に山で竜を見たとだけ報告し不安に駆られながらもオタク村で一夜を明かすことにしたのだった。

『それにしても』

「どうしました?兄さん」

『あの竜を追い詰めてた奴の方は気にならないのかね?皆は』

「ああ、”ブレス”外してましたね」

 そう、竜は例外なく口から放たれる属性攻撃、総称”ブレス”が最強の攻撃で切り札である、その攻撃は外した時のリスクが大きいために使うのはとどめの一撃かよほど追い詰められているときにしか使わない。

 そして、この”ブレス”が外れたということはそれだけ追い詰められていたのか、若い個体が調子に乗って外したのか。

 いずれにしても相手が余裕を持っている状態で撃たされた以上あの竜がどうなったのかは、まぁどうでもいいかな・・・そんな事。

 次の日の早朝。

『ニコルよ』

「なんです、兄さん?」

『昨日の竜の素材が欲しいかも』

「じゃあ探しに行きますか?」

『うむ』

「他に皆さんはどうしましょうか?」

『ギルドに依頼終了の報告をしてもらえばいいだろ、俺らは後で合流したらいい』

「ではそうしましょう」

 というやり取りの後、ニコルがサラたちを説得して赤竜捜索に出かける。

 因みに。

「一人で赤竜討伐でもする気なの?」

 というサラの質問にニコルは。

「兄さんもほぼ一人で雷凄を押えましたし、兄さんに追いつくためにも竜の1匹や2匹軽く相手に出来なきゃいけません」

 という言葉を放ち、サラは何言っても屁理屈で返してくると説得を諦めたようだった。



 というわけで現在、昨日竜を見上げた場所まで到着した。

 今回はニコルだけである為かなり早い到着となった。

『さて、どこにいるかね?』

「探せるんですか?」

『俺の探知範囲には引っ掛からんな』

「そうですか」

 しくじったな~ワン太郎辺りを連れて来とくべきだったかな?

『とりあえず奥にでも行くか』

「そうですね」

 こうしてニコルはどんどん山を登っていく事になった。



 一時間ほどオタク山を登っていると途中様々な魔物に歓迎されたのでレッドアーマーを常時纏いながら登るように指示を出す、この鎧纏っておけば体重も若干軽くなるし丁度いいだろう。

 更に登っていくニコル、と少し開けた場所に出る。

 どうも最近開けたようだ、広場は横に長く広がっており今通っている道に対して丁度十時になるように広がっている・・・まぁ何かでかい物が高速で転げ落ちたんだろうな。

 倒れている木の流れに沿って視線を向けていくとその先には、昨日見た赤い竜の成れの果てが転がっていた。

『死んでたか、まぁ当然だよな』

「昨日見たのが何らかの戦闘だったら敗戦色が濃厚でしたからね」

 負けてることは予想していたので死んでいるだろうとは思っていたのだが、思ったよりも残骸が残っているようだ。

 というか深い傷やらはあるが無くなってる部分がほとんど無く、傷なんかに目をつむれば綺麗な状態で死んでいた・・・血みどろで汚いけどね、まぁ赤竜の死体が放つ異臭は鎧が遮断してるからニコルに影響ないけど。

『何が目当てでこいつを殺したんだろうな?』

「分かりません、もしかしたら近くに巣でもあるんじゃないですか?」

『卵とか財宝狙いか・・・それなら分からんでもないがな、勿体なく感じるのは貧乏性だからかな?』

「常識を僕達に合わせるからそう思うんじゃないですか?きっと僕達と違い大容量袋を持って無かったから持ち帰れる分だけにしたんじゃないでしょうか?」

 そんなもんかもね。

『ところでニコルよ』

「なんです兄さん?」

『その袋の名前呼びやすい奴にしたいな~って思うんだがどうかな?』

「そうですか、何か候補でもありますか?」

『とりあえず見た目のサイズでアイテムポーチ、略してアイポでいこう』

「略するんですか?」

『いいじゃん、ギャル風にIPって名前にするか?』

「ギャル風?・・・アイポでいきましょう」

 等とくだらない話をしながらも竜の死体に近づいていくニコル。

 目の前まで近づいて一言。

「さすがに大きいですね、竜とはいえこんな大きな肉の塊に魔物たちはなぜ群がらなかったのでしょうか?」

『さっき結界みたいのが張られてたから、それのせいだろ?』

「へっ?」

 ニコルが間抜けな声を出す、珍しいな録音しとくべきだった・・・無理だけど。

「お前!それは俺が仕留めた得物だぞ、そもそも俺が張って置いた術をどうやって見破った!」

「へっ?」

 鎧の効果で結界を勝手に見破っていたのさニコル、まだまだ甘いな!

 ニコルが声のした方にふりかえるとそこにいたのは。

 黒い髪を伸ばし大きな目にある金色の瞳は縦に切れ長になっていて、肌は健康的に日に焼けている、耳は長く先がとがっており頭から羊の角みたいのが2本生え、何らかの革で出来てるライダースーツみたいな服を身に着けた青年が腕を組んで立っていた。

 気になるのは青年の両肩辺りに剣みたいなのが浮いている。

『昨日、上空でこいつと闘ってたのは君か?』

 なるべくニコルっぽく質問してみる、兜で口元隠されてるから俺がしゃべっても問題なし・・・多分。

「そいつは昨日俺に絡んできたから叩きのめしてやったんだが、加減を間違っちまってな」

『それで倒したと、なぜ放置してたんだ?』

 とりあえず質問には答えてくれるようだ、どんどん質問してみる。

「とりあえず食べる分だけ切り取って食っているんだ、だがこの分では食い切る前に腐るのが早いだろう」

『それならこいつを俺にくれないか?』

 とりあえず無茶だが提案をしてみる。

「ただでやるのは嫌だな、何か寄越せ」

 交渉自体はできそうだ、あげるならあれでいいかな?

『ニコル、アイポを作る』

 その言葉にニコルは頷くと、ただの道具袋を取り出す。

『”ペースト”』

 俺の中にある術式をそのまま道具袋に付与する、アイポの完成だ。

『この道具袋、名をアイポというんだがこいつは見た目と違いその口に入る物なら家一軒分まで収納可能な道具袋だ。

 これと交換してくれないか?』

 と竜の死体の所有者に提案する。

「そんな便利なものをくれるのか?胡散臭いな」

 信用されなかった。

「そんな袋よりもその剣をよこせ!」

『殺すぞ?』

「なに?」

 いかん、うっかり本音が漏れた。

『この剣は大事なものだから無理だ』

「ならその竜はやらん、他を当たれ」

 このガキ・・・ガキかどうかは知らんけど。

 もういいか、こいつやっちゃおう。

 ここならこないだの魔倫会みたいなことにならないだろうし・・・。

 そうだ、先に確認しておくかな。

『お前の所属を訊いていいか?』

「なんだよ、所属?そんなもの無いな!」

『なるほど、ならこの剣を受け取れ』

 というとニコルに俺を投げ渡すよう指示する。

「なんだ、くれるんならさっさとすればよかったんだ」

 俺をキャッチしたそいつはそう喋る。

「ではこの竜は僕がいただきますね」

 とニコルが言うと。

「やるとは一言も言ってないだろう?」

 竜の所有者が口の端を吊り上げあざ笑うようにそう言いだす。

「お前がここで死ねば、ここにあるものすべて俺の物だ!」

 言い終わる前にニコルに跳びかかろうとした竜の所有者、だが。

『そんな奴だと思ってた”ソウルイーター”』

 ニコルにたどり着く前に俺ことファルシオンから棘を伸ばし額を貫く。

 まともに戦ってたらお互い無事じゃすまないと思っていたので騙しあいをすることにしたが、まぁ剣が意志を持ってるとは思わなかったようだな。

『一丁あがりだな』

「ですね」

 ニコルとこいつの戦闘シーンも見て見たい気がしたけどリスクを回避できるならそうしたほうがいいだろ?さてと・・・。

『ニコル、こいつから鎧に吸収してくれ』

「はい”納刀”」

『えっ?』

 ニコルがいきなり俺を鞘に納める、

「これは・・・竜の死骸の匂いでくらくらしますね、軽く吐き気を感じます」

 なんで鎧脱いだの?

 等と思ったが、まぁニコルなりに何か考えでもあるんだろうな。

『なんで脱いだ?』

 でも聞いてく俺。

「鎧の強化された姿を兄さんにイメージしてほしかったので、おぇ」

 なんていい子なんだニコルは、えづき始めたけど。

 ニコルが鞘に包まれた俺を拾うと鞘の先を竜の所有者の頭の上にのせ。

「”吸収強化”」

 を唱える、鞘は俺の”オールイーター”と違いストローで吸い上げるように死体を吸収していく。

 所有者を吸収し次は赤竜の死体だ。

 赤竜の死体に近づくと強烈な死臭?まぁ異臭がニコルを襲う、まだ死んで一日たってるか経ってないかなのにここまで異臭がするのっておかしいんじゃないかな?

 まぁいいか、このままじゃニコルがダウンしかねないし。

『”アッパーウィンド”』

 名前を適当に付けて魔力で軽めの上昇気流を作る、これで匂いが吹き飛んだらいいな。

「助かります、少し楽になりました」

『ならよし、さっさと処理するぞ』

「はい、”吸収強化”」

 鞘が赤竜の死体を吸収していく。

『では・・・どうしよう』

「鎧単体の姿にはできないのですか?」

『レッドの声とニコルの声しか登録してなかったからな~、マスター権限でどうにかしてみるかな?・・・よし、”抜刀”』

 どうにかなった、後でまたロックしとかないとね・・・ワードに気を付けてしゃべるの嫌だし。

 俺の”抜刀”に鞘が反応し俺の視界を目に見立てて鎧が組み上がっていく、俺はニコルを正面から見るように視界を置いていたのでニコルもビビったし俺もビビった。

「突然目の前で鎧が形成されてびっくりしましたよ」

『俺も突然鞘が形状変化しながら迫ってきて心臓止まるかと思った・・・心臓ないけど』

 とりあえず組み上がった鎧を見る、因みに視界を動かしても鎧はついてこないで視界のみが移動できた、おかげで俺も鎧の全体像が見れるようで何よりだ。

「これが兄さんがイメージした新たな姿ですか」

 軽く溜息を吐くニコル、見た目嫌だったのかな?

 因みに全体のベースは赤色だ。

 兜はこめかみ部分には立派な羊の角が生え、視界を大きく確保するために目の部分は露出が大きいのだがゴーグルのような透明な板が目をしっかりガードするように張られており真ん中から開閉できるファイスガードと首を守るために後頭部部分からもみ上げにかけて赤い頭髪のような細い鋼糸が胸まで伸びている。

 胴体部から手足の先までは以前同様にフルプレート仕様なのだが素材のおかげか見た目がすっきりとしてカニアーマーの頃の鈍重そうなイメージが掻き消えている。

 そして大きな変更点は背中に広がるロングソードで型造った翼である。

「兄さん、これはなんでしょうか?翼のように見えますが」

『その通り翼だ、ドラゴンの翼をモチーフに刃で再現してみた、こちら側からだと銀色だが後ろから見たら赤色になっているぞ』

「飾りに力を入れましたね・・・」

 ニコルが溜息をまた吐く、ふっ甘いなニコル!

『ちゃんと飛べるんだぞ?』

「へっ?」

 ニコルが目をパチクリさせる。

『さっき殺したやつの記憶を見たんだが、どうも両肩辺りに浮いてた剣みたいなのが奴の翼だったようでな。

 あれを参考にしてこの翼を作ってみた』

「あれって翼!・・・それで昨日空中戦ができてたんですね」

『そういう事だ、まぁ実際は鎧全体に飛行の魔術がかかってるから飾りって言われてもしょうがないけど』

「それじゃあ、この翼はいらないじゃないですか!」

『あの翼は着脱自由で一本一本の剣を自由自在に動かせるとしたらどうだ?』

「すごいですけど、扱いきれる気がしないですね」

『そこで、お前と俺の間に思考の共有を持とうと思う、戦闘中だけ表面的な思考を読み取る程度のものだが、それがあれば俺も剣翼を操ることも可能だ。

 お前の思考を読み取り、俺が剣翼を操ればお前一人で戦力が数倍化するだろう』

「とてつもないですね」

『問題は』

「問題は?」

 非常に大きな問題なのだが、これは今気づいた盲点になる。

『ここまでの装備をしておきながら俺たちは倒すべき敵、目標となるモノがいないってことだな』

「由々しき事態ですね」

 ニコルはあの歳で理解してるのか!

 向ける相手の無い力は錆びるか暴発する、よく熟れた果実も出荷されねば腐ってゴミになるし、種がなければ・・・腐ってゴミになる。

 抑止力無き圧倒的力を持つ者に人は恐怖し、その者が寛容だとその者に対して攻撃的になる・・・大概は。

『まぁ使いどころがあまり無さそうだし、そうだな・・・今度から”抜刀”時にタイプ名を付けるようにしてくれ。

 タイプ名はカニアーマーとシャイターンだ』

「シャイ?カニアーマーは分かるんですがシャイターンとは何ですか?」

 ふむ?説明してなかったか。

『さっきの奴デモン種かと思ってたけど受肉した悪魔らしいぞ?

 悪魔のくせに魂喰われるとかダサいよな』

「笑い事じゃない気がしますけど、僕ってかなり生命の危機にあったんじゃないですか?」

『済んだことだし問題ないだろう?』

「そうですね」

 よく思うけどニコルって淡泊だよね、実際危なかったことは危なかった。

 実は”ソウルイーター”に若干抵抗されたことは黙っておこう、結局分解しちゃったし。

「ただ、悪魔の名前を言うのはあまりよくないことを招きそうなので」

『じゃあもう一つのタイプドランも追加しよう』

 と俺が言うとシャイターンタイプの鎧の兜と翼部分の形が変わっていく。

 兜の形状が口を開けた竜の頭のようになりこめかみで巻いていた角は天に向かって伸び、翼は蝙蝠の翼ような竜翼のそれへと形状を変える。

『これで3タイプだな、今度から”抜刀”の後にカニかドランかシャイたんって付け加えるようにな?』

 シャイたんって、我ながらいいネーミングセンスじゃないか・・・しまった!カニたんドラたんでもよかった!

「・・・”納刀”」

 ニコルが鎧を鞘に戻し、

「そろそろ帰りましょう”抜刀””ドラン”」

 ドランタイプにすると。

「飛んでタークまで戻ろうと思いますが、飛行するにはどうしたらいいでしょうか?」

 いきなり飛ぶ気か、チャレンジャーだね~。

『問題ない、ドランとシャイたんを選んだ場合自動的に俺との意識の共有化が起きるようにしてある。

 お前の意志道理に飛べるぞ・・・ドランとシャイたんでは飛び方とか全然違っちゃうけど』

「分かりました」

 ニコルは返事と共に駆け出し思いっきりジャンプする、重さとか魔力で誤魔化してるとはいえ跳躍で5メートルほど跳びあがる・・・ニコルも十分おかしい領域に至りだしているようだ。

 スピードが落ちる前に背中の竜翼が羽ばたきだすこの翼は可動式なのよ。

 さて、日が沈む前にタークに着くかね?

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