新たな旅路
~89
「その剣の調査?私の知り合いにいい腕の錬金術師がいるのだ!」
話の誘導によって違和感なくテレ-ズにこの言葉を言わせるシチュエーションを作ることができた・・・まぁ俺は一切喋ってないけど、剣だし。
「ではその錬金術師の所まで案内頼めますか?」
「いいけど遠いのだ」
「ここから馬車でどのくらいですか?」
「街道沿いを走って国境を越えて~だから2週間ちょいくらいなのだ!」
ここで衝撃に事実が浮上した、国境越えるのか・・・飛んでたから国境越えてたの知らんかったわ。
「それではこれから錬金術師の許に行くメンバーを決めたいと思います」
ニコルが話を進めていく、そりゃ意外と遠いことがわかったからね。
「まずはテレ-ズさんは道案内があるので同行してもらいます」
「よろしくなのだ」
テレ-ズが挨拶する。
「次に”ファルシオン”メンバーですが・・・同行したい人のみ挙手をお願いします」
ニコルがそういうとメンバーは全員手を挙げる。
「こんな時に~仲間外れは~嫌ですよ~」
「分かりました、ではこの僕も含めテレ-ズさん、サラさん、ニナさん、ライカさん、雪鱗さんの7人ですね」
「ワンツーサン太郎や雷凄はどうする気?」
サラが訪ねる。
「今回もワンツーサン太郎は連れていきますが雷凄はここの守りがあるのでお留守番ですね」
「そう、分かったわ」
これでメンバーは決まったので次は大まかな予定だ。
アジトに簡単なこの大陸の地図があったので広げてルートの説明に入る。
「ここがケイベルでこの街道を北上していくとシーフォートなのだ」
とテレ-ズが俺から教わった道順を大まかに説明してゆく。
因みに道順というか経由していく街順というべきなのかな?
まずはケイベルから出て北上しシーフォートまで5日、シーフォートから西に向かい1、2個小さな村を経由してタークという町に着くまでに7日、タークから北上し関所まで2日。
そこから神聖ハーモニア王国の領土に入るのだが、そこから北に行きセイムという町に着くまでに3日、セイムの近くの森の奥に1日くらい歩いたところに俺を剣の素材にしやがったアーノルドの拠点の研究所がある。
まずは5日分の準備を進める。
おもむろにニコルが”抜刀”する。
「明日出発する事にします、では出発するメンバーは今日の内に”ソウルブリーダー”を受けてください」
ニコルの言葉に”ファルシオン”メンバーの雪鱗以外は固まる、雪鱗は”ソウルブリーダー”のことは知らないのでしょうがない。
「ニコル!あなたあれを完璧に使うことができるの?」
サラが質問をする、まぁ失敗したらどうなるかは説明してあるから完璧じゃないと使ってほしくないわな。
「可能です、兄さんから使い方などは完ぺきに仕込まれてます」
これは嘘だが、まぁ使うのは俺ことファルシオンだからな問題ない。
「でもリスクが」
「大丈夫です、もう施術は終わりました」
「えっ?」
うん、全員が固まった瞬間に終わらせといた。
ニコルがファルシオンを腰に当てて”納刀”する。
「大丈夫だったでしょう?テレ-ズさんには案内中に動けなくなられては困るので無しということでお願いします」
「構わないのだ」
そしてニコルは外に行きワンツーサン太郎にも”ソウルブリーダー”をかけていく、今回の旅路は早めに進めれば20日前後にはつくのだが町に着くたびに”ソウルブリーダー”をかける予定なのでおそらく30日、一月はかかることだろう。
それにしても俺ってすごいスピードで飛んでたみたいね・・・約20日って、まぁいいんだけどね。
時は移って数日後。
「なんか久しぶりね、この町に来るのは」
サラがそんなことを言うと。
「それは以前ここから出発したのが約一月前になりますからね」
とニコルが応える、そう今俺たちはこの港町、シーフォートに就いたばかりなのである。
ケイベルから出て特に問題らしい問題も起きなかったため滞りなくシーフォートに着いたのだ。
「では僕は依頼の品をシーフォートの冒険者ギルドに届けて来ますので皆さんは宿の方をお願いします」
「分かったわ」
サラが返事をするのを確認してニコルは歩きだす。
因みに依頼とは小包なんかをケイベルからシーフォートに届けてくれってのを3、4個請け負った依頼だ。
「はい、確かに確認いたしました・・・こちらが報酬となります」
報酬を受け取るとニコルは今終わらせた依頼に似たようなものがないかを訊いてみる。
「そうですね・・・今はその手の仕事は無いみたいです」
「そうですか、明後日この町を立つ予定なのでその時にまた確認に来ますね」
「はい、お待ちしておりますね」
そういってギルドを後にしようとしてニコルの前に立ちふさがる輩が現れる。
「おーおーかわいいお嬢ちゃんがこんなところでお使いかい?ちょっとおじさんたちについて来いよ」
チンピラが湧きだした・・・。
というかこいつら正気か?こう見えてニコルってば男だぞ!
確かに見た目はショートカットでかわいい顔、13間近で身長は150ほど体格は男にしては華奢に見える、手足も割かし細い・・・。
ボーイッシュな女の子って思われても仕方ないな、すまんなチンピラ俺の眼が腐ってたようだ・・・目ん玉ないけど。
「僕は男ですが?あなたは頭と目が腐ってるようですから医者に見てもらってはどうですか?その金額くらい恵んでやりますよ」
おぅ、この子ったら俺が止めないと喧嘩っ早いのね・・・知ってたけど。
「上等だこら!その喧嘩買ったぞ、裏来いこら!」
騒ぎ出したチンピラにまわりにいた暇そうなチンピラ・・・じゃなかった冒険者たちが好奇心からか煽りだす。
「お嬢ちゃん負けんなよー」
「そんなガキやっちまえー」
など言って囃し立てる、一々人の野次なんか聞いてても面白くないのだが。
冒険者ギルドの裏には練兵場が設置されている、これは傭兵斡旋していたころの名残らしいが、そこにニコルとチンピラとチンピラの仲間たちが対峙していた。
「僕一人に恥ずかしくないんですか?」
「あ?そんな事言っても負け惜しみにしか聞こえねーな?ぎゃっはっはっは」
「いえ、僕一人にこの程度の数で勝てると勘違いするなんて生きてて恥ずかしくないんですか?って聞いてるんですよ?」
チンピラたちは唖然とする、こいつは何を言ってるんだと?
思考が一瞬止まってしまっているチンピラたちを見逃してあげるほどニコルは優しくない・・・俺は待ってあげるぞ?優しいからな。
一足飛びで一番前にいたニコルに絡んできたチンピラに開いたままの手の裏側で顎を弾く、裏拳にしないんだな~っのが俺の感想。
その一撃で意識を刈られたチンピラを双掌打の要領で吹き飛ばし後ろにいた2人も纏めて吹き飛ぶ。
あまりの出来事に頭が追い付かないのか、まだ唖然としているチンピラたちに対するニコルの攻撃は止まらない。
纏めて飛ばした為、左右に分断されたチンピラたち、左に2人右に3人。
まず左の二人にニコルが鋭い足払いをかける、勢いが凄まじく頭から着地したチンピラの踵が地面に落ちた瞬間に、いつ跳躍したかわからないが降りてきたニコルの両足がチンピラたち2人の腹に突き刺さる。
ようやく我に返った右のチンピラたちがニコルに意識を向けるが既にチンピラの腹の上にはおらず右の3人中2人がきょろきょろしているが3人のうちの1人の膝が崩れて倒れた時にニコルがどこで何をしていたか知る。
崩れ落ちたチンピラの腹があった場所に突き出された肘の残像を視認した2人だったがその直後にニコルより放たれた廻し蹴りが2人の顎を的確にとらえ2人とも沈む。
ようやく最初に飛ばされたチンピラをどけて立ち上がろうとして両手をついた2人のチンピラだったが立ち上がれたのは1人だった。
なぜ立たなかったのか、答えはそのチンピラの前に立つニコルが立てなかったチンピラの上に飛び乗ったからである。
「ひっ」
チンピラは戦慄していた、時間にしては10秒かかったかかからないかのやり取りであったのだがチンピラからしたら一瞬のやり取りである。
「それで?あなたはどうします?」
ニコルがにこやかな笑みを向けて質問をすると、
「こっ降参だ!俺一人で勝てるわけがねぇ」
「こんな子供に敗けを認めると?」
ニコルの質問に膝を崩し地面に座り込み頭を下げて、土下座スタイルで。
「お前を馬鹿にしたのは謝るから!どうか許してくげっ」
最後まで喋る前にニコルがチンピラの頭を横から蹴り上げる。
「ゴミが」
吐き捨てるように言うニコルにまわりの冒険者たちは戦慄していた、確かに素行の悪いチンピラたちとはいえ・・・あんなに必死で謝る者を蹴り上げあまつさえ「ゴミが」と吐き捨てたこの子供に得体のしれない恐怖に似た感情が冒険者たちには生まれていた。
そして俺も若干引いている、ニコル恐ろしい子・・・。
まぁ土下座しながら刃物用意してたのバレバレだったからいいけどね。
「さて、宿に行きますか」
とニコルが歩き出す・・・途中に転がっていたチンピラの腹を蹴り上げて落ちてきたところに廻し蹴りをかます曲芸を披露していた。
ニコルは怒らせると怖いなぁ・・・気を付けよ。
あれから4日後、シーフォートを出て2日目のことである。
「今日の昼くらいには村が見えるはずだから今日はそこに泊まるのだ」
案内のテレ-ズがそう提案する。
「よらなければいけないんですか?」
「よらなければいけないのだ」
「テレ-ズ、なんでなのか理由を聞いてもいいかしら?」
サラがテレ-ズに理由を聞く、ニコルは笑顔だ。
「次の村からしばらく行くと戦場跡地があるのだ、そこは夜になるとアンデットが沸くため村を出るなら明け方じゃないと色々しんどいのだ」
なるほど、一晩寝ないで戦闘三昧はさすがにきついし、実は俺もアンデットと闘えるか不安もあったりする。
”ソウルイーター”は効くかわかんないからな・・・いや、意外とかなり効きがいいかもレイス系とか斬れるかわかんないけど。
「まぁあんにゃい役の言葉を尊重していいんじゃにゃい?急ぐ旅って訳じゃにゃいし」
「そうですね~観光も大事ですよね~」
ニナとライカはテレ-ズに賛成。
「焦ってもしょうがないってことですね、サラさん雪鱗さんはどうですか?」
ニコルも賛成なようだ。
「私も異存はないわね」
「・・・」
「雪鱗さん?」
雪鱗は固まっていた・・・。
「お化け・・・苦手なんですね・・・」
ニコルが溜息と共に呟く、色白の頬を真っ赤に染めて。
「苦手なものはしょうがないじゃん」
どうやら一晩中アンデットと戯れる自分を想像して固まっていたらしい。
「それじゃあここで一晩泊りましょう」
いつの間にか村についていたようだ、そういえば。
「テレ-ズ、ここの村の名前はなんていうのかしら?」
うん、俺も気になった。
そんな村を早朝出発して昼過ぎに戦場跡地を抜ける・・・村の名前?そんなもの無かったんだ!やめておけ、死にたいのか!
なんてどうでもいいので村の名前を言ってしまうとキタク村だそうだ。
で次の村の名前がジタク村、ネーミングセンスが・・・いや、言うまい。
野盗やブレードドックなどと何度かエンカウントしたが特に損害もなく、日に日に成長してるんだねって俺も安心してみてられた、ようやくチェックポイントの1つタークに着いた。
「日も高いうちについたので宿もとりやすいでしょう」
とニコルが呟くと。
「それじゃあ、あたしたちはちょっと買い物でもしてくるよ」
「宿の方は頼むわね」
「それじゃ~あとでね~」
サラたちが別行動を取ろうとしたのでニコルが慌てて。
「では宿の場所はギルドに聞きに行ってください、僕達はギルドで聞いた宿にいますから!」
と伝えておく、今回はニコル、テレ-ズ、雪鱗の3人でのギルドイベントのようだ。
ギルドイベント?そりゃー毎回入っただけで絡まれるしそう呼んでもいいんじゃないかな。
「おいおいおい!お前ニコル・ファルシオンじゃないか?」
ギルドに入ってしばらくして強面のおっさんが絡んできた、見覚えがあるような無いような。
「お久しぶりですガデムさん」
おお、ガデムじゃないか!覚えてたよちゃんと!・・・ニコルが。
「雪鱗も久しぶりだな、あんたは?」
テレ-ズとは初対面だったな、知り合いだったら面倒だったかも・・・そうでもないか。
「私はテレ-ズなのだ」
「おう、俺はガデムだ!」
お互い自己紹介をする?他のメンバーはどしたの?
「他のやつらは個々に用事に出かけてら、俺は暇だからここで暇つぶしだ」
「そうなんですね、僕達は今日泊まるオススメの宿をギルドに訊きに来たところです」
とお互いの状態を説明する、するとガデムは。
「相変わらずしっかり者だな坊主は、兄貴も見習ったらいいのにな」
と余計なことを言って笑いだす・・・冗談のつもりで言って盛大に地雷踏みよったなこのおっさん。
「しっ師匠は・・・」
「ガデムさんすみませんがその話題は・・・」
「おいおいおい?どうしたんだ二人とも?もしかしてまた大怪我でもしたのか?全くあいつは油断と無茶が多いんだよなぁ、よし!俺が注意ついでに見舞いしてやろう。今どこにいるんだ?あの魔術師の嬢ちゃんたちと一緒か?」
おおい、おっさん!勘弁してくれよ・・・。
「いえ、兄さんは・・・」
「おいおいおい、そんな暗い顔して・・・まさか」
「ししょう・・・死んじゃったんだよーーー!」
大声で泣き始めた雪鱗をテレ-ズが慌てて抱きしめてなだめる。
「おいおいおい・・・何があったんだよ、良ければ聞かせてもらってもいいか?同じ依頼を受けただけの仲だがそれでも一時は戦友だった仲でもあるんだ」
「あまり愉快な話じゃないですよ?」
まぁ愉快じゃないな、俺死んでるし・・・ここにいるけど。
「愉快じゃないのは当然だろう!人の、お前にとっては肉親の死んだ話なんだから・・・話してすっきりできるかもしれないから話してくれ、頼む」
それからニコルも堰を切ったように話し出した、まぁ俺が捕らえられた経緯とかだけだけどね。
「ってことは浜で新術試してるとこを魔術倫理委員会の奴に見られて一方的に因縁つけられて返り討ちにしたら処刑されたってことか!」
「はい、兄さんは新術開発など自分の体でも平気で実験に使う方だったのでそれを見られて起きた事件だったそうです」
「くそ!あんな将来有望な冒険者を気に入らないからって殺しやがって!魔倫会の連中・・・ギルドは静観してたのか?」
「はい・・・おそらく魔倫会と揉めるよりDランク冒険者を切り捨てることを選んだんだと思います、理にはかなっていますよ・・・納得できるかは別として」
とニコルが魔力に殺気を乗せて放出し始める・・・いや殺気が乗ってる感じがするな~って雰囲気だったからノリで言ってみただけだよ?
「おいおいおい落ち着け坊主、すまんなお前に気持ちも考えず俺が感情的になっちまって」
「いえ、いいんです」
「いや、そうもいかん・・・よし今日の晩飯は俺がお前らに奢ってやろう、あいつの追悼も兼ねてだ」
「そんな・・・」
「いいんだ、やらせてくれ・・・あいつのことは嫌いじゃなかったからな、頼むよ」
「分かりました・・・ありがとう・・・ごっございます」
ニコルも感極まってきたのか声を詰まらせ始める・・・ニコルよ、俺はここにいる!って言える雰囲気じゃないのがつらい。
夕方、合流した”ファルシオン”と”ハモニアの剣”のメンツでワイワイと夜を明かした、死んだブレド・ファルシオンを悼んで・・・。
俺は複雑な気分で夜を明かしたがね、遠く日本で俺を思ってくれた奴はいなかっただろうが、こっちの世界でこいつらと知り合って1年どころか”ハモニアの剣”に至っては2週間ほどの付き合いもないのにこんなに悼んでくれる。
うれしいような・・・俺死んだわけじゃないから申し訳ないような・・・。
一言で言うならそうだな。
ごめんね・・・かな?